世界終了
act00少女四人 01 ”奥宮椿”

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淡いベージュ色をしたカーテンの隙間から差し込む、柔らかい朝日。 ちゅんちゅん、なんて平和そのものを表すような雀の声が窓の向こう側から聞こえてくる。そんな日曜日の朝。 あたしは、目覚めたばかりの自分の目を疑った。 「…………え、」 目覚ましが鳴って、眠い中目覚まし止めて、身体を起こす。 ここまではいつもの朝と同じ。部屋の様子も、昨夜寝る前に見たものと同じだった。 …――ただ一点を除いて。 自分がいるベッドの真横の壁に、黒い丸が。 あれ、これって最近どこかで見たような。 そう、テレビの中でここ毎日飽きるほど見てる……。 「う、ええぇえぇぇええっ!?」 「椿どうした!」 あたしの叫び声から一秒もしない内に、穴が空くんじゃないかと思う勢いでドアが開いて人が飛び込んできた。 下は学校のジャージ、上はボタン全開のパジャマ。着替えてた途中であろう格好の兄があたしの肩を掴んだ。それはもう、この世の終わりを聞いたかのような凄い形相で。 「どうした不審者か!?覗かれたか!?」 「えっ違う!大丈夫!!前のボタン閉めて!」 兄とはいえ男性の半裸を至近距離で見せられるのはちょっと恥ずかしいのでやめてほしい! はっ、とした兄は「すまん……」と言いながらボタンを閉める。 その作業のお陰で、気持ち少し落ち着いたようだった。 「で、一体どうしたんだ?変な夢でも見たのか?兄ちゃんが抱きしめてやろうかっ!」 「全くもって落ち着いてねぇ!やめて!!」 「そんな力強く拒否しなくても…!少し前なら喜んでやってって言ってたのに……!」 「何年前の話!?それよりさっきのはほら、そこの壁に……!」 「……壁に?」 兄の視線はあたしが指差した場所へと誘導された。そこに見えてるのは、見つめ続けると吸い込まれそうなほどの存在感を出している黒い空間。 だけど、しっかりとそこを見てるはずなのに兄はきょとんとした表情でもう一度、「壁に?」と尋ねてくる。思わず「え、」と声を出してしまった。 兄は驚いた様子もなく、ただただ首を傾げて不思議そうにあたしを見てるだけだった。 心がざわつく。 「く、黒いの、ない……?」 「黒いの……?黒光りしてカサカサ動く奴か!!安心しろ兄ちゃんが探して退治してやる!」 「それじゃない!あとあたし自力で倒せる!」 「うわ俺の妹強い! ……? 違うなら本当にどうした?」 「………えーっと…」 見えて、ないんだろうか。こんなにはっきりとあるのに。あたしには見えているのに。 言葉につまるあたしに対して、もう一度「どうした?」と優しく声をかけてくる。 「ご、めん。鳥か何かの影だった…と思う!ほら、寝惚けたから」 「……そっか。ならいいな!じゃあ兄ちゃんは部活あるからもう準備して行くな」 「うん…いってらっしゃい」 兄はまだ心配げな表情のまま、あたしの頭を撫でて部屋を出て行った。 明らか、あたしが変に誤魔化したのはばれてそうだから部活から帰ってきたらそれとなく聞かれるんだろうな。 でも……見えてなさそうな人にどう説明したらいいのか……。 じっ、と横の壁に出来た真っ黒い空間……と言うより、穴を見つめる。大きさと言えば半径六十センチぐらいの丸を少し縦長にした感じだった。 まだ布団の中にいる下半身を出して、黒い空間の前に座り直す。さっきまで兄と騒いでいたからか部屋が妙に静かに感じて、自分の体重でぎしっとスプリングが軋む音が少し恐かった。 テレビでは、黒い空間に近付いた人は気絶したと言っていた。あたしと黒い穴との距離は腕をまっすぐ伸ばせば簡単に届いてしまう。 もし、これが本当に世界中を騒がせている黒い空間だとしたら……あたしは今、物凄く危険な場所にいるんじゃないだろうか。 でも、あれは世界中誰もが。あたしも兄もテレビ越しで見えていた。だけどこれは兄には見えなかった。何が違うんだろう。警察に電話した方がいいのかな。もし警察の人も見えなかったら、悪戯するなって怒られるかもしれない。それは……いやだなぁ……。 じいっと黒い穴を見つめていたら、心がうずいてしまう。 興味本意で近付くなと言われたら近付きたくなるのが人間。あたしだってまだ中学生で、好奇心はどうしても捨てられない。 「少し、だけなら、」 いいよね?と誰もいないのに言い訳して、穴に向かって腕を伸ばした。 「っい!?」 あとほんの数センチまで近付いたところで、びりりとした軽い電気みたいなのが指先から走ってきた。慌てて手を引っ込めてまだ痺れる手をさする。 気絶はしなかった。でもこれ以上近づいたらもしかしたら……脳裏に、どこかの国の諺の、好奇心は猫をも殺すという単語が浮かんだ。 慌ててベッドから降りて距離を空けた。やっぱりかなり危ないとこにいたんだあたし……! しかし、電気が走ったと言うことは幻覚とか寝惚けてるとかじゃなくてあたしの部屋の壁に何かがあることは判明した。 だけど、なんで兄には見えなかったんだろう。もうわけが分からない。もしかしてあたし自身が何かおかしくなったのかな…!? 他にも誰か見える人がいるとわかれば警察とかに電話できるのに。 でも、お母さんもお父さんも今日は朝から出掛けてるし兄には見えないみたいだし……。 「あ、」 そうだ、今日有紀達が遊びに来るんだった。 これからくる三人に見えるかどうか聞いてそれからどうしようか考えよう。 うん。そうしよう。 急いで着替えて部屋からでる。とにかく今は、朝ごはん食べよう。 なんだか起きたばっかりなのにすでに疲れがどっと押し寄せてきた。

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