世界終了
act01勇者一行 09 説明

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「俺には、他者の力を俺自身に封じ込める力を持っているんだ。魔王の力を俺の中に、そして魔王の身体と魂はアリアが魔王と戦った土地に封印した」 さらりと言うリトは、魔王を封印したという事を自慢する様子も誇らしく思う様子もない。ただ淡々と声色を変えることなく説明をしてくれるだけだった。 リトは自身の胸を軽く叩いて少し目を伏せた。 「そして俺にはもう一つ力があって、封印した力を他者に譲渡することが出来るんだ」 リトは自身の胸に当てていた手をあたしのお腹にとん、と置いて微笑んだ。 じわり、とそこから温かい何かが広がっている気がする。それがリトの言う譲渡された魔王の力なのかもしれない。 ……こんなにも自分に馴染むような、昔から持っていたような温かさのそれが『魔王』と言われるものだなんて想像が出来なかった。頭の中では自分が知っている限りのファンタジー物語に出てくる『魔王』が浮かび上がる。どれもこれも、禍々しい雰囲気しか思いつかない。 でも、ここにある力はそれとは真逆の……寧ろ、リトの力そのものだと言われた方が納得出来るぐらいだった。 「………」 「……魔王を封印した時のリトと同じ顔をしてる」 「え?」 少し俯いていたら、ヨークの言葉に顔を上げた。不可解そうな表情であたしの顔をまじまじと見られて、思わず横にいたせりに「どんな顔してた?」と聞いてしまう。 「ん~~~、なんかこう納得いってなさそうな?」 「えー、ヨーク俺そういう顔していたか?」 「してたよ。というかほぼ同じ顔だった。魔王の力ってそんな変な感じなの?」 「……というか、そもそも魔王って何をした人?」 あたしの言葉に、リトとヨークが固まった。そこからは「あー…」とか「やっぱ俺が言ってた通りだろ?」とか、二人で何か話し合っている。 二人の様子にせりと一緒に首を傾げる。せりも『魔王』が何者なのかを聞きたいみたいだから返答を待っている感じだった。 「……魔王の話は後にしていい?」 「え、いいけど…」 「じゃあ~椿の剣の話は終わったし、せりがなんでヨークの血を飲んだらこんなに元気になったかちゃんと教えてほしいなぁ」 「う……っ」 キラキラと好奇心と期待に満ちた目でせりに見られ、ヨークは明らかにたじろんだ。 うにゃうにゃと口の中で言葉を揉むように「あー…」とか「ええ…っと…」とか、さっきまで取り仕切っていた様子は微塵もなく、言うのを躊躇っている。ヨークがちらりとリトをみやった。アイコンタクトで助けて、と言うように。 その視線に対して、リトも困ったように「うーん……」とうなり声を上げた。 「あの時止めはしたけど、ああしなかったらせりは恐らくきっと死んでいた。血を飲ませた責任を負うか、助けられず見殺しにした責任を負うのかの二択だったんだ。せりもこうやって生きてるんだし、そううじうじ悩んでないで説明してやるべきだぜヨーク」 「うう……そうだけど…」 「え?なに?このうわ~~めっちゃあばれたーい!ってなる感覚ってその責任とかに関係ある感じ?」 深刻な雰囲気で話す二人と温度差が違いすぎる気楽な声だった。 でもそのせりの言った内容が内容で、あたしは思わず「え?」と聞いた。当の本人は何か変なこと言った?とでも言いたげな顔で紅茶を飲んでいる。 ほんとマイペースか!とあたしが口に出す前に、ヨークが勢いよく立ち上がった。その弾みにテーブルの上に置いてあったヨークのカップが落ちてガチャン!と大きな音を立てながら割れたけど、そんなのはお構いなしにヨークはせりの腕を掴んだ。 「その感覚ちゃんと抑えられてる!?」 「え……う、うん…今もだし…」 「抑えてる間痛みは!?苦しいとかない!?」 「な…ないよ……?」 「ほんとに!?嘘ついてないよね!?」 「…ちょ……っと、こう……我慢しなきゃ~…って思うとしんどいって…ある……けど…」 「……っ」 せりがそう答えると、ヨークは何も言わずにずるずると座り込んだ。俯いて、小さく「……ごめんね」とだけ呟いた。震えているその声で、泣いているのが分かってしまう。 ヨークの様子に、あたしもせりも何が何だか分からずに呆然とする。 「だ…大丈夫?」 「う…っ取り乱してごめん椿……大丈夫…」 「びっくりしたぁ、ホラー漫画みたいな顔するんだもんヨーク」 「オレこんなに悩んでるのになんでこの子こんなにマイペースなのほんともう!!」 わっと嘆くヨーク。それはごめん。友人として謝らせて欲しい。 鼻をすすりながら立ち上がったヨークはソファに座るせりとあたしじっと見てもう一度「二人とも本当にごめんね」と謝った。 「いいよ~」 「だからぁっ、オレまだなにも説明してないのに!」 「だってせりヨークのお陰で死ななかったもん。それで十分だし」 けらけらと笑うせり。それは本当にそう。 ヨーク……ハーフドラゴンの血を飲むということは、何か相当危ないことだというのはヨークの言動で伝わってくる。でも、リトが言った通りヨークが血を飲ませなかったら死んでいたであろうせりがこうして生きているんだ。 目の前で友人が死ななかった。それだけであたしはヨークが何度謝ってもせりみたいに「いいよ」と言うと思う。 「……ハーフドラゴンの血は人間にとって毒であり妙薬だったんだ」 ぽつり、とヨークが説明を始めた。 ドラゴンという種族は、この世界の中で最も長寿の生物。数千年生きているドラゴンも存在するらしい。そんなドラゴンの血肉は、あまりにも魔力が濃くてとても人間のような種族には猛毒にしかならない。それなら、人間と混ざり合ったハーフドラゴンの血なら……。と、誰かが試した結果、驚異的な回復力・人間離れした身体能力・研ぎ澄まされた五感……その他諸々の効果をもたらすことが判明した。 ――ただし、その異様な変化は「人」として逸脱する事になる。今まで以上の五感に感性は狂い、情緒は壊れ、理性は崩れ狂人となる。 「……時々、その変化にも耐えて自我を保てる人間もいるんだけど、やっぱりどこかしら“人”としてはおかしくなってしまうんだ」 そう説明するヨークは、その自我を保てなくなった人を見たことがあるのだろうか。顔を真っ青にして、今にも倒れてしまいそうなぐらい顔色が悪い。リトはヨークの背を軽くさすった。 「ヨークが言ったようにおかしくなるって分かっているにもかかわらず、力を求める奴とか軍事計画の為に囚人に飲ませるやつがいてさ。人間を兵器みたいに扱う奴らに使われてたんだ。それで色々問題が起こって今はハーフドラゴンの血は飲むのも飲ませるのも御法度なんだ」 「だから……せりには本来は飲ませちゃいけなかった。傷が治ってももしかしたら……」 それに続く言葉を一度飲み込んで、ヨークはじわりと涙を目に浮かばせた。 「こうやってまともに会話出来てるのも奇跡みたいなものなの」 リトとヨークの話を聞いて、せりの方を見る。 きょとん、とした顔をしたせりはあまりにもいつも通りだった。息を吹き返して、村に泊まった時もその後も少し気が落ち込んでいたけれど、それ以外は何も変化のない彼女が二人の言うようなことが起こってるなんて到底思えない。 自身の手をグーパーと開け閉めし、首を傾げるせり。 おもむろに「えいっ」と言ってとても軽く人差し指の第二関節をテーブルにこつっと当てた。 ――バキバキガッシャーン!!ガラガラ…… 壮大な音を立ててテーブルは砕け散り、テーブルの上に置いてあったあたし達のコップは地面にたたきつけられて割れた。 「……わぁっ」 「わぁじゃない!!わぁじゃないよせり!?!?」 「あーーっ!ほらもう完全に人外の力になってるじゃん!!オレ一生かけてでもその力制御出来るように付き合うからほんっとにごめん!!」 「え、プロポーズ?」 「プロポーズなのかヨーク!?」 「それは違うくない!?」 真面目な空気全然保たれないなこの空間!!

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