世界終了
act01勇者一行 07 再会

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早朝の少し冷えた外の空気が身に染みる。ぶるり、と身体を震わせた。 宿を出る前にリトから渡されたコートがなければ、少し耐えれなかったかもしれない。 数歩前に進む。昨日までと一番違うのは素足じゃなくなって、ブーツを履けていることだった。これもリトから渡して貰ったもので、きっとこの村で買ってきてくれたんだろう。 宿から出た入り口近くで、リトとヨークは地図を広げながら何か話し込んでいた。 「……――…?」 「…――~…!……」 相変わらず、聞き取れない言葉。リトがあたしに向けて話し掛けてくれている時は、本当になんとなくだけど意味がわかった。でも、リトとヨークが二人で喋っているときは全然わからない。 「早く話せるようになったらなぁ。そしたら、色々と聞くことができるのに……」 「ねー。椿しか話し相手いないなんてたまった物じゃないし~」 「どういうことなの!」 せりはせりで相変わらずだ。 昨日のしおらしいのは一体どこに行ったんだと思ったけれど、相変わらずのままの彼女がいるからあたしもいつも通りでいれるのかもしれない。 * * * 昨日泊まった村から出て数時間、なにやら不思議な建物にたどり着いた。 白色がメインで、大きな柱が沢山並んでいて、その先に何やら仰々しい建物がある。きっとこういうのが神殿っていうんだろうな。と思いながらその建物を眺めた。 だけど、彼らは建物の中には入ろうとしない。理由は簡単で、入ろうとしないんじゃなくて入れないんだ。建物の入り口付近はかろうじて残っているけれど、建物の大半が大きな黒い空間に飲み込まれていたから。 この世界での黒い空間といえば……直接関係はないのだろうけど、あの巨人との遭遇を思い出してしまう。せりも同じようで、さっきまでずっとあたしに話し掛けていたのに突然黙り込んでしまった。 あたしもあの時の事が脳裏に浮かぶと、言葉が出てこない。 出来ることは、少し青ざめている彼女の手を握るだけだった。 リト達はまた何か調べるのかな、と思って二人の方をみていた。だけど、彼は何か懐かしそうな物を見る目でその神殿を眺めているだけだった。 そしてリトは一言二言ヨークに話し掛けると、あたし達の前に戻ってきて「いこう」と言うように声を掛けた。 差し出されたリトの手を握る。 逆側の手はせりを握っていたけれど、せりは大分落ち着いたのか「ありがと」と小さくいってあたしから手を離して、ヨークの側についた。 リトに引っ張られてどんどん遠ざかっていく神殿。ちらり、と振り向いてもう一度だけその入り口だけになった姿を見る。 神殿よりも、何かを懐かしむような……思い出に浸っていたようなリトの顔が印象的だった。 次に向かっているのは、既に神殿から遠目に見えていた街のようだった。街の入り口だと思う大きな門ははもう間近で、あと数百メートルもなかった。 そこに行くまでにリトの表情が段々と明るく、それでいて子供っぽくなっていき今は小走りに近かった。 手を握られていたから転けそうになっているのは内緒。 リトがあまりにも嬉しそうになるから、こっちまで嬉しくなっちゃいそう。クスクス笑っていたら、せりが話し掛けてきた。 「リトなんだか嬉しそうだね~」 「ね、さっきの神殿も懐かしそうに見てたし。もしかして生まれ育った場所なのかな?」 「もう少しで着くぜ俺の故郷!!いやぁ、街に来るの何ヶ月ぶりだったけヨーク!」 「半年ぐらいじゃない?とにかくアリアのところにいって二人のこと相談しなきゃなぁ…」 その場にいる全員同時に足を止めて、え?と声を漏らした。 そして、顔を見合わせる。 あれ、えっと、あれ?今、リトとヨークが話しているの、凄く、はっきり、日本語で、聞こえたんだけど……。あれ? 混乱する頭で、やっぱり故郷だったんだぁ、とか。アリアって誰だろうなぁ、とか。二人はこんな口調だったんだぁ、とか。なんか、色々思い浮かぶけど、それよりも、あれ…!? 「なっ、なんでいきなり日本語喋ってるのリト!?」 「うぉお!?椿がいきなりリーロの言葉喋れるようになってる!?」 「へぇ~、ここの言葉リーロって言うんだー」 「せり君の反応そこなの!?いやいや、それよりも何これどういうこと!?」 それぞれがそれぞれ騒いでいる。それもちゃんと聞き慣れた言葉で聞こえてくるからもう逆にわけがわからない。ヨークが言った通り何これ、本当どうなってるの!? もう少しで街だというのに、その入り口の近くでわぁわぁと騒ぐ四人……いや、せりに関しては騒いでないから三人……。 だからなんでこういう時は騒がないでいられるのせり!? いきなりの事が起きて頭がパンクしそうだ。そりゃあ早く二人の言葉が分かるようになればいいなぁ、とは思っていたけど、早すぎるよ!!突然すぎてどうしたらいいか分からないから!! ぐるぐるっと脳内が混乱してきたら、ふっと影が掛かった。……少し、嫌な予感がする。思い出すのは、あの、先日の戦い。 咄嗟に、その影が出来ている方をばっと見上げる。あたしだけでなく、せりやリト、ヨークも同時に見上げていた。 そして、見えた姿は――… 「ダーイナミックスペシャルフライデーエディションアターック!!」 「いだぁ!?」 ツインテールが空から飛びかかってきた!あたしの上に!!謎の言葉を発しながら!! いきなり予想外の人物が飛びかかってきたら、そりゃああたしなんかが避けられるわけもなく、見事に激突。しかも勢い余って転倒。頭と背中を思いっきり強打した。凄く痛い!!星が一瞬見えた!! ツインテールで、とりあえず思いついた言葉並べましたって言うのが分かる発言をして、且つあたしを狙ってくる人物。あたしはそういう人を世界で一人だけ知っている。これ以上増えても欲しくもない。こんなのが二人もいたら色々と死にそうになる! まだチカチカする頭を抑えながら、あたしの上に馬乗りになって、それはとてもとても楽しげに歯を見せながら笑う、見慣れた制服を着たツインテールの少女の名前を叫んだ。 「有紀!!いきなり何するの!?」 「感動の再会を!俺はこの手でぶちこわす!!」 ドヤ顔で意味の分からないことを言い出した……のは、まあいつものことだけど。確かに感動も何もあったものじゃない。いきなりすぎてリトとヨークもきょとんとしていた。ヨークがどう見ても「何いってんのあの子」って不審な目で見てるし。 とにかく、上に乗られていたら身動きがとれないからどいて、と言うと口をと尖らせながら渋々降りてくれた。ああ、背中が痛いし頭はいろんな意味で痛い。どんな風に再会しても、正直泣いてしまう自信はあったけど、これだと涙も何も出ない。痛みでなら涙は出るけど。 「わー、有紀だ。おひさ~」 「おう久しぶりだなせり!たった数日降りだけどな!そして誰だ貴様等!!」 びしぃ!!とリトとヨークを指差す有紀。二人に指さすのやめて!と叫ぶとその指をすっとピースに変更した。何故! こんなにも訳がわからないのに、動じた様子のないリトは「元気だな!」と笑ってピースを返していた。こっちも本当に何故!! 「二人の友達だよな?俺の名前は、」 「リトとヨーク、でしょ」 また聞き慣れた、落ち着いている声が聞こえた。 でも二人には聞きなれない声で、驚いた表情を隠せない。有紀を除いたその場にいる人物達が声のした方……街の入口の方へと視線を向ける。 綺麗な茶色の髪を靡かせながら歩いてくる少女――七瀬だ。彼女は相変わらず表情は無表情……かと、思ったら、あたしとせりを見た時どこかほっとしたような表情を見せた。 こっちも、二人とも無事なことがわかって頬が緩む。ああ、よかった……。 ……いやいや、嬉しいことには変わりないけど、それよりも! 「…なんでオレ達の名前知ってるの?」 ヨークが低いトーンで、七瀬に話しかける。警戒しているのか空気が、怖い。さっきまでの騒がしい空気が嘘みたいに肌がぴりつく。こういうのが、殺気と言われているものなのかな。 しかし七瀬は、そんな空気は気にせずくるりと踵を返して街に向かった。 「立ち話もなんだし、詳しい話は貴方の仲間に聞いた方が早いわ」 「そうそう!ぶっちゃけ俺達もソウマとアロウに連れられて、昨日の夜アリアのとこ来たばっかだしな!!」 有紀の口から次々と聞きなれない名前が飛び出してくる。あたしとせりが顔を合わせて首をかしげた。逆に、ヨークとリトはその名前を聞いた瞬間に警戒していた空気はなくなった。きっと二人には馴染みのある名前なんだろう。 あたし達は、七瀬を先頭に街に入っていった。 どうして当然話せるようになってのかとか。 有紀と七瀬を助けた人達はどんな人なのかとか。 話せるようになったなら、リトに色々聞きたいなとか。 疑問は、山積み。

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