「そもそもさぁ!おかしいんだよ色々と!せりはオレの血を飲んだにしてはあまりにも精神面は正常だし回復とか力も効果でるの早すぎだし!椿とリトだってそんな完璧に魔力が適合することある!?ていうか二人はこの世界の人じゃないよね魔王のこと知らないとかあり得ないし!!」 今まで溜めに溜めていたものを全て吐き出すかのようにヨークが早口で叫んだ。 一気に喋ったせいか、体力を使ってぜーぜーと肩で息をしている彼に、なんだかとてつもなく申し訳なくなった。 「あれ?せりさっきの質問応えるときに言ってなかったっけ?」 「あたしの部屋から来たとは言ったけど、別の世界とかは言ってないね……」 「あは、ごめーん。せり達魔法とかない世界からきました~」 「軽い!!軽いんだよ君は!本当に!!」 「まーまー、落ち着けよヨーク。とりあえずこのテーブル片付けようぜ」 せりの指によって粉砕したテーブルやコップの破片をまとめるリト。あたしも手伝うためにソファから降りて、怪我しないようにしながら破片を集める。興奮していたヨークは、大きな溜息をついて「アリアに怒られるなぁ…」と小さく呟いて落ち着きを取り戻していた。 破片を入れる袋を取りに行くために部屋を出るヨークに、せりが「まってー」と言いながら付いて行った。 「……リトはこう…ヨークみたいにあたしとせりに確認したいことって他にないの?」 「ん?好きな飯とかか?」 「食いしん坊なの??」 二人残されて片付けをしている間に、何かあるかなと思って聞いてみたけど全然ないようだった。「俺は野営の時にヨークが作ってくれる飯が好きだな!」と笑顔でご飯の話が進んでいく。あれは確かに美味しかったなぁ。 「あたしはお母さんが作ってくれたご飯ならなんでも好きだなぁ」 ぽつり、と零れた。そういえば、旅行以外でお母さんのご飯を食べない、なんてことなんてなかったなということに今更気付いてしまった。 そこから何かの感情に流されそうになっていたけれど、テーブルの破片のせいで手の平が切れて感情よりも痛みが勝ってしまった。 「いったぁ!」 「大丈夫か?」 破片を集めるためにしゃがんでいた身体が、痛みで飛び跳ねる。 溢れてくる血をどうにかしようと右往左往していると、リトがあたしの手首を軽く握った。 そして何かを言おうと口を開いてからそのまま停止して、言葉を発さずににこりと笑顔を見せた。 「椿、痛いのちょっと我慢出来るか?」 「え、まあ、ちょっとなら……」 「なら、ゆっくり息を吸って、吐いて、落ち着いて」 リトの言葉に従って深呼吸をする。気を落ち着かせると、逆に手の平の感覚が詳細に感じる気がして余計に痛い気もするけど、頑張って我慢してみる。 「それで、お腹あたりに力を入れて『――…』って言ってくれないか?」 「え?なんて?」 「ん?」 お腹に力を入れるまではちゃんと聞き取れていたのに、そのあとの言って欲しいと言われた言葉は全く聞き取れなかった。リトの言葉が分からなかったときと同じような発音だというのは分かったけれど。 「……呪文だとちゃんと聞こえないのか?うーん……なら、椿が怪我よ治れ~~って気持ちを込めてなんか格好いい言葉にしてみてくれ」 「なんか格好いい言葉!?」 「なんか格好いい言葉だ!文章でも一言でもなんでもいいぜ!」 さあやってみろ!と笑顔で言われるけれど、唐突すぎる。あと段々痛みが強くなってきて我慢が出来なくなってもきてる! 傷を治すためのなんか格好いい言葉…!何故か脳内で有紀が謎の単語を繰り広げてしまう。ちょっと脳内から出て行って! 考えの中で暴れる有紀をどうにか追い払って、「傷を治す言葉」と「呪文」から連想できる、そしてあたし達の年齢だとそんなことを言われたらついつい唱えたくなる言葉を口にした。 「……ヒール…!」 『回復の呪文』として思い浮かべられる有名なものの一つ。 それを言葉にした瞬間、力をいれていたお腹辺りから熱が体中を駆け巡った。熱の行き先は怪我をした手の平で、熱の感覚が辿り着くと同時にふわりと柔らかい光が表れてあたしの手を包み込んだ。痛みの感覚は少しむず痒いに変化して、光がなくなるとうっすらとだけ怪我をした痕が残って傷は塞がっていた。溢れていた血は手の平に少し残っている。 こ、これは……完全に……! 「ま、ほう……だ……っ!!」 「うん、初めての回復魔法なら上出来だな椿!」 「わっ!?」 頭をぐしゃぐしゃと勢いよく撫でられる。初めて会って、名前を呼べた時と同じような撫で方だった。でも今回は止めて欲しいと言う前に終了した。 撫でるのをやめたリトはあたしの手の平を軽く握って、『――…』と、さっき聞き取れなかった言葉と全く同じ発音の言葉を発する。 「わぁ……」 ふわり、ととても温かい光があたしの手の平を包み込んだ。少し残っていた傷跡は完全になくなって、酸化していた血も綺麗さっぱり消えていた。 さっき上出来っていってくれてたけど、自分がした魔法は上手には出来てなかったんだなという事がよく分かる。 ありがとう、とリトにお礼を言う。だけど、それはリトの耳には入っていないのかあたしの手の平を真剣な顔でじっと眺めている。 そして、「よし!」と何か納得した声色で顔を上げた。 「やっぱそうだよな!」 「え、なにが?」 「俺と椿と、あと魔王だった奴もだな。俺達多分同じなんだ!」 「……んん?」 リトの言葉に、あたしは首を傾げるしか出来なかった。
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