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 数十分後。  厨房の猫実好和のもとへ店長がやって来る。 「猫実くん!自分のお友達が来とるで?出るか?」 「あ、はい!じゃあ...」  猫実はもずきゅんをチラッと見る。 「だ、だだ大丈夫だよ!いい行ってらっしゃい!」  もずきゅんは似合わないグーサインで返す。  猫実好和は厨房を抜けると、店長の示した窓際の席に向かった。 「おっ、ネコ。おつかれ~」 「来たか」 「おっす。柴井、秋多」  猫実好和は来店した友人二人のテーブルに着くと、普段通りの柴井とは反対に、凄まじい剣幕の秋多にギョッとする。 「秋多?ど、どうしたんだ?」 「......お前は」 「?」 「なんて薄情な奴なんだ!!」  秋多は怒りと悲しみと憤りの入り混じった声を悲痛に上げる。 「えええ??」  面食らう猫実好和。 「お前は...お前は...なんであんな麗しき乙女達を俺達に紹介してくれないんだ!!」  絶叫する秋多。 「なんの話だ!?」  わけのわからない猫実。 「俺達って...俺は入れるな」  引き気味の柴井。 「おいネコ!いや、猫実好和!」  いきり立つ秋多。 「な、なんだよ!?わざわざフルネームで言い直すなよ!」 「貴様には絶対に拒否できない任務を与える!」  なぜか鬼上官になる秋多。 「はあ??」 「......あの猫コス女子達との...合コンを設定してくれ......」  急に小声になる秋多。 「えっ」 「頼む!男は俺とお前と柴井の三人で、女子三人は選抜してもらってさ!」 「やっぱり俺も入るのか」  柴井は半ば諦めたように呟いた。 「そ、そんなこと言ったって」  戸惑う猫実好和。 「いいから頼む!男の頼みだ!」  手を合わせて必死に懇願する秋多。(こういう事について、彼にはプライドはない) 「うっ!......ま、まあ、なら......」  ......午後八時。  ネコまっしぐランド、閉店。  猫実好和は早々に着替えると、通用口の扉があるバックルームで腕を組み、ネコ娘達を待ち構えていた。  そう。友人に持ちかけられた合コンの話を切り出すためだ。  正直、猫実の気は進まなかった。  しかし、秋多に「一応聞くだけ聞いてみるよ」と言ってしまった手前、約束は果たさなければという義務感に駆られていたのだ。(彼はそんな下らない事でも変に義理堅いのである)  猫実好和は考える。 ーーー誰に話を振るのがベストなんだろうか。  まず、もずきゅん先輩はないよな......それだけで引かれる気がする。  ナル先輩は......怒りそうだな。  となると......  ハヤオン先輩か。  うん。やんわりと断ってくれそうだな!  千代先輩についてはリアクションが未知だし。  よし、ハヤオン先輩に声をかけるぞーーー 「あ、猫実くん。どーしたの?帰らないの?」  猫実好和にとっては実に都合良く、いち早く着替え終わった私服のハヤオンがひとりバックルームに入って来た。  他のネコ娘達はまだ来ていない。  千載一遇のチャンス!  猫実好和はすっくと立ち上がった。 「あ、あの、ハヤオン先輩」 「なあに?」 「その、ですね」 「?」 「実は、今日店に来た俺の友達なんですが」 「うん?」 「ハヤオン先輩達と、飲み会っていうか、そういうのしたいらしくて...」 「それは合同コンパ、俗に合コンと呼ばれるものでござるか?」 「わっ!千代先輩!?」  いつの間にか猫実好和の背後にくノ一ネコ娘が立っていた。  彼女はくノ一姿のままである。  というか、猫実は未だに千代の私服姿を見たことがない。  彼はハヤオンと千代の間に挟まれる。  二人のネコ娘の間に立ち、アワアワする猫実好和。  ふいにハヤオンが他意のないくりんとした目で訊ねる。 「...猫実くん、私達と合コンしたいの??」 「いやその!俺っていうか、友達がしたいらしくて!で、でも無理なら全然いいので!ハハ!」  猫実好和は極めてディフェンシブに答えた。  そこには、変に思われたくない、嫌われたくない、友人のためとはいえ断られて凹みたくない、などといった青年の複雑な想いが包含されていた。 「ならばその要望、拙者が承るでござる。猫実殿の大切な友人のため、この千代が人肌脱がせていただく」  なぜかくノ一ネコ娘が了承した。 「えっ?」 「心配無用。拙者にお任せあれ」 「えええー??」

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