「先生?」 すると、シックな色合いの落語家のような和装をした男性が姿を見せる。 齢六十は超えているだろうか? 短髪の白髪頭に口髭を生やした姿は、一昔前のお札を思わせる聡明な貫禄を帯びていた。 「アミ。お客様が困っておろう。おっと、これは失礼。ワシは当店オーナーのフユメソーセキと申します」 「ど、どうも」 「本日はご来店いただき誠にありがとうございます。ほら、アミ。ハヤオン。ナル。誰でもいいから、さっさと注文を取って差し上げなさい」 「しょ、承知しました!」 三人娘は声を揃えてかしこまった。 「それではお客様。ごゆっくり」 「あ、は、はい」 白髪のオーナーは店の奥へと引っ込んでいった。 「い、いったい次から次へとなんなんだ?」 猫実好和は、矢継ぎ早に展開される目の前の事象にただただ当惑する。 「ほな、注文なんにしますか?」 「どちらになさいますか?」 「な、何にしますか?......べ、別に貴方のためじゃないんだからね!仕事だからやるんだからね!」 「じゃあどれに......って三人でオーダー取るんですか!?オペレーションおかしくないですか!?」 焦る猫実好和。 「では私が取りますね!」 ハヤオンが正統派美少女らしくニッコリ爽やかに名乗り出る。 「あ、じゃあ...」 猫実はハヤオンの王道的キュートさに思わずニヤけて、顔をポッと火照らせた。 「ではご注文と配送日の指定をお願いします!」 「あ、はい......て配送日??」 「はい!わたくしハヤオンが、箒のバイク便でお届けします!あ、プライム会員なら配送料無料ですよ!」 「すぐここで出してください!!」 たまげる猫実好和。 ここで早くも、ハヤオンに業を煮やしたナルが鋭く声を上げる。 「ちょっとハヤオン!何をやっているの!?」 「ナル!?」 「今すぐワタシに代わりなさい!ワタシがお手本を見せてあげるわ!」 ナルはハヤオンを退けると、片手を腰に当て、誇り高そうに猫実好和の前に立った。 「さあ、注文なさい。ワタシが貴方のために希望を聞いてあげるわ。 で、でも勘違いしないでよね!貴方のためと言っても、これはあくまで仕事なんだからね!そういう意味じゃないんだからね! でも、貴方が注文したいっていうなら、貴方のために、するんだから......バカ!!」 ナルは、キッと睨んだと思ったらすぐ頬を赤らめたり、キリッとなったり恥ずかしがったり、とにかく忙しなかった。 「あ、あの、えっと、はい......」 猫実はナルの一人ツンデレ相撲に圧倒されるばかり。 「もう自分らええ加減にせえや!」 やにわにアミ店長が店長らしく声を上げる。 「他にもお客さんおるのにさっきから自分らここで何しとんねん!」 いやアンタが呼び寄せたんだろ?とツッコミたかったが、猫実好和は我慢した。 「ほな、注文はウチが取るから、ハヤオンとナルは他行っといてえや!」 アミ店長は偉そうに指示した。 「かしこまりました!」 二人娘は従順にそれぞれに散っていった。 「いやいや、お騒がせいたしまして。ほな、改めて注文取りましょか」 「あ、はい」 「当店のオススメはこちらですわ!マタタビコーヒー、マタタビココア、マタタビハニーラテ、マタタビフラペチーノ、マタタビール......」 「ま、マタタビ!?し、しかも最後のはお酒ですよね?」 「他にも、季節の彩り猫缶、揚げカリカリ、ネコマンマ......」 「それ全部猫の餌ですよね!?てゆーか最後のはただのぶっかけご飯じゃ...」 「他にもあるで!?あとは...」 「いや、オススメは結構なんで!フツーの頼みます......。あ、あの、それと......」 「なんですか?」 「その......店内に全然猫が見当たらないんですけど......ここ、猫カフェですよね?」 ついに猫実好和は、入店当初から抱えていた疑問を不安げにぶつけた。 「え?おりますやん?」 「え?いるって、どこに?」 「ここに」 「ここ?」 「せやから、ウチが猫ですよ?」 「えっと、それは猫のコスプレですよね?そうじゃなくて...」 「コスプレちゃいますよ?ホンモノですわこれ」 「ほ、本物?」 「せやから、ホンモノのネコ娘ですわ」 「いや、ちょっと、言ってる意味が...」 「さっきのハヤオンもナルもみんな本物のネコ娘やで?ちなみにオーナーのソーセキ先生も正体は猫やで?『それがしはネコである』て自伝小説は有名やろ?」 「えっ、えええーーー!??」 そう。 ここ『ネコまっしぐランド』は、なんとホンモノのネコ娘が働く、究極の猫カフェだった...!! ん?本物の猫娘って何?という疑問をお持ちのアナタ、それはですねぇ、天地開闢以来の謎なのです。 解明まではあと軽く8万年はかかりますので、ここでは一旦横に置いておきましょう。 ということで... ハチャメチャ猫カフェ 『ネコまっしぐランド』 どうぞ皆様、是非ともご来店くださいませ!!
コメントはまだありません