| | | | | | | | | | ザザ…… | | | | | | | | 晴れる。 | | | | | | ザザザザ | | | | | | ザザ | | | | | | | | 晴れてくる。 | | | | | | | | | | | だ 誰? 目の前にいるのは、誰だろう? どうやら男性らしかった。深緑色の、作業員のような格好をした男性は両腕を広げ、華茂をガッシリと受け止めた。隆々とした筋肉。だけど見た目はごつくない。どちらかというと細身に見える。その男は華茂を身体から離し、『よくがんばったね』と誉めた。 「誰? もしかして、穢れの中の人なの?」 男は少し迷ってから、うなずく。 だけど華茂がこれまでに見てきた地獄とは違う。あれらの光景は華茂を包みこむように汚染してきたが、この男は華茂の目の前に存在しているのだ。それは、確実だ。 男はじっと華茂を見つめ、そして口を開いた。 『俺の名前は、クラント』 「クラント? 知らないなぁ」 『敵じゃないよ。その証拠にほら、君の身体の痛みは消えているだろう?』 「……あ」 本当だ。さっきはあちこちに深い傷ができていたのに、それらがきれいに治っている。 「あなたが治してくれたの?」 『ま、一時的なものに過ぎないけどな。それより君は、まだ先に行くつもりなのか?』 そう問うクラントの瞳は本気だった。 華茂はゆっくりと腕を伸ばし、穢れの奥を指さす。 「この先に、わたしの好きな人がいるから。だから、行くよ」 華茂は迷いなく言った。それはまるで、決定事項のように。 『そうかい。じゃあ俺は、君の幸運を祈るぜ』 クラントは華茂を止めようとも説得しようともしない。 ただ、華茂を信じたように目を細める。 「少し楽にしてくれてありがとう。じゃあね!」 再び飛行を開始しようとすると、クラントが華茂の手首をギュッと握った。 「え、なに?」 『行く前に、君の力をちょっとだけ分けてくれないかな。頭の中にこの穢れをイメージして、魔力を込めてほしいんだ』 よくわからない依頼だ。 しかし断る理由もないので、華茂は言われたとおりに力を込める。 そこで……。 (…………!?) 華茂は気づいてしまった。 この心は。この、存在は。 「あなた、アニンの人間ね。穢れの中にいる人たちと、気配が違うわ」 『ふっ、そういうこったな。ご名答だ』 「なんで、一人だけ穢れの中にいるの……?」 『俺は穢れに乗せて連れてこられたのさ。遠い……君が想像もできないだろう、遠い遠い場所からな』 わからない。 クラントの言っていることの意味がわからない。 だがそれを明らかにしている時間は、ない。 華茂が魔力の転送を確認すると同時に、クラントは華茂の手首を自由にした。 『ありがとう、おちびさん』 クラントはそう言って、幻の笑みを携える。 よし、今度こそ。 燕の元へ――――。 華茂は飛行魔法を心に念じながら。 念じながら。 首だけをクラントに向け、視線を合わせた。 「最後に教えて。あなた、どうして私に話しかけたの?」 『さあて』 クラントは腰に手を当て、顎を上げる。 『俺にもいるからさ。もう一度……会いたい奴が』 華茂はニッ、と笑った。 クラントもニヤッ、と笑った。 そして後ろ手でバイバイをして。 華茂の瞳水晶に、またも地獄が映り始める。 背後には、何者の気配もしなかった。 行くよ 燕さん 必ず 行く から! | | | | | ザザザ…… | | | | | | ザザザザ | | | | | | ザザ | | | | | | ザザザ…… | | | | | | | | 必ず | | | | | | | | | | |
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