魔女のお茶会
第三章④――結び

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 勝った。  ナンドンランドンは、華茂かもに勝った。  どうしてそこまでするのか、と笑う魔女もいるかもしれない。  戦いや力などくだらない、と呆れる奴もいることだろう。  しかしこの思いこそが、ナンドンランドンの矜持きょうじ。六百年もの間営々と築き上げてきた、誰にも譲れない思いなのである。  だからナンドンランドンはこの勝利を喜び、そして安堵あんどした。 「あ……?」  だが同時に、おかしなことに気がついた。  敗者の――華茂の顔をもう一度見てやろうと思ったのに、視界には火の粉を上げる樹林しか映ってくれないのだ。なぜ、……なぜ?  ナンドンランドンはその不具合の原因をすぐに突き止めた。  自分の首が横を向いていることに気づいたのだ。  華茂の拳を、頬に叩きこまれて。 (な、なんでじゃ!? その未来は、ボクが否定したはず……)  しかし事実は事実。  ナンドンランドンの身体は揺らぎ、浮力を失う。 (そうかこいつ……『夏の逃げ水エーレン』を……乗っとったのか!!)  だめだ / 飛べない / 落ちる / 絶対に (じゃがそれを認識している様子はない。無意識に、やったというのか……)  行く先 / プレート / これも踏めない / 溶岩  そこでナンドンランドンは思い出した。黒魔法、と呼ばれる存在のことを。  魔女の魔法は主に、四つの属性に分かれる。  火、風、水、土の四つだ。  魔女たちの魔力は自らの特性や担当する地域での経験を基に、一つか二つの属性に絞られていく。そしてその属性にともなった魔法を得意とし、穢れを属性どおりの有益な形に転換することができるようになっていくのだ。  だが、それらの四属性どれにも当てはまらない魔法は、『黒魔法』と呼ばれる。  リリーが用いるという『血液を沸騰させる魔法』もそうだし、ナンドンランドンが使う『複数の未来から一つを選ぶ魔法』も黒魔法の一種である。この黒魔法を使える魔女の数はきわめて少なく、選ばれた者しか使うことができないと言われている。  しかし、他者の魔法をコピーする力など、これまでに聞いたことがない。  はたして華茂の力は、黒魔法だったのか。  わからない。  わからない。  だがはっきりしていることは、ただ一つ。  落ちる / 落ちる落ちる落ちる / 溶岩 / 燃えてしまう 「…………」  ナンドンランドンは、唇を、噛んだ。 「……負け、じゃっ」  無様だった。 (死にたくない)と感じてしまった。自らの保身を意識し出せば、そこはもう敗着点。ナンドンランドンは残った魔力を集中させ、溶岩を手で激しく仰いだ。  フッ……と消滅する、一帯の溶岩。  だがそのせいで受け身がとれない。首からいった。ゴキン! という鈍い音。意識を刈りとられる。ごろごろと転がり、辺りの景色を円回転で見る。  ようやく止まってくれたその状態で右手をゆっくりと上げ。  観念したように、落とした。  それはナンドンランドンの脳が機能を一時停止させるのと、同時だった。

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