魔女のお茶会
最終章⑫(―   )

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 けがれの内部には、漆黒の世界が広がっていると思っていた。  しかし華茂かもの身体を照らすのはただ、まばゆいばかりの光。  息はできる。苦しくない。気分が悪くなることもない。それでも華茂は警戒しながら、一定のスピードで中心部へと飛んでいく。  ちょうど、トンネルを抜けるような感じだ。  ただこのトンネルはちょっと変わっていて、側面にいくつかの映像が浮かび上がっている。そしてそれらのうちのいくつかは、華茂が見たことのない世界のものだった。  道を埋め尽くす四輪の機械。これは、自動車だろう。  空を飛ぶ鉄の塊。華茂が知っている飛行機より、格段にでかい。  学校が木造ではない。レンガ造りでもない。この白い壁の材質はいったいなんだろう?  華茂はそのうち、一人の男子の生活に注目した。  少年は、音の鳴る時計を使って起床する。寝ぼけまなこをこすり、朝食の席につく。パンと野菜と……あと、あの白いものはなにかな。固形と液体の中間のような感じ。とにかく子供はそれらをおいしそうに食べながら、祖父の家について母親と話をした。その会話内容を聞くに、どうやら夏に長期休暇があるから旅行に出かけるらしい。  少年は家を出て、同じ歳くらいの子供たちと学校に向かう。学校では国語や算術などを習っていた。緑色をした板に書かれていた内容については、意味不明。小さいのに難しいことを学んでいるのだなぁと感心した。運動の時間には、球を投げて遊んでいた。  学校が終わったら、楽器の教室へと歩いた。ピアノを習っているらしい。あれは、そんなに上手くはないな。まだ初心者のようだ。でも、華茂は楽器をいっさい弾けないわけだから、あの子供の方が華茂よりもできているわけで。どちらかというと、一生懸命努力するその姿に賞賛を送りたくなった。  ――あれ?  華茂はちょっと気づいてしまった。  楽器教室から一緒に帰っているあの女子と、すごく仲良さそうだ。話も弾んでいるし、二人とも笑っている。これはこれは……もしかしたらじゃありませんか? 華茂は二人の姿を見て、弥助やすけ八千代やちよのことを思い出した。弥助たちも、あの二人みたいに小さい頃から仲良しだった。「華茂姉ちゃん、遊ぼ」「遊ぼ!」よく、せがまれたものだった。  夜になると、少年の父親が帰宅していた。父親は日中仕事に出て、夕食に間に合うように帰ってくるらしい。食卓に上がったのは豚肉の炒めものだ。おいしそう……。華茂のお腹がググウと鳴る。コクのある香りを、想像して。  それから家族で順番にお風呂に入り、それぞれの部屋で自分の時間を過ごす。少年は学校から与えられた課題をこなした後、長方形の機械に映ったキネトスコープらしきものを鑑賞していた。ん……今、画面の中で傷害事件が起こったぞ!? あ、でも、頭のよさそうな人が事件を解決した。悪人が野放しにされなくてよかった。  少年が部屋の灯りを消すと、壁がぼんやりと光った。あの灯りといい壁といい、どこから火を入れてどうやって消しているのだろう。謎だ。ただ、部屋の壁でうっすらと光るのは、どうやら宇宙の星々のようだった。  宇宙。  ……宇宙か。  この穢れの中にいる人たちもまた、アニンに住む人々と同じように宇宙に思いを馳せたのだろうか。  どこかの家で風鈴が、ちりん、と鳴った。  夜が深くなる。  この星の月は、一つだけだった。  まんまるで。優しそうで。  華茂は飛びながらその映像を見、口元をほころばせる。  そしてその月光は。  ――――二つに。分かれた。  突如現れたその光。     認識する暇などない。   あっという間に夜を呑みこみ。        全て  全て  白の…………   世界へ  と。  ……………………  ………………グウ、ン  ………………ン………………   華 の像    茂  ガ  ぶ  た   レ |                 | |                 | |                 | |                 | |                 | |    ザザザ…………       | |                 | |                 | |                 | |           ザザ……   | |                 | |                 | |                 | |                 | | ザザザ……            | |                 | |                 | |                 | |                 | |        ザザザザ     | |                 | |                 | |                 | |                 | |   ザザ…………         | |                 | |                 | |                 | |                 | |                 | |  ここ   どこ  なの    | |    は            | |                 | |      なにが        | |            あった  | |         の       | |                 | | 華茂は             | |                 | |   カ ニン          | |    ク  ヲ         | |            試み   | |              る  | |                 | | ここは……            | |    まだ           | |                 | | 穢れの中だ。          | |                 | | そうだ。            | |                 | | そうだった。          | |                 | | 燕を助けるために、飛んでいるの | | だった。            | |                 | | この穢れのどこかに、燕の姿を  | | 探しているのだった。      | |                 | | 歯をくいしばる。        | |                 | | 目を見開く。          | |                 | | その華茂の首に、なにかが    | | かすった。           | |                 | | いたっ!            | |                 | | なんか、血が出たような     | | 気がする。           | |                 | | 途端、華茂の身体が前転し、   | | 何者かにつまみ上げられ、    | |                 | | 後転し、            | |                 | | そこからはもう、体勢がどうにも | | こうにも――、         | |                 | | わからなく           | |        ――なっ、た。  | |                 | |                 | |                 | |                 | |                 |     |                   |                   |                   |                   |                   |                   |                            |                   |                   |                   |                   |                   |                   |        |                   |                   |                   |                   |                   |                   |                   |                         |                   |                   |                   |                   |                   |                   |               |                   |  ごちゃごちゃになった    世界の|                   |      中を。          |               華茂は |                   |     飛ぶ。  進む。             |         そして華茂は    |                見た。|                   |          一瞬で変えられた |             世界の   |                   |  全てを。                   |                   |                   |                   |                   |                   |                   | 

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