穢れの内部には、漆黒の世界が広がっていると思っていた。 しかし華茂の身体を照らすのはただ、まばゆいばかりの光。 息はできる。苦しくない。気分が悪くなることもない。それでも華茂は警戒しながら、一定のスピードで中心部へと飛んでいく。 ちょうど、トンネルを抜けるような感じだ。 ただこのトンネルはちょっと変わっていて、側面にいくつかの映像が浮かび上がっている。そしてそれらのうちのいくつかは、華茂が見たことのない世界のものだった。 道を埋め尽くす四輪の機械。これは、自動車だろう。 空を飛ぶ鉄の塊。華茂が知っている飛行機より、格段にでかい。 学校が木造ではない。レンガ造りでもない。この白い壁の材質はいったいなんだろう? 華茂はそのうち、一人の男子の生活に注目した。 少年は、音の鳴る時計を使って起床する。寝ぼけまなこをこすり、朝食の席につく。パンと野菜と……あと、あの白いものはなにかな。固形と液体の中間のような感じ。とにかく子供はそれらをおいしそうに食べながら、祖父の家について母親と話をした。その会話内容を聞くに、どうやら夏に長期休暇があるから旅行に出かけるらしい。 少年は家を出て、同じ歳くらいの子供たちと学校に向かう。学校では国語や算術などを習っていた。緑色をした板に書かれていた内容については、意味不明。小さいのに難しいことを学んでいるのだなぁと感心した。運動の時間には、球を投げて遊んでいた。 学校が終わったら、楽器の教室へと歩いた。ピアノを習っているらしい。あれは、そんなに上手くはないな。まだ初心者のようだ。でも、華茂は楽器をいっさい弾けないわけだから、あの子供の方が華茂よりもできているわけで。どちらかというと、一生懸命努力するその姿に賞賛を送りたくなった。 ――あれ? 華茂はちょっと気づいてしまった。 楽器教室から一緒に帰っているあの女子と、すごく仲良さそうだ。話も弾んでいるし、二人とも笑っている。これはこれは……もしかしたらじゃありませんか? 華茂は二人の姿を見て、弥助と八千代のことを思い出した。弥助たちも、あの二人みたいに小さい頃から仲良しだった。「華茂姉ちゃん、遊ぼ」「遊ぼ!」よく、せがまれたものだった。 夜になると、少年の父親が帰宅していた。父親は日中仕事に出て、夕食に間に合うように帰ってくるらしい。食卓に上がったのは豚肉の炒めものだ。おいしそう……。華茂のお腹がググウと鳴る。コクのある香りを、想像して。 それから家族で順番にお風呂に入り、それぞれの部屋で自分の時間を過ごす。少年は学校から与えられた課題をこなした後、長方形の機械に映ったキネトスコープらしきものを鑑賞していた。ん……今、画面の中で傷害事件が起こったぞ!? あ、でも、頭のよさそうな人が事件を解決した。悪人が野放しにされなくてよかった。 少年が部屋の灯りを消すと、壁がぼんやりと光った。あの灯りといい壁といい、どこから火を入れてどうやって消しているのだろう。謎だ。ただ、部屋の壁でうっすらと光るのは、どうやら宇宙の星々のようだった。 宇宙。 ……宇宙か。 この穢れの中にいる人たちもまた、アニンに住む人々と同じように宇宙に思いを馳せたのだろうか。 どこかの家で風鈴が、ちりん、と鳴った。 夜が深くなる。 この星の月は、一つだけだった。 まんまるで。優しそうで。 華茂は飛びながらその映像を見、口元をほころばせる。 そしてその月光は。 ――――二つに。分かれた。 突如現れたその光。 認識する暇などない。 あっという間に夜を呑みこみ。 全て 全て 白の………… 世界へ と。 …………………… ………………グウ、ン ………………ン……………… 華 の像 茂 ガ ぶ た レ | | | | | | | | | | | ザザザ………… | | | | | | | | ザザ…… | | | | | | | | | | ザザザ…… | | | | | | | | | | ザザザザ | | | | | | | | | | ザザ………… | | | | | | | | | | | | ここ どこ なの | | は | | | | なにが | | あった | | の | | | | 華茂は | | | | カ ニン | | ク ヲ | | 試み | | る | | | | ここは…… | | まだ | | | | 穢れの中だ。 | | | | そうだ。 | | | | そうだった。 | | | | 燕を助けるために、飛んでいるの | | だった。 | | | | この穢れのどこかに、燕の姿を | | 探しているのだった。 | | | | 歯をくいしばる。 | | | | 目を見開く。 | | | | その華茂の首に、なにかが | | かすった。 | | | | いたっ! | | | | なんか、血が出たような | | 気がする。 | | | | 途端、華茂の身体が前転し、 | | 何者かにつまみ上げられ、 | | | | 後転し、 | | | | そこからはもう、体勢がどうにも | | こうにも――、 | | | | わからなく | | ――なっ、た。 | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | | ごちゃごちゃになった 世界の| | 中を。 | 華茂は | | 飛ぶ。 進む。 | そして華茂は | 見た。| | 一瞬で変えられた | 世界の | | 全てを。 | | | | | | |
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