(え、嘘だろおい!!) 指を軽く耳に突っ込んでみたが血も出ていない、それでも声が聞こえてこないというありえない事が起きている、これは異常現象だ。 (どうなっているんだ?) 疑問に思いながら固まっていた周りの人を触ってみようと思った。すぐ横に立っていた人に手を伸ばして触れてみると、これがまた石像のようにとても硬い、上下や横へ動かそうとしてもそこからピクリとも動いてはくれなかった。何度も指で突いたり、ベタベタと手の平で色んな人を触っていると――。 「やあ」 (うわあっ!!) 1人の女性の声がどこからか聞こえてきたので俺は驚いた顔で少し飛び跳ねてしまった、声の方を向くと女性は腕は後ろにまわし、ロングヘアーの紫髪をサラリと撫でている。良かった、俺以外にも動ける人いるじゃないか。 「僕は神、この世界の絶対神だ、よろしく」 ……?? 何を言っているんだろう。 彼女のぶっ飛んだ自己紹介に困惑した。 (かみ……?) 「それよりさ、この服と髪型どうかな? 人間はまず中身よりも外見を好む生物だったからキミが好きそうな格好で来てみたんだけどっ」 その場で両手を広げ彼女はクルリと1回転をして俺にその姿を見せつけてきた。確かにそのドレスはとても似合っているが、その前にまず色々と言いたい事がある。どうして周りが止まっているのか、そして彼女だけはなぜ俺と同じように動けるのか? これをどうしても尋ねたかった。 (でも声が出せないんじゃなあ) 彼女に何を言っても伝える事が出来ない、なのになぜ彼女だけは話せるのだろうか全く理解が出来ない。本当に神なんだろうか? そうじゃなければこの状況の前提が成り立たなくなってしまう。 (あー、あーっ) ダメだ相変わらず声が出せないな、色々試してから彼女を見ると気怠そうに頭の上で両腕を組んでその辺を歩き始めた。 「はあー、世界と生物全員を再構成するの大変だったんだよね」 彼女を話を『理解しろ』というのが難しいのかもしれない、なんだよセカイト、セイブツノ、サイコーセーってわかるように説明してくれ。 「あ、そうそう、キミの声はさっきからきちんと聞こえているよ? 正確には思考が読めるってだけなんだけど」 え、マジですかごめんなさい神様、じゃなかった、本当に神様なんですか? 「うん」 ……とにかく一旦落ち着こう、このよくわからない状況に何とか適応しないといけないようだ、そう思った俺はとりあえずどうなっているのかを頭の中で思い浮かべると神様はクスリと笑った。 「説明してもいいのかい? キミの頭が壊れちゃうかもよ?」 このおかしな現象にも慣れてきたので大丈夫です、というか意外にも人間の適応力というのは素晴らしい、それに神様と名乗る女性と会話を交わしている事に違和感を抱かなくなってきている。ちょっぴりと安心した気持ちで神様を見ているとピッと俺に向かって人差し指を突き付けてはまたぶっ飛んだ事を言ってくる。 「それじゃあ簡単に経緯だけを説明するね、まず一度世界は滅んだんだ、だから僕は世界を作り直した。なぜそんな大それた事が出来るのかと言うと僕はこの世界の絶対神だからだ、ここまではいいかい? ……あれ、聞いてる?」 あまりにも膨大な情報量に俺の思考は停止を選択してしまっていた。 ――。 ――――。 「おーい、大丈夫かい? つんつん」 ……はっ、気がつくと彼女に額を突かれていた。もう一度きちんと整理しよう、このままじゃまた脳が破壊されてしまう。えーっと、まず世界は一度滅んだ、それで神様と名乗るこの人が世界を作り直した。なぜそんな事が出来るのか? (それはこの世界の絶対神だから……か) うんうんと彼女は顔を動かすがやっぱり意味がわからない、まず第一に神様はなんで俺の目の前に現れたんだろうか。 「ああそれは簡単だよ、この石を見てごらん」 そう言って神様は懐から変な石を取り出しては俺に手渡してきた、もらったその石をじっくりと眺めてみると、石の中心には虹色の宝石が埋め込まれている。とても綺麗だ、次に石を手の平の上に乗せてコロコロと転がしてみると、突如として宝石の色は失われていき壊してしまったのかと思った俺は慌てて神様に返した。 「あはは、他とは違う面白い反応するねキミ」 笑顔を向ける神様、ほかってなんだろう? いやそれよりも、今のはなんなんですか? 「力だよ、キミにしか使えない、強い力」 ち……ちから? 「うん、この力を与えるに相応しい人物を探すためにね、しばらく観察していたんだ。この人なら闘争に溢れた世界を何とかしてくれる、そう思ったからこうして直接会いに来たんだよ?」 なるほど……いや、なるほどじゃねえ。そう思うのは神様の勝手ですけど俺はこの世界では平凡だし、何ならその辺の虫と変わらないちっぽけな存在だと思いますよ、そんな俺が世界をどうこう動かすのは無理だと思います。 「ふーん、意外と自信がないんだ? じゃあこれでもダメ、かな?」 おもむろに上の服に付けられていたリボンをシュルリと外す神様、服ははだけてしまい、その大きい胸をたゆんと上下に揺らして俺に近づいてくる。いきなり何をしてくるんですか!! 「ねえ、お願い、聞いてくれないかな?」 気持ち悪いぐらいに身体を密着させてくる、しかし顔はウルウルと今にも泣きそうに見えてしまい、なんだか申し訳ないと思ってしまった。なぜ男性は女性の事を可愛いと思うのだろうか、誰かハッキリ説明してくれ。 ダメですよ神様、そう思いながら神様の肩を押して距離を取ると、2歩、3歩と後ろへ距離を取った。それでも神様は諦めてはくれず、トテトテと歩いて回り込んではまた俺に目線を合わせる。 「お願いだよお、話だけでもさあ」 また大きな胸をたゆんと俺の身体に密着させてきては腕に巻き付くように抱きついてくる、正直この体勢は心臓の鼓動が高鳴り、凄く緊張する。俺は照れた顔を見せないよう視線を上へ向けた。 「ねえ、僕すごーく困っているんだけどなあ……」 ああ、俺も今困っている。さっさと離れてください、気持ち悪いんですよ。 「ええ酷いよお、キミってさ、困っている人を助けたいとあの子に食べ物をもらった時に思ったんだよね? だから助けて欲しいなあ」 ああもううるさいなあ、じゃあ聞くだけですよ神様、それにシュンとした顔もちょっと可愛いし、なんでこんなにも可愛いんだよ、すると急に神様は抱きつくのをやめた。 「そう、じゃあ聞いてくれるという事でさっさと本題に入らせてもらうね、種族同士の争いが激化していきこの世界は滅んだ、それが約100年以上前の話だ」 急にガラリと態度を変えて説明を始めてしまった、なんだか騙された気分だな。 「もちろん神様の僕が人前に出て抑制する訳にもいかなかったから、魔法でも科学でも解明出来ない様々な超能力というのを作り上げて配ったんだ、今発生させている時間停止もその1つに過ぎない……さて、ここまではいいかな?」 よくない、ちょっといいですか神様。 「ん、なんだい?」 滅んだってどういう事なんですか? こんなぶっ飛んだ事を言われたらじゃあなんでこの世界が今存在しているのかって俺は鼻で笑いながら思ってしまいますよ? 「うーん? でも現に滅んでしまったし……」 ちなみに理由はなんなんですか? 「ああ、色々だよ、そうだなあ。1つ世界が滅ぶに至った例を見せてあげようか?」 神様は真顔でそう答えると固まった男とタルトに向けて手を伸ばし、魔方陣を展開させる。ま、待てよお前まさか……。 「そのまさかだよ? 今ここで魔法を放てばどうなるか……まあ間違いなく2人は死ぬだろうね」 平気な顔して何を言っているんだコイツ、怒りの感情が襲ってきた。俺は上下の歯を少し噛み合わせながら神様を睨み付けていると、彼女はクスクスと笑って「冗談だよ」と一言いって魔方陣を閉じた。さっきから俺の反応を確かめるように接してくる神様の態度が気に入らないな。 「キミが持つこの感情、これって憎しみと恨みとかだっけ? まあ悪いとは言わないけどこれが原因で人類は多くの人を巻き込む戦いに発展していくよね。ああ、住む場所がほしくて戦争していた種族もいたっけな、殺して、殺されて……また誰かが殺された仇を討つために立ち上がっては誰かを殺していく」 そんな話は聞いていない、頭の上から下にかけて怒りがふつふつと湧いてきた。 「永遠に終わらない負の連鎖……君達はこの無駄なサイクルを何年繰り返すのかな? ふふっ……下手したらずーっとかな?」 ……いい加減にしろ、つまり俺に何を望んでるんだよ、一体アンタはどうしてほしいんだ!! 「ごめんごめんそんなに怒らないでよ、僕は彼らを殺すつもりなんて無かったんだからさ、こうしたらついキミがどういう感情を抱くのか知りたくなってね」 人間は実験動物ではない、神様は軽い態度で胸をたゆんと揺らしてから謝るが、機嫌が悪い状態で逆にそういう事をされると不快感が増すだけだ。表情を変えずにジッと睨んでいると神様は「うーん、こうかな? ごめんね、もうしないよ」と頭を下げてしっかりと謝罪をしてきた。 なぜだろう、神様からは申し訳ないという感情がしっかりと伝わってこない。ひょっとして感情という物が存在しないんだろうか? 「ごめんなさい、キミの言う通り感情というのは理解出来ないんだ、えーっと、これでどう?」 やっぱり謝罪の気持ちが伝わってこない、ダメだ一旦落ち着こう。神様なりに必死に謝っているんだ、俺はわかりましたと心の中で思い怒りの感情を沈ませる。すると神様は良かったと両手を合わせてクスクスと笑った。まあ怒っていたら人の話なんて冷静に聞けないし、まずは情報を集める事を優先しよう。 「じゃあ話を戻すね、キミにこの超能力をあげるから、そのかわりに全種族の闘争を収めてほしい」 ……そんなあっさりととんでもない事を言われても困るんですけど。
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