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 まず超能力ってのはなんですか、ゆっくりと順を追って説明してください。 「えぇ? 順序とか別に良くないかい?」  神様はなぜか気怠けだるそうに答えては嫌そうな顔を俺に向ける。いや自分が状況に流されやすい性格なのはわかっていますけど、今は説明をしっかりしてもらわないと困るんですよ。 「ええ~?」  もしこの奇怪な状況でまた新しい事が起きてしまったらまともな対応が出来ないんですよ、わかってください。 「……人間のそういうところ、僕は嫌いだなあ」  俺だってアンタが嫌いだよ、でもこれから先、想定外の出来事が起きても困るから聞いているんです、そう思っていると神様は両手の人差し指をつんつんと合わせながらぷくっと頬を膨らませ、1から説明を始めてくれた。 「はあ、世界のバランスを維持してもらう為に僕が与えた超能力はね、結果的に全ての生物が滅ぶのを激化させる要因となってしまったんだ。それで僕は責任を感じて世界を作り直してあげたんだよ」  なるほど、これで大体流れはわかった。まあ納得は出来ていないけどな。神様は説明に疲れたのかやれやれとした表情で見つめてくるがこれを初見で理解してくれというのが難しいだろう。 「全く、君達人類がこんなにもバカだったとは思わなかったよ」  ……種族達が悪いのはわかりましたけど、能力を与えた神様も原因の1つでは? 「まあね、もちろん僕も悪かったと感じている。だからこうして次は8つの全種族に声をかけてから与える事にしたんだ」  え、全種族? 「うん、人間、妖人ようじん、ドワーフ、エルフ、獣族じゅうぞく、天族、魔族、竜族の計8種族で合ってるよね?」  合ってますけど……。 「その力を上手く使って他の7人の超越者と協力するんだ、優しく対話を試みようとするキミなら出来ると思う」  いやそんな事を急に言われても無理ですよ、というかなんでやる流れになってるんですか、俺は話を聞くって言っただけでまず受けるとは一言も――。 「まあまあ、力を使えば幸せな人生が待っているよ? 考えてもみてよ時間停止だよ、止めた世界でキミだけが自由に動けるんだ!! こんな能力だったら何でも出来る気がしてこないかい」  いやまあ、魅力的な能力ではありますけど全種族と調和するのは無理ですって! 俺は必死に抗議すると神様はうーんと顎に手を当てて考え始めた。 「……じゃあこうしよう、キミに能力はあげる。全種族を束ねるかどうかは後から考えてもいい、これならどうかな?」  なんだか言いくるめられてるような気がするけど種族の平和は目指さなくてもいい、かつ能力は与えられる、それなら悪くない条件だ。 「でしょでしょ、それにどうせ人助けをしたいと望むキミが平和を目指さない訳がないだろうし」  それを神様に言われるとまた腹が立つな、でも超能力はほしい、なぜなら俺はあの子を救わなければいけないからだ、俺は固まったままのタルトを見る。希望という明日を与えてくれたのはタルトだ、だから超能力とやらで受け取った恩が返せるならしっかりと返すべきだろう。  別に神様の手の平で踊らされても構わない、神様の方へと再度向き直すとふーんという感心したような顔をしていた。 「へえ、さっきよりもキミいい目をするようになったね」  1つ聞いてもいいですか神様? 「ん?」  神様と名乗るほどの人がこんなにあっさりと世界に干渉して良いんですか? 「たまたま干渉した、うーん、人間の言葉で言うなら奇跡とか偶然ってヤツだよ?」  奇跡とか偶然ですか……それって結局、神様にとって世界が滅ぶと何か都合が悪いからじゃないですか? そう思っていると神様は興味を持ったのか食い気味に理由を尋ねてくる。 「へえ……面白い、それキミ、とても面白い考え方だ。どうしてそう思ったのか聞いてもいいかな?」  急に作り直したとかいう大きな干渉を始めたのがその証拠ですよ、何か複雑な事情があるんですよね? 「うんうんもちろんあるよ? 超能力があろうがなかろうがこの世界を平和にしてくれないと君達生物はいずれ僕を存在ごと消しにくる力と方法を持ってしまうんだ、これは人間で言うところの死と同義だね、君だって死ぬのは嫌だろう?」  ああなるほど……。要するに超能力をあげるから自分と世界を守ってくれって事でいいんですかね、後は干渉し続けると自分の立場が危ういからとかかな。それと神様自身がそういう超能力を持っているという線もありますよね。 「……はは、人間の想像力ってのは恐ろしいね、あの時もそうだ。僕は君達人間という種族を見くびっていたのかもしれない」  あの時って? 「ん、一度滅ぶ前の超能力者のお話だよ」  なるほど、というか前の人達も良く引き受けたなこんなおかしな話……。そうだ、他の超越者達はこの事をどう受け止めているんだろう? 「大丈夫だよ、既にキミ以外の7人は納得してくれたから、もうそれぞれの平和に向けて考えているんじゃないかな?」  神様はニヤニヤと期待する目で俺を見る、ここまでぶっ飛んだ話をされて納得出来る人が7人も見つかった事に俺はびっくりだ。でも能力だけを受け取っておいて損はないだろう、俺はそう思っていると神様はパチンと指を鳴らして自身の身体を上空へと浮かせた。 「君に与えた超能力は時間停止、8人の中では時の超越者だ。文字通り全ての時を止めて君だけが自由に動ける力、応用次第では君の能力が一番面白いのかもね」  止める事に応用も何も無いような気がするけどな、説明を言い終えたのか神様は人の形から光の球へと姿を変えて上空へと舞い上がっていく、一方的に言いくるめられたのは腹が立つが、時間停止とやらがタダでもらえたんだ、この能力でどうやってタルトを救うか考えていると――。 「ああごめん、聞き忘れた」 (っッ!!)  心臓が突き破ったと錯覚してしまった、びっくりするなあもう、光の球、いや神様は面白かったのかクスクスと腹立たしい笑い声をあげながら1つの質問を投げかけてきた。 「あはは、えっとね、一応みんなに聞いているんだけどもし世界を作り替えるとしたらキミはどういう世界を望んだりするんだい?」  答えによって能力取り上げとかありますか……? 「ううん、ないよ。キミの考えを聞かせて?」  その質問にうーんと悩みながら腕を組む、まず世界の破滅なんて俺は求めてはいない、理想は金に困る事のない世界だな、そんでもって風を感じながらゆったりと昼寝出来るような気楽さが大事だ。 「ふむふむ」  それと魔法も超能力も存在しない、力の上下もない、誰かが身分を押しつけてくる事もないのがいい、まとめるとみんなが思いやりに溢れる世界、それが俺の望む世界……かな。 「ふふ、どうしてそれを望むんだい?」  また神様は食い気味に聞いてきた、そんなの決まっているだろ、まず俺が人としてちゃんと生きたいからだ。このまま人生なんて辛いだけだった、なんて思いたくないんだよ。それは自分でも驚くほど咄嗟とっさに思い浮かべた言葉だった。神様は「わかった」とひとこと返事をすると、また上空へと昇っていく。 「面白かったけど僕にはあんまり理解出来ないかな、ま、人間は君を選んで良かったよ、与えられた力を存分に楽しんでね」  それはまあ、超能力は楽しめるように作っておかないといざって時に受け取った8人は神様を守ってくれないですしね、その辺はバカな俺でも理解出来ますよ。 「ははっ、ほんと人間って一番面白い生物だね――」  俺の言葉に対し図星だったのか神様は鼻で軽く笑うと黙ったまま徐々に光を弱くしていき、やがて完全に消失してしまった。好みの外見だったからちょっぴり消えてしまったのは悲しい。 「……なんだ、お前? どこから現れたんだよ」  突然の殺気を感じた、声の方を向くと男が凄く睨み付けている。 「あっ……」  まずい、どうやら神様と喋っていた事でタルト達の前まで来ていたらしい、それと耳はハッキリと聞こえる、という事は時間停止は解除されたのか。 「あーっと……」  どう説明していいのかわからない、俺は言葉を探しながら顔色を伺い、どうやって時を止めるかを考えいた。というか真っ先に聞くべきだった、俺のバカ。どうにかしてお互いに気付かれず、タルトのポケットを探ればいいんだろうか。 (うーん……)  この石を使えば時間が止まるのかな? 試しに石を前へと掲げてみた。 「ああ? 一体何をしてんだテメェ!!」  普通に男は罵声を浴びせてくるし、時間は停止してくれない、一体どうなっているんですか神様……? もしかして何かしらの発動条件とかあるのか? その辺をきちんと聞いておけば良かった……。  でもここまで来て何も行動しない訳にはいかない、俺はとりあえずヘラヘラと愛想笑いしてみたがこれが全く効果はなく、むしろ男にとって火に油を注いでしまったようで更なる怒声を浴びせてきた。 「んだよその態度はよお!!」  めちゃくちゃ怒ってる、今にも殴りかかってきそうな勢いだ。まさかこんな事になってしまうとは、状況はドンドン悪くなっていく。こうなったら話し合いだ、きちんと会話をすればなぜこんなにも怒ってるのかわかるはず、それに話し合いの最中に殴られる事はないだろう。俺はゴホンと1つ咳払いをしてゆっくりと話を始めた。 「ほらあの、暴力とかはよくないですよ、何事も話し合いが大事ですし、ねっ?」  ドガッ。 「うるせえ!!」 (いってえええッ!! 思い切り腹を殴られた……!!)  全然話が通じない、もしかして肺が潰れてしまったのではないかと錯覚してしまうほどの痛みが襲ってきた。俺はその場に倒れ込み、大きく口を開けて体内に酸素を無理矢理入れてみる。良かった、呼吸は難なく出来たのでどうやら潰れてはいないようだ。 「お兄ちゃん!!」  タルトは大声をあげて俺の方へと近寄ってくる、バカだなあこのスキにさっさと逃げればいいのに。 「おっと、どこへ行くんだ?」  逃がさないぞと言わんばかりに男は再度手を伸ばしてタルトを捕まえた。タルトは助け船を求めるようにキョロキョロと周りの者達を見るが、この件に関してはみんな関わりたくないらしく誰1人として目線を合わせない。 「おら、さっさとその膨らんだポケットの中身を見せてみろ!!」  男は叫んでからタルトの身体を触る、大変だ、早く何とかしないと、先程よりも強く男の手を拒んだタルトは大声を助けを求めていた。くそ、俺は自分の身体を起こそうとするが痛みがまだ尾を引き、未だに四つん這いの状態から動けずにいた。 「やめて!! 離してよー!!」  何とかしてやりたい、しかし少しでも身体を動かすと激痛が襲ってくる。俺は誰かがタルトを助けてくれる事を祈ったが誰も手を差し伸べる事もなく、「やめろ!」という一声すらもない。

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