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 虚を突かれたがハルバードで三体からの攻撃をなんとか受け流す。 「このっ!」  ヴィヴィは援護しようと分身の横面に蹴りを放った。だが、大きな手によってその足は掴まれてしまう。 「あなたの相手は私ですよ」 「貴様――!」  割って入ってきたのは本体であるドゥドゥであった。ヴィヴィの顔を映した瞳の奥に、これまで見せなかった明確な敵意が宿っている。  足を掴んだ手に力が入る。それを感じ取ったヴィヴィは、体を宙で横に回転させて男の手から逃れることに成功した。  地面に着地し、この戦いの本丸である敵を睨む。それに対してドゥドゥは腕を広げて余裕を見せた。  ちらりと、ルカが三体の分身と戦っている姿が横目に入る。防戦一方になっているが、もう少しは持ちそうだ。先ほどより分身たちの動きが悪くなっているようにも見える。 「少年が気になりますか? あなたなら気づかれているかもしれませんが、分身は私の力を受けながら動いています。ですからこうして私の目を離れるとあの通りでして……。離れた所から見守ってあなた方が根を上げるのを待つ作戦でしたが、気が変わりました」 「はっ、大層に能力を自慢していた割にはその程度なのか? 貴様も失敗作なんじゃないかと心配したらどうだ?」  その挑発にドゥドゥの眉をぴくりと動かす。だが、それも一瞬のことでまた笑みを浮かべた。 「今の私だけで判断するのは早計というもの。ルトゥタイは様々な遺伝子を持っているそうです。その内、私が取り込めたのはまだ砂粒ほど。ですが、ラドカーンの研究が進むことにより私はさらに優れた生命体へと進化します。是非あなたにもご協力して頂きたい」  仰々しい所作で自らの願望を明かす。それはドゥドゥという個体がすべての生命体の頂点に君臨するというものだ。 「……くっくっく」  ヴィヴィが小さな声で笑う。そして、 「あーはっはっはっは!」  遥か上空にあるルトゥタイの傘へ届かせる勢いで笑い声を響かせた。  戦いを眺めているラドカーンだけでなく、攻撃を防いでいる最中であるルカも、何事かと訝しんだ。  だが、相対しているドゥドゥだけは冷たく鋭い目つきでヴィヴィを見ていた。 「ふむ、気になりますね。何がそんなに可笑しかったのですか?」 「いや、貴様もあの老人に頼りっきりなんだとわかってね。ブルゴーがボクらに殺されそうになった時、『ラドカーンにもっと強くしてもらうんだ』と叫んでしっぽ巻いて逃げたことがあったんだ。貴様もあんな惨めったらしく逃げるのかと思ったら、ついつい可笑しくなってしまい声が抑えられなかったよ」  まだ余韻が残っているように彼女はまた笑った。  冷静に振舞っている男の顔が徐々に引きつっていく。 「あんな失敗作と一緒にされるとはね……。あなたの審美眼は狂っているようだ」 「それはどうかな。傲慢、他力本願、そのくせ承認欲求が強い。めんどくさいことこの上ないな。ルカに少し分けてやってくれ。いや、あの少年の人の良さは折り紙付きだから、少しぐらいじゃバランスは取れないか……」 「あまり適当な評価を付けないで頂きたい……!」 「おや、怒ったのか? この前は感情があまりわからないと言っていたけど、貴様が言うところの成長をした結果か? どうだい、たくさんの人を食べて得た感情は? 他者を取り込まないと成長しないだなんて、優れた生命体とはよく言ったものだ」 「お前こそ同類だろうがああああああ!」  咆哮するように怒りを吐き出すとともにドゥドゥは地を蹴った。  策略に掛かった相手を待ち受けるべくナイフを構える。  しかし、 「なっ――」  背後に気配を感じた瞬間、羽交い絞めにされて足が地面から離れてしまう。突然の出来事に暴れて逃れようとするが、腕でがっちりと締め上げられて叶わない。  そして、ドゥドゥは剣に模した右腕の切っ先でヴィヴィの腹を貫いた。共に刺された分身は役目を終えて糸へと還る。 「ヴィヴィ!」  口から大量の血を吐いた彼女の姿にルカが叫んだ。  三体目の分身を力尽くでなぎ払うと、すぐさま助け出すべく駆け出した。 「ぐっ!」  だが、それを妨げる壁のように新たな三体の分身が現れる。 「どけええええええええ!」  ハルバードを振るい一体を倒した。だが、他の二体が襲い掛かってくる。そうこうしている間に分身が復活してしまい、ルカの焦りは強くなる一方で前に進めない。  ヴィヴィの所までは見た目には近い距離だが、湯水の如く湧いてくる敵によって手の届かない距離になってしまっている。 「ごほっ……! ごほっ……!」  苦しそうに息をする彼女を男は恍惚とした表情を浮かべながら眺めていた。 「もう舌は回らなくなりましたか? 散々威勢の良いことを仰っていたというのに、お気の毒様です」  そう言うと、ドゥドゥはヴィヴィの胸倉を掴み、貫いた剣を一気に引き抜く。 「ぐわあああああ!」  痛みに声を上げた体から赤い血が噴き出した。そして、ナイフを握る力も無くなりぐったりと動かなくなってしまう。血が滴る右腕は五指の手に戻る。 「ドゥドゥ、殺してはおらんだろうな?」 「ええ、腐ってもあなたの研究成果と言えましょう。まだ息はしていますよ」 「そうか。なら、早速持って帰るとしよう」  老人と男が狩りが終わったかのように会話を交わした。  その様子を戦いながら見ていたルカが腹の底から叫ぶ。 「てめえええええええ! その手を離しやがれえええええええ!」  今すぐにでもドゥドゥに切り掛かりたいが、次々と際限なく憎き男の分身が行く手を阻んでくる。 「うるさい小僧だ。あいつの始末もつけろ」 「わかりました」  ついでと言わんばかりに杖先で指し示してラドカーンが命令する。それを受け、息も絶え絶えであるヴィヴィを投げ捨てようとした。  すると、 「……だ、……う、ね」  パクパクとさせる彼女の口から声が漏れていることに気づく。胸倉を掴んでいる左手を胴体に寄せた。 「聞こえませんね。死に掛けているのですからおとなしく――」 「……さま、は、飼い慣らされた……、家畜、だ……。ボクとは、ちが……」  刹那、体中の血が沸き立ち、涼しげな顔が鬼の形相へと変貌する。 「減らず口があああああああ!」  怒声とともに、握り締められた拳が振りかぶられた。  肉薄した状態で怒りによって周りが見えなくなった男に隙が生まれる。  ヴィヴィは自らが作り出した状況の仕上げに移る。腰に携えていた注射器を左手で引き抜くと、ドゥドゥの腹に注射剤を打ち込んだ。 「何を、オエッ――!」  ドゥドゥの口から透明な液体が噴き出した。体中のあらゆる器官が異常を示したかのような感覚に襲われる。

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