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 ブッフとの第3回戦が始まった。  メガデインズの先発は高橋虚舟、左のオーバーハンド。  ブッフの先発は園、こちらも同じく左のオーバーハンドだ。  サウスポー同士で始まった試合は9回まで進んでいる。 『ツーアウトまで来ました。あと一人で連敗はストップ!』  高橋さんは9回まで完投ペース。試合は3-4とメガデインズがリードしていた。  あと一人でチームも勝利だ。何としてでも勝利が欲しい。勝てば……勝ちさえすればチームはまとまるはずだ。 「皆、それじゃあ逆転を信じて行くわよ!!」 「よっしゃー!」  レフトスタンドからブッフの応援が始まった。 ――オイ! オイ! オイ! レッツゴー! ストローマン!! 「魔曲……『ミネルヴァ』」 『ストローマンヒット!』 ――ブッフの夢は! それはそれは日本一!! 「魔曲……『鼠捕りの末路』」 『セカンドの福士ヒット!』 ――我らに勝利をもたらせてくれ共に戦おう! オライオンズ!! 「魔曲……『閻魔門』」 『キャッチャー冷泉ヒット! 同点!! 』 「くっ!」  同点に追いつかれてしまった。  あの応援団の闘争のドラムと魔曲の合わせ技は厄介だ。ブッフ打線の攻撃力が高まっている。 「パウロさんが来てから、地味で暗いオライオンズの雰囲気が変わったよ」 「パーさん最高!」 「皆、これからよ! 勝利を信じて行きましょう ♡」 ――B! U! F! F! オー! ブッフ!!  レフトスタンドが盛り上がる。  そうだ、応援団を指揮するパウロという男を倒せば、闘争のドラムと魔曲の効果が無くなるはずだ。  僕は昨日のマリアムとの会話を思い出していた。 「オライオンズの私設応援団『ブッフ親衛隊』パウロ堀ってヤツが結成したみたいやな。カッコイイ応援歌を作成し、若者を中心に信奉者が増加。前の地味で暗い応援団を追い出したみたいや」 「パウロ堀?」 「ほれコイツや。この男がパウロや」  マリアムがパソコン画面を指差す。  『WowTube』という動画再生サイトが映り、ブッフ親衛隊が応援曲を披露している。  そこには、金色の長髪に漆黒の貴族服を着た男がいた。  この男がパウロか……。 「そーれ! 皆、声を合わせていくわよ!!」  指揮棒を持ち、応援団の演奏を指揮している。  曲が奏でられる。聞いている僕の方も不思議な高揚感に包まれた。 (間違いない……曲の合間、合間に妖魔の魔曲を織り交ぜている)  この世界の人物には気付かないであろう音。  人間のフリをしているが、この男が妖魔であることに違いない。  選手以外にもこうやって刺客を放っているというのか……。 「次の回は僕に打順が回る。その時にアイツを――」 『高橋、ここで交代のようです』  追いつかれたところでピッチャー交代のようだ。  次はサウスポーの神保さんが入る。 『神保がここでピンチを切り抜けました!』  流石というべき神保さんのナイスリリーフ。  まだ同点だ、次の9回裏に1点いれればサヨナラ勝利だ。 「あと一人だったのに」 「今日は勝てると思ってたのにな」  チーム内の空気は相変わらず悪い。不平不満の声が小さく聞こえる。  打たれた高橋さんはガックリしていた。自分が打たれたことを気にしているのだろう。  僕は高橋さんに話しかける。 「高橋さん」 「ん?」 「僕が必ず打ちますので」  ――9回裏、僕が打席に立つ。  投手はリリーバーのリッチ、右の速球派投手だが……。 「彼の球は軽い。被本塁打がワ・リーグでもトップさ」  神保さんが打席に立つ前に教えてくれた一言だ。  狙うなら―――ホームランしかない! 「ストライク!」 ――スキル【集中】発動。  1球目……。  バットをボールに当てるため、僕は【集中】を発動させる。  狙いはあそこ、ブッフファンがいるレフトスタンドだ。 「ストライクツー!」 ――スキル【狙撃】発動。  2球目……。  スキル【狙撃】遠くにいる相手への命中率を上げるものだ。  本来【狙撃】は【投擲】と合わせることで効果を発揮するが……。 ――特技【破邪稲妻斬り】!  3球目……。  ストライクゾーンにボールが来た! (このタイミングで当たれば!)  遠距離での物理攻撃と同様の効果を発揮するッ!! ――カツーン!  僕はレフトへ大きなフライが打ちあげた。  頼む入ってくれ! 「平凡なフライね。さて応援の用意をするわよ!」 「パ、パーさん」 「何よ」 「ボールが白く光ってないっスか?」 「そんな……ウィルオウィスプじゃあるまいし」 「いや、ボールがどんどん伸びて……」 「おバカ! あんな掬い上げた打球が入るわけ――」 ――ドッ!! 「ぐぎゃッ?!」 『アラン! サヨナラホームラン!!』  打球がスタンドインしたのを確認出来た。  ベンチでは相手チームの監督が悲鳴を上げている。 「NOOOOO!!」 『ヴィンセント監督、まさかの展開で吠えている! これで連勝もストップ!!』  神保さんの指摘通りだ。リッチのストレートが軽くて助かった。  一か八かの賭けだったが入ってくれたようだ。 「パーさんの頭にボールが当たったぞ!」 「パ、パウロさん! 大丈夫ですか!? パウロさん!!」  ボールはパウロに当たったか……。これも狙い通り。  何はともあれ、これでサヨナラ勝利だ。 ☆★☆  試合はアランのホームランによりブッフは敗戦。これで連勝は5でストップした。 「試合負けちゃったね」 「まぐれだったんだよ」  ブッフファンが意気消沈する中、金髪長髪で時代錯誤な貴族服に身を包んだ男が叫んだ。 「何言ってんのよ! シーズンは始まったばかりでしょ!!」 「パ、パーさん」 「頭にボール当たったけど大丈夫?」 「大丈夫に決まってるじゃない。それよりも『オライオンズが好きだから』を演奏しなさいな!」 「あの曲は勝った時だけに……」 「いいからおやり!」  パウロの真剣な眼差しと声に、ブッフ親衛隊は首を傾げながらも言った。 「え、ええ……」 「パウロさんあってのブッフ親衛隊スから」 「分かっているじゃない。じゃあ行くわよ」 ――オライオンズが本当に好きだから♪ (大丈夫かって?) ――みんなでこの喜びを分かち合おう♪ ( 大丈夫じゃないに決まってるじゃない) ☆★☆  試合終了後、球場近くの人気のない公園にパウロは来ていた。  尖った耳に口からは牙が生えている、これが本来の姿だ。  その正体は妖魔『アイレン』アランの冒険中盤に出てきた敵である。 「よくやったぞパウロ」  パウロの前に大きな影が現れた。 「ウフフ……ザコはザコなりに仕事は全うしたわよ」 「見事な魔曲であった。お前の死は無駄ではない」 「これで呪いの効果が発動ね」  それを聞いたパウロは安堵の表情を浮かべる。 「短い登場だったけど楽しかったわ」  その言葉を述べると同時に、パウロの体から青白い稲光が噴き出した。  アランが放った光属性の【破邪稲妻斬り】の効果だ。  妖魔にとって光属性の攻撃は弱点。聖なる光の稲妻が、妖魔パウロの体内に浸透し蝕んでいた。  直接的な斬撃ではないので、体を内部から焼き尽くすまでに時間差があったのだ。 「応援って最高……」  パウロはその言葉を残しちりとなり消えた。  以降、闘争のドラムを打ち鳴らしても、応援歌を奏でても、ブッフナインの力を高める効果はもうない。 「パーさん、急にいなくなっちまったな」 「応援続けるぞ、俺らだけでもやるんだ!」 「そうだな!」  しかし、パウロ亡き後も曲は生き続ける。 ――B! U! F! F! オー! ブッフ!!

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