レフトスタンドに応援団が流れ込んできた。 全応援団員が白の法被を着用していた。 「このレフトスタンドが俺達のホームだぜ!」 「そこを退きなさいよ!」 何人かの応援団員が、観客席に座る魔物達に食ってかかっている。 「汚らわしい人間が座る席はねェぜ!」 「クケェー! ぶっ殺すぞ!」 血の気の多い魔物達だ。 ちょっと刺激で爆発する危険な状態だ。 ダメだ。 この世界の人間が凶暴な魔物に勝てるはずがない。 「逃げて下さい!」 僕は思わず叫ぶが――。 「ブチ殺してくれるわッ!」 「軟骨をゴリゴリ喰ってやるゥ!」 何匹かの魔物が襲いかかった! ――ゴッ! ドカッ! バキッ! 鈍い音がした。 ある魔物はバットで打ち倒され、またある魔物は無数の硬球が体に食い込んでいた。 応援団員達に襲い掛かった魔物達は絶命、その場に倒れ込んだ。 「アラン! 一般人に襲い掛かる魔物は某達に任されよ!」 「ノホホホ! 安心してプレイするがよい」 「南無阿弥陀仏……」 小倉、判官、弁天の三人だ。 どうやら合流してきたようだ。 「この佐古も応援するぞーっ!」 「君達の試合の行く末……ボクも見守らせてもらうよ」 あっ……佐古さんが混ざっているようだけど忘れよう。 それよりも、クリームやニンフ軍団だ――彼女達も僕達を応援してくれるというのだろうか? この大応援団の団長であろう八坂さんが二ッと笑った。 ――ピピーッ! ピッ! ピッ! ピッ! 八坂は笛を吹くと、 「それでは皆さーん! ワイらのプロ野球を取り戻すために――」 合図した。 「応援歌『勇王』いくやでエエエエェェェッ!」 ――チャー!チャッ!チャッ!チャー!チャッ!チャッ! トランペットが奏でられ。 ――勇ッ! 王ッ! 勇ッ! 王ッ! 人々の声が。 ――嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚! 一つとなり。 ――GO! GO! GO! GO! 万雷の拍手が打ち鳴らされた。 ------------------------------------------------------------------ 応援歌『勇王』 総合企画プロデュース:オディリス 作詞・作曲・編曲:八坂欽喜 イントロ 「勇」 「王」 「勇」 「王」 「嗚」(伸ばし) 「GO」×4 【歌詞壱番】 勇者の行進が 始まる今日 勇気を胸に 手にしたバットで打ち砕け (ブリッジ) 逆転の瞬間を この身に刻む 誰もが認める 強き戦士よ 熱き一撃を打ち放て 【歌詞弐番】 野球クエストを 行う現在 勇者の証し 握りしめたバットでぶちかませ (ブリッジ) 勝利の鐘が 高らかに鳴り響く 誇り高く 進め勇者達よ 煌めく栄光を勝ち取れ 【歌詞参番】 最終決戦開始 冒険はもう終わる 闇を払え 磨いたバットで打ち滅ぼさん (ブリッジ) 仲間達と共に築く 固い絆の力は無限大 勇気の歌が 揺るぎない力 エンディングの瞬間を向かえよ ------------------------------------------------------------------ 奏でられる光の応援歌がドームに響く。 その美しい音色かつ勇壮。 鳴らされる管楽器や打楽器音は、僕達メガデインズの体を心を揺らす。 「め、めちゃくちゃかっこええやん!」 観客席にいるマリアムは立ち上がり。 「みんなっ! MegaGirlsも応援や!」 「OK!」 「絶対に逆転するんだから!」 「このバカ試合も終わりですゥ!」 マリアム達MegaGirlsは立ち上がり、 「「「「勇ッ! 王ッ!」」」」 応援団を更に鼓舞してくれた。 そして、天堂オーナーも立ち上がりメガホンを片手に叫んだ。 「勝てる! 絶対に勝てるぞ! みんなのプロ野球を取り戻すんだ!」 そうだ。 僕は――僕達は絶対に勝たなければならない! 「応援歌如きで何がッ!」 ピッチャーマウンドの黒野はボールを投げた。 打席に立つ国定さんの目は鋭い。 「ファンの声援はありがたいものだ」 じっくりとボールを引きつけ、 「この私に更なる力を与えてくれる!」 打った! ――カツーン! 『初球打ちだアアアアア!』 『マ、マンダム――これは大飛球だぜ!』 初球打ちした打球はセンター方向への大飛球だ。 「や、やった……」 僕は自然と声が漏れた。 あの打球なら間違いなくホームランだ。 「……いったか?」 冷静だった西木さんがベンチから身を乗り出した。 大飛球の行方を見守っている。 「や、やったぜ!」 「これで逆転だ!」 元山さんや鳥羽さん、他の皆もベンチから身を乗り出した。 この打球の角度なら間違いはない。 僕達は土壇場で―― 「いや……まだわからないよ」 「オディリス?」 神保ことオディリスだけが冷静だった。 それはオディリスだけではない。 「アラン君、センターを見たまえ」 元神である片倉さんもだ。 「センター?」 「魔物達が何故か三人集まっている」 僕はセンターに目をやる。 そこにはヒロ、フレスコム、ベリきちの魔物外野陣が集まっていた。 外野のリーダー格であろうヒロが何か言っているようだ。 「モンスターシフトを使うぞッ!」 「クワカァー!」 「まさかこの技を使うとはなッ!」 僕は打球よりも、ヒロ達の動きを注視することにした。 一体、あいつらは何をする気なんだ……。
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