勇球必打!
ep53:赤い意志、黄金の炎
「ヘ、ヘリコプター!?」
ドカが上空に浮かぶ黒い長方形型の固形物を指差す。
そのヘリコプターから、三人の男が降り立ってきた。
「坊ちゃま、完成致しましたぞ!」
「野球に実況はつきもの! この小前も仲間に入れて下さい!」
執事のような老人とマイクを持った男、最後はえーっと……ダンディな外国人が現れた。
「マンダム――男の世界に解説はつきものだ」
少し訛りみたいなものがあるが、日本語が流暢のようだ。
どこかで見た顔だが全然思い出せない。
僕が必死で思い出そうとしているところ、天堂オーナーが執事風の老人に駆け寄った。
「世界的デザイナー『オシノ・ジャンヌ』考案、来期着用予定の3rdユニフォームをお持ち致しました」
「こ、恋川……これが〝赤い意志、黄金の炎〟をテーマにしたものなのかい」
「左様です」
「凄く良い!」
恋川という執事風の老人はユニフォームを手にしている。
赤を基調としたカラーに描かれた炎、それはどこか不死鳥のように神々しくも見える。
「なんちゅうセンスや」
マリアムが少し呆れる中、MegaGirlsは小前という男を取り囲った。
「小前さんじゃないですか!」
「何でこんなところに」
「ハスキーボイス♡」
「アサミさん、美桜さん、穂乃果さんですか。 皆さん相変わらず可愛いですね」
残りのMegaGirlsメンバーはそんな名前だったのか。
僕が彼女達の名前を今更ながら知ったとき、ダンディな外国人に渋い声で語りかけられた。
「男の顔になったな」
「あ、あの……あなたは?」
「忘れたのかい、オープン戦で対戦したブロンディだ」
そう言えばそんな人がいたな……。
別に解説はいらないと思うが、ここまでの物語で実況はいても解説がいないのもおかしな話だ。
彼の途中参戦も有りといえば有りだろう。
そして、ブロンディさんは顎を擦りながら言った。
「どうやら難なくドームに侵入出来そうだな」
「難なく?」
難なく侵入とは一体?
ブロンディさんは数歩歩きだすと、文字通り背中で語った。
「君が知らない間に、各チームが勝利したということさ」
☆★☆
ヘリ! クルージング船! あるいはボート!
あらゆる手段を講じ、遊瞑島に設置された12の球場を強襲するチームがいた!
『刻は来た!』と言わんばかりに『野球一揆』が始まったのだッ!!
――遊瞑島・子の球場
「な、何故だ……最強の力を持つ我らシヴァチームが……」
デーモン1号は驚いていた。
勝負は回に5点差をひっくり返されての逆転負け。
最強クラスの鐘刃サタンスカルズの選手で構成、云わば最後の砦的存在であるが敗れ去ったのだ。
「いわゆる一つのメイクドラマですね」
クラシックな縦縞模様ユニフォームを見に包む男が言った。
名は皇茂夫。東京サイクロプス所属の4番打者『Mr.プロ野球』と呼ばれる球界を代表する選手である。そして、日本代表『侍ジャパン』のキャプテンでもある。
侍ジャパン VS 鐘刃サタンスカルズ・シヴァ 勝者『侍ジャパン』
☆★☆
――遊瞑島・丑の球場
こちらも既に試合は終了。
プロ野球OB界より引退から2年以内に構成されたOBクラブ。
長年プロで磨いたテクを活かし、パワーで圧倒するタウラスチームに勝利していた。
「力では俺達に分があるはずなのに……」
筋骨逞しいデーモン2号が驚いていると、鼻息荒くする草魂逞しい男が言い放った。
「力だけで勝てると思うな若造!」
OBクラブのエース、鈴草魂魄の完投勝利である。
「投げたらアカン!」
まさに貫禄勝ちであった。
プロ野球OBクラブ VS 鐘刃サタンスカルズ・タウラス 勝者『プロ野球OBクラブ』
☆★☆
――遊瞑島・寅の球場
「さわやかガッツ! 僕が求めていたのは君達のようなスターだよ!!」
北海道カムイの監督、ビッグアニキこと炎原豪志は長襟を立てて喜んでいた。
今回の闘いのため、炎原が甲子園のスター達を中心に編成した『甲子園の英雄達』。
見事、甲子園に行けなかった怨念の野球狂者軍団、スミロドンチームに勝利していた。
「高校野球に怨みを持つのは……俺達だけと思う……なよ……第二、第三のスミロドンが……ぐふっ!」
スミロドンチームのリーダーであるデーモン3号。
そう言い残すと事切れた。(死んでない)
チームのエースである米沢とリリーフエースの牛丸、彼らはスミロドンチームに対し哀れむような顔をしていた。
「そういえば、この寅の球場……甲子園に似た作りをしているな」
「甲子園への想いが捨てきれへんかったんやろうな」
米沢は寅の球場のバックスクリーンを眺めている。
「牛ちゃん、僕達は誰かの屍を越えて甲子園に……プロの舞台に立っていることを忘れないようにしよう」
「せやな」
牛丸は瞑瞑ドームを見つめる。球友への想いだ。
「ドカ、後は頼んだで」
甲子園の英雄達 VS 鐘刃サタンスカルズ・スミロドン 勝者『甲子園の英雄達』
☆★☆
――遊瞑島・兎の球場
東京サイクロプスにボロ雑巾のように捨てられた選手を中心に集められた、バーディラビットチーム。
デーモン4号は現実を受け入れられないでいた。元プロがアマに敗れ去ったからだ。
「ア、アマチュア如きに……」
ムツミ自動車の山芳英郎と瑞穂国生命の松浦則正、このダブルエースを要する社会人野球連合軍に大金星を上げられてしまっていた。
「元プロという肩書に胡坐をかき過ぎだぜ」
「社会人野球を嘗めるな!」
社会人野球連合軍 VS 鐘刃サタンスカルズ・バーディラビット 勝者『社会人野球連合軍』
☆★☆
――遊瞑島・辰の球場
こちらは辰の球場。
実力者揃いのキングヒドラチームが守護している。
元メジャーリーガーで構成された外国人連合軍、難攻不落の球場であるはずなのだが――。
「You are kidding !?」
日本へ来日する外国人は峠が過ぎたか、マイナーで燻っている落ちこぼればかり。
そんなザコと見下していたキングヒドラチームは、日本プロ野球に在籍する外国人連合軍『ブラックシップス』に乱打戦の末に敗れ去ったのだ。
「ナメタラ イカンゼヨ」
たどたどしい日本語で話すのは、オライオンズのヴィンセント監督。
そして、傍らにはメガデインズの通訳であるブルボンがいる。
「ガーバー! 生まれ変わったようやね」
「トルネード投法に魔改造したからね」
先発を務めたのは、ノーコンだったイルケアガーバーことガーバーである。
彼はハイデンやベールと違い、野球に取り組む姿勢が真面目だった。
2軍でのフォーム改造や配球を学び一皮むけたのだ。
「投げて打たれる。それが野球さ」
ブラックシップス VS 鐘刃サタンスカルズ・キングヒドラ 勝者『ブラックシップス』
☆★☆
「熱男オオオオオオォォォォォッ!!」
「ナスターシャ!」
「アクアボール!」
その他各球場でも、12球団の選手あるいはアマチュアの実力者、独立リーガー達、更には女子プロ野球選手までもが『日本のプロ野球を守るため』に立ち上がっていた。
――遊瞑島・亥の球場
金髪を覗かせるデーモン12号、既に三振をしてゲームセット。
フルスイングした影響で仮面は取れ、イケメンな素顔を晒していた。
「ええい、ファルコンズの超新星は化け物か! 」
そして、最後は亥の球場。
ドーピングにより肉体強化したレッドボアチーム。
ワダツミリーグのオールスター選手で構成された、オールワダツミに完封勝利されていた。
「僕が一番、フォークをうまく使えるんだ」
そして、オールワダツミの先発は長崎ファルコンズ所属の嶺選手。
背番号はまだ『079』の育成であるが、実力は一級品。
元々はシーズン終盤の秘密兵器として育成されていた、お化けフォークを駆使する次代のエースである。
「次はZ世代かZZ世代か……プロ野球の未来が楽しみだ」
オールワダツミの総監督である佐世保二四三、余裕たっぷりに口髭を撫でていた。
オールワダツミ VS 鐘刃サタンスカルズ・レッドボア 勝者『オールワダツミ』
☆★☆
全12球場の試合は終了。
それと同時に遊瞑島を二つの意志と炎が包み込んだ。
――カッ!!
逆境を跳ね返す『闘志』『熱意』『情熱』という漲る輝き『赤い意志』!
――ボッ!!
それに付け加えるは『夢』『未来』『希望』という金色の生命力『黄金の炎』!
「いくぞ!」
アラン達は来期使用予定の3rdユニフォームを装備。
〝赤い意志、黄金の炎〟の決意を持ったメガデインズは、最終決戦の地である瞑瞑ドーム内部へと侵入する。
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