勇球必打!
ep87:黒い霧の誘い

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『BGBGsの攻撃は続きます! 次はサードのレスナー! 恐ろしい大型の魔物です!!』 『ありゃカイザートロルっていう、トロルの上位互換だ』 『ブロンディさん。何故あなたが知っているんですか?』 『マンダム――ゲームで見たからだ』 ――レスナー! レスナー! レスナー!  ホーム側、ライトスタンドから大声援が木霊する。  相手はカイザートロル……力が自慢の魔物だ。 「オレも続くぜ! この〝うねり打法〟で二者連続ホームランだぜェ!!」 「うねり打法?」 「大地の力を使うのさ!」 「だ、大地の力?」 「秘密はこの右足の母指球!」  右打席のレスナー、軸足となる右足に履いているスパイクをドンと踏みしめている。  何が言いたいんだろうか。 「鍛え抜かれたオレの健脚を下から上へと順次捻じりッ! 大地の力が下から上へと段々と伝わっていき、インパクトの瞬間にピークに達す――」 「ストライク!」 「はうわっ!?」  訳の分からない打撃理論を喋っているが僕は無視した。  ど真ん中直球で1ストライク取らせてもらった。 「アホ――ッ! 大地の力とか陳〇王かいな!」 「理論はあってもね」 「今のど真ん中じゃない?」 「舐めプですゥ」  マリアムを始めとするMegaGirlsの野次がボクにも聞こえる。  レスナーは顔を真っ赤にしていた。 「こ、こいつ……!」 「よく分からないけど、君なりの打撃理論があるってことは分かった」  僕はセットポジションに入る。  ブルクレスにはホームランにされたが、あれは完全に打ち取っていた。  バンシーの能力がなければフライアウトの当たりだ。  ならばどうするか? 要するに打たさなければいいのだ。 「相手を嘗めているわけではないが――」 ――ブン! 「バッターアウト!」 「お、俺のうねり打法が当たらないのかァ!?」  レアスキル3つの発動により体の調子がいい。  投げれれば投げるほど力が漲るような気がして来た。  この最終決戦ラストバトルにおいて  これでレスナーは三振。次はレフトのベリきち、グレーターデーモンだ。 「ワシをさっきのバカと一緒にするなよ」 「バカ?」 「レスナーのことだ」 「仲間をバカにするのか」 「我らBGBGsは鐘刃様に召喚された魔物。その中でも野球知識と技量を試験され選別された野球エリート達よ。野球脳が足りないレスナーは理論があっても知恵が足りない!」 ――クイックイッ。  左打席に立つベリきちは独特の打法だ。  オープンスタンスになり、バットを立てリラックスしたフォーム。  脇と足を動かしながらリズムを刻んでいた。 「打撃とはタイミング! スキル【律動調息法】だか知らんが、まず貴様の呼吸に合わせ――」 「ストライク!」 「たわばっ!?」 「タイミングを取らせなきゃいいんだろ?」  僕は渾身の闘神ストレートを投げた。  要するにタイミングさえ合わなければバットはボールに当たらない。 ――ブン! 「バッターアウト!」 「このストレート勇者がァッ!」  全球ストライクゾーンへの闘神ストレート。  伸びのある直球に全くタイミングが合わず、ベリきちは悔しそうに三振に喫した。  一塁ベンチ前では、ホブゴブリンの田中と鐘刃がキャッチボールをしながら何やら会話している。 「か、鐘刃様……これは不味い、不味いですぞ!」 「想定外の出来事だな」 「ど、どうなされますか? ブルクレスの一発で完全に目を覚ましてしまいました」 「その一発ではない。あのセンターの忍者が片倉というヤツを救出した時からだ」 「へっ……?」 「安心感だよ片倉ヤツが解放されたことでの安心感。心理的なリラックスは肉体のリラックスへと繋がったということだ。心身ともにヤツは充実している」 「で、では……」 「田中、落ち着け。次の打者はアルストファー……ヤツの狡猾な野球脳に期待しろ」  二人はどうやら次の打者を見ているようだ。 「フッ……『勝ちを得るためには手段を選ばない』それがBGBGsのチームスローガンです!」  8番キャッチャーのアルストファー。  ささやき戦術で翻弄するヴァンパイアであるが、どのような狡猾な作戦を組み込んで来るのだろうか。 ――スッ……  右打席に立つアルストファーは、バットを何故か三塁内野席を指していた。 「アランさん、あちらを御覧なさい」 「何を……」 「ククッ……見ればわかりますよ」  三塁内野席。そこには確かマリアム達がいる。  ま、まさか、彼女達に危険が!?  そうだ。ここは魔物達の巣窟、彼女達がいつ襲われても不思議では……。 「オラ! アラン、いてもうたれッ!!」 「ちょ、ちょっとマリアム君! お下品な応援だぞォ!?」  マリアムが酔っ払いのような応援をしている。  どうやら無事なようだが―― 「もう少し奥の席をご覧なさい」  アルストファーはもっと奥の席を見ろという。 「あ、あれは!?」  応援席には人間が数名いた。 「アル様♡」 「打って下さいませ!」 「メガデインズを血祭りですわァ!」  全員女性だ! どうしてここに人間が!? 「あれはひなてぃ!?」 「あ、安孫子さん」  ショートの安孫子さんが棒立ちだ。  ひなてぃ、元山が言っていた安孫子さん推しのアイドルか。 「ひなてぃ……それってアイドルの?」 「何で彼女がドームに……」  驚く僕達を見てアルストファーは冷酷な笑みを浮かべた。 「私の僕達です」 「し、僕!?」 「人間とは愚かな生き物ですね。ちょいと顔がよくて紳士的な雰囲気を醸し出せば、ホイホイと付いて行きメス顔を晒し血を吸えるのですから」 「ど、どういう意味だ?」 「アラン、あなたなら知っているでしょう。ヴァンパイアのスキル【吸血】を」  スキル【吸血】。  相手の血を吸うことで人間を使役出来る能力。  安孫子さんは、推しのアイドルを汚されたことで怒りを露にした。 「よ、よくも、ひなてぃを!」 「安孫子さん! 落ち着いて下さい!!」 「ククク……彼女達は元に戻せるのは私のみ」  そう呟くと打席でバットを構えながら言った。 「ど真ん中に投げなさい。痛打して差し上げますよ」 「な、何だと……」 「それは私だけではありませんよ。次の打者も、次の次の打者も、ど真ん中へ浮いた球を投げるのです。更に高めならばベネ! それを私が許可するまで投げ続けなさい」  八百長を要求した。  人質を取り、僕に敗退行為を求めているのだ。 「ひ、卑怯だぞ……」 「卑怯もラッキョウもない! 勝てばよかろうなのだ!」 「くっ!」 「さあ投げなさい! 投げろ! 投げろ! 投・げ・ろオオオォォォ!!」  僕はボールを見つめる。  どうすれば……もし投げなれば応援席にいる女性ファンが……。 『ど、どうした!? アラン! 先程からマウンドで棒立ちだぞ!!』 『いい流れで投げているのに、どうしちまったんだ』 ――チャラララ♪ チャラララ♪ ――はよやれ! はよやれ!  魔物達の煽るコールが再び響く。 「ど、どうしたんや! 早くそのヴァンパイアを三振にしたれ!」  マリアムの声が耳に届く。  理解わかっている。理解わかっているのだが。 ――トン  大きな手が僕の肩を叩いた。  それはセカンドのスペンシーさんだ。 「ボーイ、邪悪なる吸血鬼の言葉に屈してはいけない」

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