作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

『今日の先発は支配下登録されたばかりの湊選手! 育成上がりのルーキーです!』  湊がキャッチャーを見つめる。女房役は徳島凡太、愛称は『ドカボン』皆はドカと呼んでいる。  僕と同期入団であるが、春季キャンプに彼の姿はなかった。  その理由は『ダイエット』。オフに食べ過ぎて激太りしたらしい。  そこで球団はドカをリハビリ組へと配置し、徹底的に体を絞らせたとのこと。  と言いたいところだが、まだまだドカはオークのような体型だ。 『そして、キャッチャーは徳島凡太! こちらもまたルーキーであります!』  ドカは甲子園なる大会で牛丸という投手とバッテリーを組み大活躍した。  決勝では大宮に在籍する米沢要する湘南未来高校に敗れ去ったが、体調管理は別として実力は超高校級の逸材とのことらしい。果たしてプロではどうなるか。 『負けたら即辞任の西木代行監督! その運命を新人に任せて大丈夫なのか!? 大風呂敷を広げ過ぎたか!?』  二人の実力は未知数だ。  だが、西木さんは軽慮浅謀けいりょせんぼうな人ではない。  何か考えがあってのことだろう。 『第1球……』  湊が投球フォームに入る。  外連味のないオーソドックスな右のスリークォーターだ。 『投げた!』 ――バシ! 「ストライク!」 『球速表示は139キロ!』  遅い……。  特徴のない直球だ。 (ノホホホ! アマに毛が生えた程度の球でおじゃるな。球も顔も特徴が無さ過ぎる)  京鉄のトップバッターは復帰明けの判官。  左打席でバットを肩に担ぎながら不敵に笑っている。 『第2球投げました!』 ――カツーン!  そこそこ曲がるカーブは打ちごろだ。当然ながらライト前にヒット。  判官は一塁塁上で、ゴブリンのように笑いながらリードを取る。  続く二番は金剛という選手の打席だが……。 ――エアカンダス!  判官はエアカンダスを唱え脚力が向上、見事盗塁を決める。  以前、僕は判官から風属性の呪文『ウィンドスラッシュ』の攻撃を受けた。  つまり、風属性の呪文は使えるということか。  隙のない攻撃、続く金剛はバントを決めて判官は三塁へと進塁。  さて続く3番だが……。 『3番 ファースト 弁天 背番号36』  投手である弁天がファーストに入っていたのだ。   『花梨監督は何を血迷ったのか! スタメンに投手である弁天を持ってきました!』 「弁天! この間の投球でイップスになったのか!」 「うわァ……花梨のおっさん何考えてんだよ」  両球団から野次が聞こえる。  それもそうだ弁天はあくまでも投手、バッティングには期待できない。  でも不気味だ、3番に置くぐらいなので何かあるのだろう。  それに合わせたかのように、オニキアが一塁ベンチ前でキャッチボールを止めたのが外野から目に入った。 (バトルマスターとしての力を存分に発揮なさい)  弁天が右打席に立ち、体の正中線に合わせてバットを立てる。  マリアムに渡された本で見たことがある、あれは『神主打法』という構えだ。 『ピッチャー湊、ワンアウト三塁を置いてバッターは弁天!』  湊は三塁の判官を見てセットポジションに入る。  素早く左足を上げると……。 『投げた!』  投じた球はスライダー、アウトローへと投げ込まれるが……。 「ボール!」  判定はボール。  一球投げたのを見て、キャッチャーのドカが動いた。  審判にタイムをかけ、マウンド上の湊の元へ向かったようだ。 「肩に力入り過ぎやで」 「この試合で負けたら監督が……」 「まだ始まったばっかりや。1点も取られていないうちに弱気なこと言ったらアカンで」  ドカがポンと湊の胸を叩くとキャッチャースボックスに戻っていく。 「――法蔵菩薩因位時ほうぞうぼさついんにじ」  弁天といえば不動の姿勢でバットを立てたままだ。  心なしか神経を集中させているようにも見える。 「――在世自在王仏所ざいせじざいおうぶっしょ」 (さっきからコイツは何をブツブツ言っとるんや。しかしDH制を採用してるワの投手やというのに、このバットを持つ弁天ちゅうおっさんからは異様な落ち着きと雰囲気を感じるで)  ドカは外角低めに構えている。 (試合は始まったといえど、ここは長打は避けたい) 『湊、第2球を投げました!』 「南無三ッ!!」 ――特技【鬼神斬り】! 「なっ!?」  外野からであるが、僕は目を見開いた。  弁天のあのスイングは紛れもなく【鬼神斬り】を応用したものだ。  その証拠にバットの先端から闘気が漏れ出ている。  弁天は【地竜拳】【震脚】と職業クラス武闘家が使う特技を行っていたのに何故だ?  勇者は別として【鬼神斬り】は職業クラス戦士が使える特技のはずだ――。 「ま、まさか!」  僕は一人で声を出していた。  武闘家と戦士の特技を同時に使える職業クラスがあることにはある。  それは職業クラス『バトルマスター』。古に滅んだ伝説の職業クラスだ。 ――カツーン!  大飛球がライトに打ち上がるが浅いフライだ。  僅かにバットの先で当てたのが幸いした。あの特技は命中率が低いのが救いだ。 「……」  ライトを守るのは国定造酒くにさだみき、新しくスタメンに名を連ねるメンバーだ。  全体練習前、皆に簡単な挨拶をしたが必要以外は話さず、無口で謎が多い。  開幕直前、いなくなった紅藤田と入れ替わる形で入団したとのことであるが……。 『国定落下地点へ走り入る!』  国定は落下地点へ降りグラブを構え……。 『取った! ランナー判官はタッチアップ!!』  浅いとはいえ瞬足の判官だ。  肩力がどの程度あるか分からないが、投げたとしても間に合うかどうか……。 (フム……鬼神斬りは外れたか。だがこの距離であれば、普通に走っても間に合うでおじゃろう) 『ライトの国定、バックホーム!』 ――ビュッ! (無駄なあがきよ。このタイミングなら悠々と……)  送球が投じられる。  いや待て――あの送球!! 『魔弾の送球だァ――ッ!』  ボールに風の魔力マナが込められている!! 「なにッ!?」  魔法剣ならぬ魔送球が投じられ、ドカがボールをキャッチ。  そのままミットでタッチへと向かう、誰もがこれで交代と思っていたが――。 「ちいィ!」 ――特技【跳躍】!  タッチ寸前に判官は飛び上がった。  そのままドカの頭上を越え、一回転して本塁へと着地。  これで京鉄の先制だ。 『は、八艘はっそう飛びィ! 弁◯高校リスペクトで先制!!』  何という人間離れした動きだ。何かの呪文か?  しかし、判官のスーパープレイもさることながらあの国定という男だ。 「竜騎士の【跳躍】か。あれも太古の昔に滅び去った職業クラスの特技……」  国定が何か言っているようだが、遠すぎて聞き取れない。 (何者なんだ)  送球する時に確かに見えたのだ。  オニキアのように国定は指先のボールに魔力マナを込めていたのだ。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません