勇球必打!
ep50:メガデインズVSメガデインズ

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「これで全Lessonは終了だ」  僕はボロボロの姿となっていた。  兎角さん達の辛く厳しい野球修行、それぞれの試練を乗り越え圧倒的な野球力を身に付けた。 「洞窟から出ようか」 「はい」  ネノさんの姿も僕と同様に至る所に傷がある。  詳しい話は後程するとして、お互いに精神と魂を削るほどの野球バトルを繰り返したのだ。 「――とその前に男の姿に戻るか。このなりじゃ誰かと思われる」 ――スキル【変身】発動!  ドロンと変身した彼女は『河合子之吉』という男の姿に戻った。 「俺は何とか体力はあるが親父達……いやトカクちゃん達はダメだな」 「ト、トカクちゃん!?」 「俺の親父として転生する前は、仲間モンスター兼ペットだったのさ」  ネノさんの言葉は一旦置いておくことにして……。  僕は後ろを振り返った。そこに兎角さん、麦田さん、高橋さんの姿はない。  各『Lesoon』という野球バトルを実施、彼らを倒し踏み越えて来たのだ。  全ては球界を支配する魔王を打破するために……。 「皆……ありがとう」  僕は誰かの力で、自らの物語を進めて来たことを改めて自覚した。  フィールドやダンジョンで出て来た魔物達のお陰で強くなれたのだ。  そう……人は決して一人だけの力だけでは生きられない。 ☆★☆ 「天堂オーナー遅いですね」 「森からは怪物の鳴き声が聞こえてきます!」 「早く元に世界に帰りたいなァ」 「ええーい! 君達は黙って『勇者』の帰還を待ちたまえ!!」  洞窟の外からは聞いたことがあるような声がする。  天堂オーナーやMegaGirlsのメンバーか?  ――となると。 「早く行ってやんな」 「わわっ!?」  ネノさんがポンと僕の肩を押され外へと出されると……。 「アラン!」  マリアムに飛び付かれた。 「心配したんやで! 『試練に失敗すると、二度と生きて出られない』とか言われたんやから……」  突然のヒロイン行動に驚くも、僕も僕で何だか嬉しい……。  いやいやそんなことよりも、この洞窟ってそんなに危険だったのか? 「そんなに危険なものだったの?」 「うん、ヘタしたら試練で死ぬかもしれないって」  涙ぐむマリアム、僕はちょっとまだ理解出来ないでいる。  野球バトルと大層なことを言ったが、洞窟の中でやったのは野球の練習だ。  確かに休みなしの血を吐くような練習だったが命までは取られない。 「誰が言ってたの?」 「ホッグスくん」  僕が辺りを見渡すと、天堂オーナーやMegaGirlsのメンバー。  そして、目立たない位置で腕組みをして立つホッグスくんの姿を見つけた。 ――キュキュッ…… 『それっぽいこと言った方がいいかなと思って』  カンペが書かれた文字を読み、僕は黙ることにした。 「ちょっとちょっと!」  天堂オーナーが手を振り上げ、オーバーアクションを取りながら迫って来た。 「手を出しちゃあダメと言ったじゃないか!」  何だか天堂オーナーは勘違いしている。  僕とマリアムにそんな関係はない……たぶん。 「いいじゃないですか!」 「二人は愛し合っているんです」 「一部のファンの間じゃあ有名ですよ」 「えっ……ウソ、マジ?」  なんだその噂は……いつの間にそんな話が流されていたんだ。  そもそも僕は人間でマリアムは魔物だ。 「魔物を好きになったらダメというルールはねェよな」  後ろからネノさんにからかわれた。  マリアムはネノさんの姿を見て僕をジッと見ている。 「何でコイツが洞窟の中におるねん」 「えっ……それは……」  ネノさんは笑いながら言った。 「ハハッ! 中で可愛い女とあれこれやったんだよ」  なっ……この人は何を言っているんだ。  そんな勘違いされるようなことを――― 「なん……やと……」  やはりマリアムの見つめる目が怖い。それはMegaGilrs達も一緒だ。 「サイテー!」 「正義の味方だと思っていたのに見損ないました」 「それでも勇者なんですか!?」  ん……ちょっと待て、何で僕のことを勇者だと知っているんだ。 ――ツカツカ……  僕が動揺と混乱しているとホッグスくんが近付いて来た。  持っているカンペには既に何か書かれている。 『緊急事態が発生したので、全員に全部ゲロった』 「え!? そ、そうだ、そもそもホッグスくんの正体は――」 ――ピラリ  カンペを一枚めくると、僕の考えを読んでいたかのように書かれていた。 『そんなことはどうでもいい! これからラスト前の調整試合へと向かうぞ!!』 ――ホッグスくんは テレポレートをとなえた! ☆★☆ 「アラン、どこやここは?」 「知らない……初めて来るところだ」  ここはどこだろうか……どこかの村の広場だ。  だが円状に土の地面が拡がり、その先は緑の芝生が拡がっている。  世界の隅々まで冒険したはずだが、まだまだ知らない場所があるようだ。  僕達はキョロキョロと見渡すと、目の前には黒い軍団が背を向けて立っていた。 「だ、誰だお前達は?」 「ククク……久しぶりだな」  一人がこちらを振り向くと……。 「お、沖田!?」  どういうことだ。  僕が驚いていると、天堂オーナーが黒い衣服を指差しながら言った。 「し、しかも、あの来ている衣装は!」 「オーナー知っとるんかいな!」  マリアムの言葉に天堂オーナーは答えた。 「去年の夏イベントで使用したユニフォーム! 『漆黒の意志、絶対殺すマン』をメインテーマにした特別仕様だ!!」 「何やねんそれ……」  一方、沖田は笑いながら指差す。 「やっと来やがったか。お前達を待っていたんだぜ」  爽やかさは消え、邪悪な笑いを浮かべている。  MegaGirlsの面々は変わり果てた沖田を見て悲鳴を上げた。 「お、沖田君!」 「体から負のオーラが……」 「爽やかな笑顔はどこにいったの!?」  涙ぐむ女性陣を見て沖田は叫んだ。 「黙れメス犬ども! 俺は沖田ではない『ジャンボ沖田』だ!」 「ジャ、ジャンボって何だよ」  ネノさんの言葉を聞き、黒い軍団が一斉に振り向いた。 「沖田は野手として生まれ変わったのさ」  に、日暮里さん!? 「アヘアヘ! まさか沖田に野手としての才能があるとは思わんかったで!」  間さんだ!  そして、金光さんが薄ら笑いを浮かべている。 「ふふっ……私の脇締め理論を叩き込んでやった。ちなみに沖田はゴルフをやらせても才能があるぞ」  どうでもいい情報は聞き流すことにして……何てことだろう。  間さんを始めとするコーチ陣までこちらに来ていた。  全員、体から負のオーラを発し暗黒臭を漂わせている。  僕達が沖田達の変わり果てた姿を見ていると、後ろに何かの気配が感じた。 「これは大変なことやと思うよ」  ふ、福井さん!?  それに両脇に挟んで立っているのは……。 「Kiss my ass俺のケツにキスしろ!」 「Screw youくたばれ!」  ハイデンとベールもいる……。  これは一体どういうことなんだ。 「カカカ! 驚いているようだな」  その三人の前にはキャッチャー姿の男がいた。  確かあいつは同期入団の田中……。 「ウルフとイノの仇を取らせてもらうぜ!」  田中は体が変形すると正体を現した。  赤い体色をしたホブゴブリンだ。 「ま、魔物がまだ紛れ込んでいたのか!?」 「俺はシーズン終盤の切り札よ。隙あれば、俺の強肩から繰り出される硬球をお前の頭にぶつけるつもりだった」  天堂オーナー達は異形の怪物を見て動揺している。 「な、何だ特殊メイクか!?」 「異世界でそんなモンするわけねェだろ、これは正真正銘のお顔だぜ」  下卑た笑みを浮かべるホブゴブリン。  僕はヤツに質問する。 「これはどういうことだ」 「簡単な話さ。コイツらは恐怖に負け、魂を鐘刃様に売り渡し野球下僕と化した」  福井さん達はマッスルポージングをとりながら言った。 「ええんちゃうか。最高ちゃう」 「アヘアヘ! ワテらも肉体を若返らせてもろて力を得ましてん」 「その秘密はコレだ!」  影沼澤さんが何かを取り出した。 「デドゾンガーリック!」  真っ黒なニンニクを取り出している。  明らかに怪しい健康食品にしか見えない。  怪しげなアイテムを訝しんでいると嵐岡さんが言った。 「さっさと野球勝負をしろ! そこの着ぐるみ野郎のご指定だしな!!」  隠れるようにして立つホッグスくんを指差した。  ここはホッグスくんが指定した場所なのか……。 ――キュキュッ…… 『こいつら罪もない村を襲って、君達をおびき出そうとしてたので先手をうっておいた』  カンペに書かれた文字を読む。なるほど……そういうことか。 ――カチャ……  ホブゴブリンはキャッチャーマスクを被ると大声で叫んだ。 「戦闘開始プレイボールだ!」

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