――スキル【殺人球活人球】発動! レアスキルを発動させ全能力値はアップ! 僕は渾身の直球を内角へ投げた! ――フッ! 「な、何だと!? 腕の振りが消え――」 ――バシーン! 雷鳴のようなミット音が響くと―― 「ストライク! バッターアウト!」 「うぐわあああッ!」 ブルクレスは見逃しの三振に斬って捨てた。 僕が投げた内角の直球は見事ストライクゾーンに決まっていたのだ。 『キレキレ! 内角ズドンの直球で三振だ!!』 『――にしても驚いたぜ』 『どうしたんですかブロンディさん』 『腕の振りが見なかった。まるで高速の鞭を振るか如くのリリースだったぜ』 ――ザワザワ…… 『ん……どうしたんでしょうか。球場がザワついているようですが』 『電光掲示板の球速表示を見ろ!』 『きゅ、球速表示ですか? どれどれ……』 ――球速163キロ。 『で、出た夢の160キロ越え――ッ!』 球場内がザワついている。何が起こったのか全く分からない。 ブルクレスを討ち取った後にドカが立ち上がった。 「よっしゃ! その調子や! 次の打者も討ち取っていくで!!」 「あ、ああ……」 投げた後のことはあまり覚えていない。 このレアスキル【殺人球活人球】は僕の潜在能力を極限まで解放させるためだろうか。 (投げる瞬間までは覚えていたけど……) そう……投げる球種とリリースの瞬間までは確かに覚えていた。 でも、不思議なことに自然と僕は捕手のミットから目線を切ってしまうのだ。 おそらくは強力すぎるスキルのため、力を暴走させないようにするための自然な動きなのであろう。 三振したブルクレスだが、新たな総指揮官となったデーモン0号が何やら尋ねている。 「どうだったブルクレス?」 「腕の振りが消えた……まるで高速の鞭を振り回すかのように……」 「無意識でやってるんだろうが『マッハリリース』といったところか」 「マッハリリース?」 「背骨を含む全身27か所の関節を回転、連結、加速させ、瞬間的に音速に達するリリースだ」 「そんな人間離れしたことは可能なのか」 「可能だ。数々のレアスキルを発動させ、肉体の限界まで能力を底上げさせた今であれば……」 それは注意なのか、アドバイスなのか……。 デーモン0号は足を組んで僕を見つめる。そして、何かブツブツと呟き始めた。 「しかし、ヤツは気付いていない! レアスキルの過多な発動は〝諸刃の剣〟だ!!」 ――全員集合! 突如立ち上がったデーモン0号はベンチ内の全員を呼び寄せた。 「基本的にノーサイン! 好き勝手して構わん! だが勝利のために戦略は統一させておきたい!」 何やら熱く語っている――一体何を企んでいるのだろうか? ☆★☆ 「ストライク! バッターアウト!」 「ウグオオオッ!」 6番のレスナーを三振に仕留めた。アウトにするまで要した球数は5球。 うねり打法とやらで、ブンブンとバットを振り回すイメージが強かったが軽打中心だった。 バッティングの変化に違和感を持ちつつも、僕は次のバッターを迎える。 『続いては7番バッターのベリきち! 手元の資料によりますと魔界一のバットコントロールとのことです!』 『そんな資料何処で手に入れたんだよ』 『先程ゴブリンから渡されました!』 次のバッターは7番のベリきち。 最初の打席はタイミングが云々言っていたが……次はどう攻めて来るか? 「ふふふっ……」 ベリきちはグレーターデーモンらしく悪魔的な笑みを浮かべる。 正直言って不気味だ。 僕は警戒しながらも、ドカのサイン通りに投げる。 1球目は内角への直球、2球目は外角低めのチェンジアップだ。 ――バシィ! 「ストライク!」 ――バシィ! 「ストライクツー!」 不思議なことに1球も振ってこない。 全てストライクゾーンに投げているというのに……。 (何故振ってこないんや? 全部甘めのコースやったで) ドカがチラリとベリきちを見ている。 サインは高めの直球だ。 ――バシィ! 「ボール!」 高めへのボール球を投げて視線を上げさせた。 セオリーでいくと、次は低めへのカーブを投げて三振、あるいはゴロアウトだ。 僕はレアスキル【精密樹械】を発動。外角低めへと投げ込んだ。 ――カン。 絶妙なコントロールで投げ込んだがカットされた。 それも器用なことに体勢を崩されながら上手く捌かれたのだ。 こうなったら直球を内角へ投げてアウト――と言いたいところだったけど。 ――コッ。 またカットされた。 それは続く5球目や6球目、更には7球目も一緒だ。 『上手くカットします! ベリきち選手!』 『マンダム――ファール打ちの名人かよ』 そして、僕は8球目を投げた。 ほぼど真ん中のストレートだ。 ――コツン! ベリきちはプルヒッティングでファールにする。 「コラァ! さっさと前に飛ばさんかい!」 マリアムの野次が飛んできた。 ベリきちはそれでも不気味に笑い続けるだけだ。 「ふふふっ!」 僕がセットポジションに入った時に一塁側ベンチが見えた。 ゼルマがベリきちの打席を食い入るように見つめている。 その隣にヒロがいるようでバットを握りながら何か話しかけているようだ。 「あの剛球をカットするとは……」 「ベリきちは一打席目の反省からバッティングを変えたのだ」 「バッティングを変える?」 二人で見合っているが……何かのアドバイスだろうか? ヒロがバットを短めに握りながらレクチャーしているようだ。 「このようにベリきちはバットを短く持っている」 「ハッ!?」 「チームバッティングに切り替えたのだ。状況により己の打撃スタイルを変えるのは、流石はベテランの魔物といったところだな」 「チームバッティングに……スタイルの変更……」 「ゼルマ、ベテランの動きを見て盗み学べ。何も教えられるだけが勉強ではない」 ――クイックイッ。 「おい勇者様よ!」 ベリきちの声が聞こえた。 脇と足を動かしながらリズムを刻みながら挑発してきた。 「対戦相手はワシだ! 大差からの余裕であるが集中力が切れているんじゃないのか?」 「余裕なんてないさ。雰囲気が変わった君達に驚いているだけさ」 この言葉にウソ偽りはない。 あのデーモン0号の登場からBGBGsのメンバーの雰囲気がガラリと変わった。 僕からは彼らは鐘刃の力と恐怖の支配から解放されたように見えた。 それはノビノビとした充実したプレーへと繋がる。 「それを余裕というのだ。雑念を捨ててワシにかかってこい!」 「言われなくとも!」 今は僕達がリードしているが、何かの切っ掛けで同点あるいは勝ち越される。 そんな恐怖があるのだ。 「いくぞ!」 ――闘神ストレート! 僕はベリきちを一打席目で仕留めた闘神ストレートを投げるも……。 ――カツン! 打たれた! それも詰まったような当たりのセンター前ヒットだ。 『う、打った! 打ちました! ベリきちヒット!』 決して失投ではない外角低めへの闘神ストレート。 それを見事にベリきちはバットに当ててヒットにしたのだ。 「ドンマイや! どうせアウトを一つ取ったらチェンジやで!」 ドカがフォローしてくれる。 そう次は8番の田中――ホブゴブリンのあいつだ。
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