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「私の生前も似たような言葉を言われたな。『世界に平和と秩序を取り戻す』などという偽善を」 「生前?」  鐘刃の言葉に首を傾げた。  何者かは知らないが人智を越える術を扱えるのだ。  野球好きな神々がこの世界に介入しているのならば、この鐘刃も転移もしくは転生者に違いない。  どこの魔族か魔物か……もしくは邪悪な心を持つ人間なのかもしれない。 「お前は誰の転生者なのだ」 「ふふっ……」  鐘刃は冷たく笑うと――― 「魔王イブリトス」  驚愕の事実を述べた。 「そんな!?」  魔王イブリトス、確かにそう言ったのだ。 「イブリトスは死んでなんか――」 「アラン、君は並行世界パラレルワールドという言葉をご存じかな」  パラレルワールド? 初めて聞くような言葉だ。  戸惑う僕に鐘刃は説明した。 「並行して存在する別の世界のことさ。つまり『君が知る世界とは違う、別次元の世界にいたイブリトス』それが鐘刃周という人間の転生前の存在ということになるな」  このイブリトスは僕が知るイブリトスではないということか。  確かに違う。  僕が知るイブリトスは威厳と落ち着きがあった。  どこか老成とした賢者の雰囲気と言ってもいい。  だが、この鐘刃は全く違う。ギラギラと燃え滾る若者らしい野心があった。 「そのイブリトスは、たった3人のパーティに屈辱的な敗北を喫して死んだのだ」  状況も違うようだ。  僕はオニキア、デホ、ブルクレスの4人パーティでイブリトスに挑んだ。  しかし、目の前の転生したイブリトスは『違う世界線にいる僕がたった二人の仲間を連れて倒した』ようだ。  ということは、別の世界の僕は魔王イブリトスを無事に倒したということか。  でも問題は別だ……。 「では、お前を転生させたのは……」 「神!」  やはりそうだ。  パラレルワールドのイブリトスも神の力でこの世界へとやってきたのか。 「オディリスか?」 「さァ……どうだかね」  鐘刃は『誰が教えるか』という意味深な表情だ。  転生した魔王らしい不遜な態度ともいえるだろう。 「何にせよ、この私はアランという存在に復讐リベンジしたいと思っている」 「それは僕も一緒さ、イブリトスという存在に雪辱リベンジを晴らしたい」  別次元同士の勇者と魔王同士の会話。  お互いが同じ存在にした敗北者、想う心は一緒だ。  だが、明確なのは支配したい者と支配から解放する者との違いだ。  視殺戦と舌戦が繰り広げられる緊張感ある雰囲気、そうすると……。 「アラン!」  後ろから声がしたので振り向く、そこにはマリアム達がいた。  皆、ラスボス戦に相応しい神妙な顔つきをしている。  覚悟を決めて来てくれたようだ。 「やっと来たか、メガデインズご一行の皆さん」  鐘刃の言葉を聞き、天堂オーナーと西木さんは冷や汗を流している。 「か、鐘刃周……最初に出会ったときより怖いな」 「ええ……まるで全身の皮膚という皮膚を針で刺されるかのような……」  殺気がだだ洩れだった。  これまでとないほどの破壊的なオーラに満ち満ちている。  そんな鐘刃を見てチームメイト達は少したじろいでいた。  これがスポーツを……野球をする雰囲気なのかと、一種独特の緊張感に包まれていた。 「当たり前だ、これから行われるのは野球という名の戦争だ」 「せ、戦争だ?」 「これは平和的なスポーツだぞ」  赤田さんや鳥羽さんの言葉に鐘刃は答える。 「寝ぼけたことを言ってるんじゃあないぞ。野球に含まれる『死球、刺殺、補殺、左殺し』エトセトラ……野球用語に殺伐とした言葉が含まれているじゃあないか。野球という遊戯ゲーム公正なる殺し合いなのだ」 「それはオーバー過ぎるだろ」 「詭弁だ! 勝手に野球を殺し合いにするんじゃねェ!!」  安孫子さんと森中さんが怒りの表情だ。  彼らは野球を潰し合い、殺し合いの道具にしていない、するはずもない。  そういった行為は野球というスポーツを冒涜する行為だからだ。 「君達も偽善者だね。野球という世界でもあるだろう? サイン盗み、故意の死球、ドーピング問題が。何が平和的なスポーツだよ」 「そ、それは……」  鐘刃の言葉を聞いて湊は少し動揺している。  それを見た鐘刃はニタリと笑う。 「ハハッ! 何も言い返せないようだね。それに世間では『甲子園』だの『プロ』だの子供を惑わし、小さい頃から野球漬けにして、それ以外は何も出来ない社会不適合者を増やしているんじゃあないのかい?」 「むむ……確かにお前の言う通りかもしれん」  ドカが押し黙った。  野球エリートのドカ、彼は甲子園からプロと順調に道を進んで来た。  が……その過程で道から踏み外し堕ちる者も見てきたのだろう。 「めんどくさい野郎だな! ぐちゃぐちゃ言わねェでさっさと試合しろ!!」  元山がバットを構えて吼えた。  MegaGilrsも元山に触発されたのか言葉を続ける。 「前置きが長すぎ」 「あんたって厨二病?」 「難しいことはよく分からないですゥ」  鐘刃はまるでオークを見るような目で見つめながら言った。 「これだからクサレ脳味噌は……野球が、スポーツが抱える問題を深刻に考えようとしない」  それに対し元山はバットを担ぎながら反論する。 「そんなモンは後から考えたらいい事だろうが。あれこれ理由つけてるけどよ、お前がやりたいことは人を独善的に支配したいだけの行為だ! 許すわけにいかねェッ!!」  皆が鐘刃の言葉に動じる中、こういったシンプルな思考を持つ味方はありがたい。  鐘刃は心理戦に持ち込み、少しでも戦意を削ぐのが目的だ。  ネノさんが一歩踏み出す。 「元山の言う通りだ。こいつの言うことに惑わされたらダメだぜ」  職業クラス的に彼……いや彼女は忍者だ。心理戦を持ち込まれていることに気付いたのだろう。  また同じく異世界の住人だった国定さんやスペンシーさんも警戒を呼びかける。 「手練手管の話術に気をつけろ」 「集中力コンセントレーションを乱すな。こういうタイプは偽りの言葉、動作を用いて人を翻弄する」 「アラン……」  オニキアが僕を見る。  彼女の言いたいことは理解わかっている。  勇者キャプテンとして、チームに勇気を与えるような言葉声だしを行わなければならない。 「魔王鐘刃から球界の自由と平和を取り戻すんだ!!」  作戦名は――― 「みんながんばろう」 ――スッ……!  鐘刃の悪魔的な言葉に惑わされかけたメガデインズ。  各々に再びバットやグラブを構え始めた。戦闘開始プレイボールの準備を整えたようだ。  そんな僕達を見て鐘刃は凍てつくような笑い声をあげた。 「ハッハッハッハッハッ! 全くもって王道的でありがちな言葉をありがとう!!」  鐘刃は侮蔑的な表情を浮かび上がらせながら続ける。 「野球という公正なるルールの中、恐怖と絶望を与えてあげよう」  更なる殺気が伴う邪悪で禍々しいオーラを出す。  不思議とドーム内が黒く歪んでいるように錯覚するほどの覇気……。 「我が真なるチームよ……ここに集え!!」  ダイヤモンドに魔法陣が浮かび上がる。  そうこれは召喚術だ。 ――ブゥーン…… 「よう尻軽女オニキア、今度は勇者様とよりを戻したのかい?」 「野球の中で破壊させてもらうぞ」 「デホ! ブルクレス!」 ――ブゥーン…… 「クワカッカッカッ!」 「魔族の力を見せてやる!」  魔法陣から選手が召喚された。  それはデホやブルクレスのような人間だけとは限らないようだ。 「こ、これは異形の怪物達もいるぞォ――!?」 「モンスターなのに野球のユニフォームを着ていやがる」  実況と解説の言葉通り、鳥人間フレースヴェルグやトロルといった異世界の魔物達も現れた。  ゴールドを基調に黒と紫が織り交ぜられた美しくも妖しいユニフォームだ。 「BlakGoldBaseballGods……『黒い金色の神なる野球隊』! これぞ我が真のチーム『BGBGsビージービージーズ』!!」

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