勇球必打!
後編スタート

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 もう一度おさらいしておこう。  僕は魔王イブリトスに敗北し、オディリスと名乗る神により蘇生され異世界へと召喚された。  何でもこの世界の『野球』というゲームを通じて友情の力、信頼の力、チーム力を身に付けさせるためらしい。  僕はイベントに流されるまま『浪速メガデインズ』というチームに入団。  勇者からプロ野球選手にクラスチェンジして冒険を開始したが、仲間だったオニキアが敵になったり、魔物がこの世界に紛れ込んだり、何故か野球で殺されかけたりと訳の分からないことの連続だ。  イベントクリア条件――『浪速メガデインズの日本シリーズ優勝』  僕は果たして、この超難易度のクエストをクリア出来るのだろうか? ☆★☆  今日は京鉄バイソンズ戦との第4回戦。  大事な試合だ、なんせ負けたら西木さんは即辞任。  それに何故か僕がキャプテンと来たもんだ。前の世界にいた時以来のチームリーダーといえる。  二軍から昇格した河合さんが、ベンチに座る西木さんを見ている。 「ハッタリをかましちまったな。負けたら辞任だとよ」  焦げ茶色のメガネに口ヒゲの男が言った。 「監督様の心配してる場合か。お前、先発出場だぞ」  この人は社会人出身のサード、森中亨さん。  二軍キャンプで西木さんに食ってかかった人の一人だ。  即戦力として期待されるも活躍出来ず、もうプロ5年目になり首元が涼しくなるシーズンだ。 「おっさんも久々の一軍だろ?」 「俺はまだ28だ。おっさんじゃねェ!」  河合さんと森中さんが軽口を叩き合うも、仲が悪いというわけではない。  野球という仕事を通して出来た友情みたいなものだろう。  お互いに口元を緩ましながら言っているのがその証拠だ。 ――ズンチャ♪ズンチャ♪ズンズンズン♪チャチャ♪  球場には軽快な音楽が流れ、いつも以上にお客さんが集まっている。 「今日は客が多いな」 「偉いこっちゃ天変地異が起きんやろうな」  球場のメガデインズ応援団が戸惑っていた。  テレビやネットで、西木さんと天堂オーナーのやり取りを面白おかしく報道された。  だが球団はこれに便乗して、広報に力を入れて大宣伝。  その成果だろうか、それほど野球に興味のなさそうな若い客層が試合を見に来ていた。球場は満員というワケではないが普段よりも多い。 『ゴーゴー! メガデインズ!』 『自・爆・せ・ず! 稲妻の如く駆け抜けろ!』 『ガンガンいこうぜ! 我らがメガデインズ!』  球場ではチアリーディングがダンスなど披露して盛り上げている。  天堂オーナーが極秘で結成していた『MegaGirls』だ。  本来なら開幕で披露したかったのだが、発表が遅れてしまったとのことだ。  その理由として、オーディションを開いたのはいいが『天堂オーナーの拘り』とやらがあったらしくなかなか決まらなかったらしい。  最近になってやっと最後の一人が決定。MegaGirlsの結成と相成ったのだが……。 (ア、アカン!また振付を間違ってもうた) 「よくあれで受かったな……」  その最後のメンバーがマリアムだ。  ハッキリ言おう。  ダンスが下手くそ過ぎて目も当てられない。  何であいつが入れたのかが謎だ。 「一人だけダンスが下手な子がいるな」 「まァいいじゃん。可愛いは正義だ」  あれ……不思議と人気があるぞ。  見た目だけなら人間に見えるだろうが、マリアムは妖精族の魔物『アルセイス』だ。 「ああ……しんど」  歌やダンスが終わり、引き上げようとするMegaGirls。  僕はマリアムを呼び止めた。 「お前、こんなところで何してるんだ」 「決まってるやろ。チアリーディングや」 「そ、そりゃ分かるけどさ」  そうじゃあない。  マリアムが何でチアリーディングチームにいるのかと僕は問いたい。  小1時間問い詰めたい。  というより、何でMegaGirlsのオーディションを受けたんだ。 「どんなオーディションだったんだよ……」  様々な疑問が湧き、つい僕は心の声が出てしまった。その声が聞こえたのかマリアムは答えた。 「マラソンしたり、塔をクリアしたり、森でサバイバルと色々やったな。そういやトーナメントもしたっけ」  どんなオーディションだよ。それもあるが一つ気になることがある。  ぎこちない動きでダンスをしていたマリアムを見て不思議に思った。  妖精といえば背中に羽が生えているがそれがない。 「そういや羽は……」 「羽? あのピラピラしたやつか。ドラゴボ的なアレで引っこ抜かれた」 「ひ、引っこ抜かれた? 誰に?」 「オディリス様」  羽を取った理由はさておき、オディリスか……。  オディリスはまだクエスト通商に戻っていない。  どこへ消えたのか? 何故消えなのか? ――彼は悪戯いたずらの神。  オニキアの言葉だ。  一体それが何を意味をするのか……。  まさか僕は彼のゲームに――― 「ハイハイ! いくらキャプテンでも、ウチのマリアムちゃんへのお触りは禁止だからね!」  僕達の間に天堂オーナーが割って入って来た。  派手な赤のスーツに変わりないが、メガデインズのキャップとユニフォームを装備。  左手には七色に配色された派手なグラブを持つ。  今日の試合での始球式を務めるのだ。 「じゃあな! 試合がんばるんやで!!」 「あ、ああ……」  マリアムは僕に投げキッスして引き上げていく。  その様子を見た天堂オーナーは僕に釘を刺した。 「アランくん、フライデーされちゃあダメだからね。ただでさえ、開幕前に選手が5人も失踪して大変だったんだから」 「は、はい」 「ホッホッホッ! それでは僕の魔球の初お披露目といこうか!!」  天堂オーナーは高笑いするとマウンドへと向かう。  今日の京鉄バイソンズ戦、相手チームの先発はオニキア。  対する僕達メガデインズの先発は―― 「湊……茂武湊か」  茂武湊、僕と同期入団の選手で登録名は『湊』。  同じ育成出身で昨日支配下登録されたばかり。  いきなりのプロ初先発で負ければ西木さんは即辞任だ。  湊の実力はかなり未知数である、何故大事な試合で彼を? 「うおおおおお! 唸れ剛速球!! 雄一ボールッ!!」 ――ポス……  山なりのボールがワンバウンドしてミットに納まる。  京鉄の一番バッターは判官、つまらなそうな顔で空振りをする。 「プレイボール!」  いよいよ試合が始まった。

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