「し、真のラスボスだとォ?!」 「そうだ。お前は前座だ」 「わ、私はバラ〇スか! 」 突然現れたデーモン0号、僕達はただ唖然とするしかなかった。 だが、感じることは一つ。 このデーモン0号……どこかで会ったような気がする。 「だいたいデーモンシリーズに0号はいない!」 「いいからボールを寄こせ」 デーモン0号は鐘刃からボールを奪おうとするが……。 「黙れザコキャラが! そもそもサタンスカルズはBGBGsの三軍チーム!!」 鐘刃はグラブを捨てて構えた。 魔法が使えないとなると肉弾戦に持ち込むしかないとみたか。 女房役の田中は、先程から黙ってそのやり取り見ている。 「おめえさん……何にも気付いていないんだな」 気付いていない? 急に田中のキャラ変といいどうなっているんだ。 田中はマスクを脱ぐと吐き捨てるようにこう言った。 「あんたの土台作りの役目は終了したんだよ」 「ど、土台作りだと!?」 「このお方による新しいNPBが始まる」 ――ビイ"イ"イ"ィ"ィ"ィ"ン"! 電撃と衝撃が僕達の体を駆け抜けた! その言葉に僕は震えた! このデーモン0号が鐘刃に成り代わりNPBの支配者になるというのだ! 「な、何をバカな! 私が支配したNPBだぞ!? こんなぽっとでのヤツに――」 「だから土台作りの役目は終わったと言っているんだよ」 「役目は終わった?」 「そうだ」 田中はバンバンとミットを叩くと言った。 「NPBの支配、BGBGsをはじめ二軍の四天王、三軍のサタンスカルズの創設、それに1リーグ制の導入やルール改正……本当にご苦労さんだったな」 「いい加減にしろ! だいたいチーム名はどうなるのだ!? 頭文字に鐘刃がついているだろうが鐘刃がァ!!」 「鐘刃の名を削ればいいことだ。次の名前も既に決まっている」 「け、削るゥ!?」 「とりあえず降板してくれや」 「ふ、ふざけるな!」 田中の言葉を聞いた鐘刃は鬼の形相だ。 デーモン0号といえば冷ややかな様子で鐘刃を眺めている。 構える鐘刃を挑発するように人差し指を動かした。 「来ないのか? 三流コミッショナー」 「さ、三流――嘗めるなァッ!!」 鐘刃は拳を振り上げた。 挑発に乗りデーモン0号を襲った! 『鐘刃コミッショナーが怒りの鉄拳だ!』 『マンダム――乱闘かよ』 武闘家顔負けの体術だ。 タイミング、スピード共に申し分ない。 グラウンドにいるデホも感心した様子だ。 「迅い……ありゃ相当な熟練度だ」 鐘刃は鉄拳を顔面に向けて放つも……。 ――ピタッ! 「寸止めからのォ!」 ――ブン! 「ハイキックだ!」 巧い! 鐘刃はフェイントを使った! そして、即座に死角からの上段蹴りを放った! 「下らん」 ――パシッ! デーモン0号は足払いをした。 上段蹴りを放ったことで一本足になった鐘刃、無様にストンと転んでしまった。 「わ、私のハイキックが……」 へたり込んだ鐘刃はワナワナと体を震わせている。 かなり悔しそうな表情だ。 「ええい! こうなったらレスナー! 貴様の怪力で、その賢いおつむを破壊してやるのだ!」 鐘刃は攻撃を仕掛けるよう命令したが……。 「……」 「な、何故動かん!」 レスナーは棒立ちだ。石像のように固まっている。 鐘刃は次にゼルマを見た。 「ゼルマ! 貴様の魔法で攻撃しろ!」 「う、ううっ……」 「顔を逸らすなァ!」 ゼルマは何とも言えない表情で顔を逸らしている。 今度は一塁側を見て叫んだ。 「デホ! ブルクレス! こいつをつまみ出せ!!」 「それはできん」 「同じくだ」 「お、恩知らずどもが! 誰が復活させて野球を教えてやったと思っている!」 ブルクレスは一塁の地面を足でならしながら、 「あんたじゃ……俺達を勝ちに導くことは出来ない」 と塩対応。 最後に鐘刃は、外野に向かって大声で叫んだ。 「ええーい! ベリきち! フレスコム! ヒロ!」 ――シーン…… 鐘刃の言葉に外野陣も反応しない。 追い詰められた鐘刃は立ち上がると絶叫する。 「動かんかアアアァァァッ!」 哀れだった。 必死に仲間に助けを求めるも誰一匹として動こうとしない。 僕は一瞬、最終決戦で仲間が逃げ、裏切った時のことを思い出した。 並行世界の魔王イブリトスといえど、今度はヤツ自身がその時の体験をしている。 皮肉なものだ。 「アホ」 残酷な現状はまだ続く。 田中の端的で惨い一言、しかも死にかけたスライムを見るような目だ。 「ア、アホだと」 「全員あのお方に魅了されているのだ。魔物とは強者に惹かれるものだからな!」 「はっ!?」 そう魔物の世界は常に弱肉強食の世界だ。 より強いものに従う本能が働いている。 このデーモン0号……何者かは知らないが只者ではない。 「さて説明はもういいだろう。だいぶ試合が遅延した」 ――ザッ…… デーモン0号がゆらりと歩み寄る。 鐘刃は恐怖で顔が歪んでいた。 「く、来るな!」 「俺が新しいNPBを作る。そして、全ての球技に革命を起こす!」 「か、革命だと? そうか、お前も神にそそのかされてムリヤリ――」 「いけないなァ……神のことを悪く言っては」 ――バガッ! 「うぼああああああああああアアアァァァッ!?」 デーモン0号はアッパーカットを放った。 下から高速で突き上げられた鐘刃は空中をグルグルと大回転している。 『か、鐘刃コミッショナー大回転!』 そして、どちゃりと鈍い音がした。 鐘刃は顔面から地面に叩きつけられながらも何とか立ち上がる。 コミッショナーとして、いや魔王転生者としての意地だろうか。 顔面は血まみれだ――何だか可哀そうになってくる。 「ゆ、許さん……殺してやる……殺してやるぞ!」 「フン……まだ息があったか」 「わ、私の暗黒闘気を集中させて――」 「しつこいぞ!」 ――ブン! 高速での腕の振りだ! デーモン0号はNPB公式球を鐘刃に目掛けて投げ込んだ! ――バチィ! 「こ、こんなもの!」 両手でガッシリと受け止めた鐘刃。 ただボールの回転が……。 ――ギュ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"! 「なんだこの回転は! なんだこのスピン力は!?」 受け止めたボールの回転は止まらない。 その回転力により鐘刃は再び体が宙に浮き始めた。 ――ギュ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"! 「か、回転が! スピンが――」 回転の渦が出来上がっている。 ――ギュ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"! 「わ、私は魔王転生者! 鐘刃周だぞ……こんなものォ……」 次第に鐘刃は回転の渦にのまれ始めた。 ――ギュ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"ラ"! 「こ・ん・な・も・の!」 それが僕が効いた鐘刃周――魔王転生者の最後の言葉だった。 ――ブウ"ウ"ウ"ゥ"ゥ"ゥ"ン"! 大きな渦の塊となった鐘刃はセンターバックスクリーンまで飛んでいく。 電光掲示板の下には、マドンが奏でていた巨大なパイプオルガンがある。 ――グワシャアアアアアン! 渦の塊はパイプオルガンに激突。 パイルオルガンはもちろん大破した。 そして、ドームのスクリーンには……。 『か、鐘刃コミッショナーが倒れております! 意識はないようです!』 『しかも、全裸だぜ――ボールの回転力で服が引き裂かれたか』 ボロボロになった鐘刃がいた。 野球独裁者の哀れな末路だ。 デーモン0号といえば、マウンドに落ちている鐘刃のグラブを見ていた。 「さてと」 グラブを拾い上げ、ボールを抜き取ると、 「戦闘開始だ!」 真の最終決戦開始の宣言をした。
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