勇球必打!
ep98:真の戦士

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 5回の裏、攻撃はBGBGs。  バッターは5番のブルクレスから始まる。  ガイアアーマーと蒼龍の脛当てを装備――重い、そう重い見た目。  しかし、重いからこそパワーを使う。  つまり! (ホームランだけには気をつけなければならない!)  バンシーのデスボイスによるドームランの後押しがあったにせよ、戦士ブルクレスの力は侮れない。  僕は彼にホームランを打たれてしまっている。 「同じ轍は二度と踏まない!」 ――クサナギシュート!  ドカが出したサインは内角へのクサナギシュート。  左打席に立つブルクレスにとっては死角から入る一投となる! ――バシィ! 「ストライク!」  ブルクレスは見送ってストライク。 ――クサナギシュート!  僕はもう一球投げる。 ――バシィ! 「ストライク!」  同じくブルクレスは見逃してストライク。  ブルクレスはゴーレムのように動かない、逆に不安になる。  どんな球をブルクレスが待っているのか想像できない。 (ここは外角の低めにカーブを投げて様子を見るんや。ストライクはいらんで!) (OK!)  ドカがストライクからボールゾーンへとなるカーブを要求。  僕はサイン通りにカーブを投げたが、 『ブルクレス! ゴルフのようにボールを掬い上げた!』  打たれた。  体勢を崩しながらも打ったがレフト線へと切れてファール。  間違ってストライクゾーンへと投げていたらと思うとゾッとする。 (体勢が崩されても、あそこまで持っていくんかいな……とはいえ狙いはわかった。真ん中から外角付近のボールをこの戦士はんは待っとるな) ――スッ……  ドカはサインを出した。高めのボール球を要求している。 (目線を高く引き上げたる! 後はあのカーブをボールゾーンへ投げたら振るはずや!)  僕は高めのストレートを投げたが、要求より内に高く投げてしまった。 「……ッ!?」 ――コッ……!  ブルクレスは強引にバットを振る。  ボールは一塁線を切れてファールだ。 『ブロンディさん、ボール球に手を出しましたね』 『強引過ぎるぜ。もうボールゾーンでの勝負でいいな』 ――スッ!  デーモン0号はベンチから飛び出した。 「審判、タイムだ」  何が目的かタイムをとった。  デーモン0号は手招きしながらブルクレスを呼んでいる。 「何であんなボール球を振った?」 「来たボールを振っただけだが」 「そうか? 俺には違うように見えたが」 「違うだと?」 「お前は過度に内角を恐れている」 ――ピク……  何やらおかしい。  ブルクレスの殺気がこちらに伝わってくる。 「恐れるだと?」 「お前は異世界の戦士だったそうだな」 「そう俺は戦士だ! 仲間の盾となる前衛だ!」 「仲間の盾ねえ……」  デーモン0号は俺の顔を見た。 「アラン! こいつのことを良く知るお前に尋ねる!」 「な、何故それを……」 「いいから俺の質問に答えろ!」  デーモン0号は一呼吸してから尋ねてきた。 「こいつが防具をつけなかったことはあるか?」 「そ、それは……」  僕は答えに詰まった。  ブルクレスは戦士だ。高い攻撃力と耐久力が持ち味。  それを補う意味で、能力値が高い装備品で身を固めてきたのだ。 「答え合わせだな」 「どういう意味だ」 「ブルクレスよ。お前は武闘家デホとは違い、硬い兜や鎧を装備できる戦士だ」 「それがどうした」 「防具に頼るうちに、お前は肉体に直に負うダメージに恐怖している!」 ――ビリリ!  ブルクレスから怒りの闘気が放出される。  その闘気は僕の方にまで及び全身をしびれネズミの針でつつかれたようだ。 「この私が――恐怖しているだと!?」 「そうだ」 「戦士は前衛で仲間の盾となるポジション! その私が恐怖などとッ!!」  ブルクレスが拳を振り上げた。 「落ち着きな!」  デーモン0号は攻撃されるよりも、はやく掌をガイアアーマーにつけた。  何という速さだ。盗賊シーフよりも――いや忍者よりも素早い動きだ。 「は、はやっ」  セカンドのネノさんもちょっと驚いた顔をしている。 「ぐっ!?」 「野球において防具はヘルメットや肘当て、レガースを着用してもよい! しかし、肌が露出するユニフォームでは自然と硬いボールが当たる可能性がある! だからお前は内角を過度に恐れているんだ!!」 「何を証拠に――」 「一球、二球目の見逃しや内角のボール球に手を出したのがいい例だ!」 「…………ッ!?」  ブルクレスはその一言で拳を降ろした。  するとデーモン0号は……。 ――グッ!  ガイアアーマーに付けている掌を握拳へと変えた。 「荒療治だ」  一体何をする気なのだ!? 「まずはこの重い鎧はいらん!」 ――ガシャン!  デーモン0号はゼロ距離で拳を打ち込んだ!  ガイアアーマーはガラス細工のように砕け散り……。 「ガ、ガイアアーマーが……」 「そのレガースもいらねェッ!!」 ――バキバキ!  目にも止まらぬ下段蹴りの嵐、蒼龍の脛当てを破壊した。 「お、俺の防具が……」 「まだまだ!」 ――サク!  デーモン0号は最後に上段蹴りを放った。  その衝撃で、ヘルメットのフェイスガードを弾き飛ばした。 「いい体してるじゃねェか。顔もハンサムだぜ」  高等な体技だ!  武闘家のデホも目を丸くさせている。 「す、すげえ……脱帽ものの体術だぜ……」  一方のブルクレスはバットを持ったまま呆然としている。 「ブルクレス! 下らねえ恐怖感は取れたか!」 「お、俺は……」 「もっと自分を信じろ! その証拠に俺の打ち込んだ拳も蹴りも大して痛くないハズだ!」 「ハッ!?」  ブルクレスの自分の手を見て体を震わせている。 「そうか……俺は知らず知らずのうちに安全な防具で身を固めるうちに……」 「そういうこった。そういう安全志向が冒険心を削る! 防具で身を固めていたのは肉体ではない! お前の心だ!」 ――ドーン!  僕は思い出していた。  ブルクレスが最終決戦ラストバトルで言っていた言葉。  彼は言った「俺は常に勝ち続けたい! 悪いが次は強くて勝てそうなパーティに入らせてもらうよ!」と。  あの言葉は硬い防具を身に付け戦い続けたことによる心理面の変化―― 「お、俺は何で気付かなかったんだ。自分の弱さを――」 「安心しなブルクレス。お前が悪いんじゃない。強力な防具を与えられることで、臆病にさせられちまっただけだ」  デーモン0号はチラリと僕を見た。  そう! ブルクレスを臆病にさせてしまったのは僕だ!  最高の防御力を誇る兜、盾、鎧! それをあてがったことによる反動!  屈強な戦士に勇気を与えられず、臆病者にさせてしまったのは勇者である僕だ! ――スッ!  ブルクレスは打席へと戻った構えを取る。  僕を見据える真の戦士ブルクレスからは魔人の様相は消え、聖騎士然とした澄んだ目をしている。 「来い!」  デーモン0号がこの短い間に、ブルクレスという戦士の心に勇気を与えてしまった。  これでは―― 「この作品のタイトルに似つかわしくない展開!」  三塁側の応援席からマリアムの声が聞こえた。 「な、何言っとるんやアラン! 気合を入れんかい!」  そう今は考えている余裕はない。  生まれ変わった元仲間との対戦――ならば! 「僕は彼とは違った勇気を出さなければならない!」

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