勇球必打!
ep23:鮮血のバットマン

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 捕らえたはずのインプがいなくなった。  探し回ってもどこにもいない、また何かの魔法かアイテムでも使用して逃げたのか。  とりあえず試合も終了。僕は一度クエスト通商に戻ることにした。 「やっとメガデインズの勝利やな」 「そうだな」  マリアムは喜ぶものの僕は正直微妙だ。 「気のない返事やな。もっと勝利の味を喜ばんかいな」  確かに試合には勝利したが、明らかに僕は野球という試合の中で殺されかかったのだ。 「あの弁天も危ない投球するな。頭に当たってたら大変なことになっとるで」  マリアムは恐らく気付いていないのだろう。あのシュートボールは故意に頭付近へと投げられたのだ。  僕がオニキア達から野球というゲームの中で殺害すると予告されたことを知らないでいる。 「なァ……マリアム」 「なんや?」 「もし僕があのボールが頭に当たって〝運悪く死んだら〟どうなる」 「縁起でもないことを言うな」 「もしもの話さ。この世界での反応はどうなる」  マリアムは暫く悩んだ後に言った。 「そら大騒ぎになるやろ。生き死にが当たり前の異世界とは違うからな」 「もしもだけど、故意でぶつけるようなヤツがいるとしたら?」 「かなりヤバいヤツや。イカれとるとしか思えん」 「そうか……」  僕はオニキアや判官、弁天のことを考えていた。  彼女達は何故そこまでして僕の命を狙うのか、何が目的なんだろうか。  それに―― 「オディリスはまだ戻らないのかい」 「まだ戻らんな。どこに行ったのやら」  オディリスはまだ戻って来ていない。彼は一体どこへ消えたのだろうか。 ☆★☆ 「帰命無量寿如来きみょうむりょうじゅにょらい南無不可思議光なむふかしぎこう」  第2戦を終えた弁天は京都ドームのブルペンで念仏を唱えていた。  一発で仕留めきれなかったことを悔いていたのだ。 「やはり他力本願では救われぬか。拙僧自身の未熟さ故に迷惑をかけ申した」  弁天は目を見開き、後ろにいるオニキアと判官に深々と頭を下げた。  試合終了後、あのお方より叱りの言葉を受けたのだ。チャンスを不意にしたこと、技の甘さがあったことへの責めである。  仲間は励ましの声をかける。 「次の試合では必ずアランを滅殺しようぞ。我々がこのつまらぬ浮世を捨て、次の世界へと行くためにも」 「判官……」  弁天は目を潤ませ顔を俯く。 「弁天、頭を上げて。謝るのは私よ、そもそも開幕戦で殺し損ねた原因は私にある」  オニキアの言葉を聞き、弁天は頭を上げた。  その顔はまるで厚い信仰心を持つ狂信者。信仰対象に祈り願うような表情である。 「そのような顔はしないで下され。拙僧ら万年二軍のつまらぬ選手に力を頂ける切っ掛けを作って下さったのは貴方様。そのような顔は似合いませぬぞ」 「でも……」 「ノホホホ! 手を汚すのはマロ達で結構、次はこの判官が……」 「その必要はない」  ブルペンの入り口で声がした。 「誰じゃ!」 「陰陽ガンリュウ所属、小倉宗入おぐらそうにゅう」  赤を基調としたユニフォーム。それは紛れもなく、エ・リーグの陰陽ガンリュウに所属していることが分かる。  眉目秀麗の美青年であるが眼は鋭く、よく見ると眉間にシワを寄せる容貌は悪鬼の如し。  男の名は小倉宗入、25歳外野手。  投手として大宮レオンズに入団するも、僅か2年で自由契約。  その後、1年間消息を絶つ。  そして、昨年度末……突如現れ野手として12球団トライアウトに参加。  全打席ホームランとその打棒ぶりが認められ、陰陽ガンリュウに入団した男である。 「今は名を『シュラン』と改めたがな」  小倉は本年度より登録名をシュランと改めている。理由は不明。本年度の開幕からは全試合猛打賞と絶好調。  下関市民から『リストラの新星』と呼ばれ売り出し中である。  判官と弁天は突如現れた、小倉改めシュランに尋ねた。 「酒乱だか、Fランだか知らぬが何用でおじゃる。そもそもリーグが違うであろう」 「お主、どうやってここに来たのだ」  シュランは陰陽ガンリュウ所属だ。  本拠地である下関舟島スタジアムから数十キロも離れている。 「そんなことはどうでもよかろう、負け犬ども」 「ま、負け犬とな!?」 「左様、軽薄な女と取り巻きのお主らは負け犬よ」 「言わせておけば! リーグの違うお主が何を言うか!!」  判官は小倉に怒りを露にし……。 ――特技【跳躍】!  竜騎士の特技【跳躍】を発動、飛びかかり制裁を加えようとするが……。 ――スッ…… 「愚かな」  シュランは判官よりも迅くバットを抜き……。 ――特技【雷神斬】!  電撃を帯びた奇怪な一打を判官にぶつける。 「ギャッ?!」 「暫く故障者リスト入りだな」  哀れ判官は痙攣を起こし倒れ込んでしまった。弁天は一連の動作を見て瞬きする以外になかった。 「な、何だ今のは」  オニキアは言った。 「魔法剣よ」 「魔法剣?」 「私がいた世界での職業クラス魔法剣士ルーンナイト』が使う特技」 「な、何故その魔法剣とやらを使えるのだ。まさかあのお方に特技を……」 「いえ、たぶん違う」  オニキアは思い出していた。  以前、出会った悪徳魔法剣士ルーンナイトのことだ。  技のキレ味を試すために、闇討ちをかけ罪もない人々を殺す男がいた。  その男の名前も『シュラン』といった。アラン達と協力し、シュラン討伐には成功したのだが―――。 (まさか私と違い転移ではなく転生を……) 「そうそう、お主らに見せたいものがある」 ――ズチャ……  シュランが何かを投げ込んだ。  それは血まみれの悪魔インプ、即ちそれはトルテリである。全身の隅々まで打撲痕がある。酷い仕打ちを受けたのであろう。 「ト、トルテリ!」  弁天は無残な姿となったトルテリの姿を呆然と眺めていた。 「粛清だ」 「くっ!」  オニキアはトルテリの元へと駆け寄り、全快回復呪文『リカイアム』を施す。 「無駄だ。もう死んでおる」 「酷い……」 「酷い? バカな、無様な失敗をした者はこうなる」  シュランは眼光鋭く、オニキア達を見つめていた。  これは警告である、失敗が続くと命はないというメッセージなのだ。   ☆★☆ 『メガデインズ連勝! 初戦は敗れはしましたが、これで2連勝です!!』  京鉄の第3回戦は見事僕達の勝利。  勝ち投手は高橋虚舟、負け投手はノウエル。 「本日のヒーローはメガデインズの若き主砲! アランさんです!!」  僕は7回裏ツーアウト2塁に佐古さんを置き、勝ち越しの二塁打を放った。  見事勝利の立役者となったものの気になることがある。  今日の試合に判官が出場していなかった。何でも急遽ケガによる欠場との報告があったのだ。 「見事な一打でしたね」 「偶々ですよ」  敵チームの選手を気にしている場合ではないか。  警戒はしていたが、何も起こらずに何よりといったところだ。  次は本拠地、浪速ブレイブスアジアムでのブッフ戦だ。

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