「よし! これより突入するぞ!!」 ――応オオオオオオォォォォォッ!! メガデインズの監督である西木さんの一声。 僕達『赤き意志、黄金の炎』を灯した選手団。 いよいよ瞑瞑ドームに入ろうとしたが――― 「西木くん! この天堂雄一も連れて行ってくれ!!」 「私達も応援団としての参加をお願いします!」 「実況の私もよろしくお願いしますゥッ! そのために来たんですッ!!」 天堂オーナーやMegaGirlsメンバー、実況の小前さんが呼びかけて来た。 西木さんはへの字口で彼らを見つめていた。 「二度と戻って来れないのかもしれませんぞ」 「構わんさ!」 天堂オーナーがそう述べると……。 ――カッ!! 天堂オーナー達から赤いオーラが見えた。 それはまさに『赤い意志』……。 ――ボッ!! そして、眼には黄金の炎が灯されている。 理不尽で不正義な鐘刃に対抗する決意、そこに選手もオーナーもチアも実況もない。 プロ野球を愛する全ての人々に眠る『生命の光』なのだ。 「アラン! うちも行くで!!」 マリアムにも、その意志と炎が灯されていた。 「西木監督」 「うむ……」 そこに言葉は不要。 僕達メガデインズ選手と天堂オーナー達は魔球場へと入って行った。 「ぼ、坊ちゃま……成長されましたな」 「マンダム――『男の顔』だったな」 「ブロンディ様、坊ちゃまを……いえ雄一様を頼みました」 「任せておけ。解説としての務めは果たさせてもらう」 ☆★☆ 瞑瞑ドームへと入って行った僕達……。 薄暗いドーム内は一方通行、普通の球場内であれば売店などが設置されているがそれはない。 マリアムはこの寂れた空間に恐怖を覚えたのか、少し声を震わせている。 「な、何にもあらへんな」 「ああ……」 通路は広いが、壁や床など不気味なほどまでに青や紫など寒色系統で覆われている。 まるでオニキア達と魔王城へ突入した時のことを思い出す。 どこか心までも凍てつかされるような……そんな気分だ。 ――スッ…… 待て向こうから何かが近付いて来る――。 先頭を歩く僕は立ち止まるとバットを構えた。 「邪悪な気配がします!」 西木さんも違和感を感じ取ったのだろう。 後ろから来るメガデインズメンバーに向かって叫んだ。 「全員、碧の後ろにつけ! 向こうから誰かが来る!!」 「な、何ですと!?」 天堂オーナー達も西木さんの声に反応して立ち止まった。 「血祭りだ!」 「はらわたを食い散らかしてくれる!」 5体のゾンビ軍団が現れたのだ。 「バ、バイ◯ハザードかよ!?」 「ドーム球場にゾンビはねえだろ」 元山と鳥羽さんもバットを構え戦闘態勢に入る。 「あのゾンビども……どっかで見たぞ?」 ネノさんはゾンビ達の姿を見て何か気付いたようだ。 それを聞いた安孫子さんが答えた。 「紅藤田に似てないか」 そう言えば……変わり果てた姿であるがどことなく面影がある。 暗い部屋なのに、黒眼鏡をかけたままの森中さんが言った。 「そ、それに狐坂や五味までいやがるぜ!」 一体どういうことなんだ、紅藤田達は確かに死んだはずだ。 「摩訶不思議! 行方不明となっていた紅藤田達がゾンビとして現れたぞ!?」 「ここで実況せんでもええやろ」 実況を務める小前さんにツッコミを入れるマリアム。 それと同時にゾンビ二体が襲って来た。 「ロリっ娘だ! 緑髪のポニテ最高ッ!!」 「肉も柔らかそうだぜ! ウィッヒー!!」 「わ、わわっ! 変態ゾンビ!」 変態ゾンビの狙いはどうやらマリアムだ。 僕はバットで攻撃しようとしたが……。 「このゾンビどもめ!」 ――ホーリーブロウ! 湊の先制攻撃、ゾンビ達を殴り飛ばした。 発動させた技は『ホーリーブロウ』闘気と聖属性の魔法を掛け合わせた闘技の一つだ。 「ギャッ!」 「ぶげ!」 吹き飛ばしされたゾンビ、哀れにも体がドロドロに溶けている。 ――バァーン! 「散滅すべし!」 決めポーズをとる湊。 モブで目立たない存在だったのに……いつの間にこんなに主人公然としているのだ。 それに異世界でどんな修行をしたんだろう。全く野球と関係なさそうだけど。 「我が弟子よ。『聖闘気』を上手く使えるようになったな」 スペンシーさんは成長した湊の姿を見て考え深そうにしている。 それにしても弟子って……。 「ロミスとサトぽんがやられただと!?」 「あの小僧、どこであんな力を」 ――グチャ! 「ちっ……バカみたいに飛び出すからだ」 ゾンビ化した紅藤田、先にやられた仲間の亡骸を踏みつけている。 「紅藤田……」 僕がバットを構えると、紅藤田と取り巻きの狐坂と五味が恨み節を吐いた。 「てめえが現れなければ、俺達は死ぬことはなかった」 「お前の存在に巻き込まれて死んだんだ!」 「憎い、てめェが憎いッ!!」 ある意味、彼らは僕の存在に巻き込まれて死んだに等しい……。 罪悪感が出た僕はバットを持つ手が緩んだ。 「甘ちゃんめ! 隙が出来たなァ!!」 「むしろ死んで感謝しているぜ!」 「ゾンビとして復活した俺達は永遠の命を与えられた!」 しまった……隙が出来てしまった。 紅藤田は狐坂と五味は横一列に並び、手から瘴気を練り出し放出する。 「「「アシッドバブルッ!!」」」 闇属性の魔法『アシッドバブル』。 酸の塊を練り出し、肉も骨をドロドロに溶かしてしまう恐るべき呪文だ。 三体同時に放たれ、避けたとしても後ろにいるマリアム達に当たる可能性がある。 「死んだらお前らも仲間に入れてやるぜェ!」 紅藤田が狂気の表情で叫ぶ。 アシッドバブルは既に放たれた。もう避けようもないどうすれば……。 ――マジックバリア! その時、国定さんが防御呪文『マジックバリア』を発動させ酸の塊を防いでくれた。 「な、何だキサマは!」 「それにユニフォームの上にマントを羽織るなんて!」 「何かのコスプレか!?」 いつの間にか、国定さんは深緑のマントを羽織っていた。 彼らは知らないだろう、これは『魔凛のマント』と呼ばれるレアアイテム。 魔術師の魔力を2倍増幅させてくれるアクセサリーだ。 「ゾンビに手加減は不要だな。紅藤田先輩」 「な、何故俺を!?」 国定さんは紅藤田を知っているのか? 「あんたらにハメられた借りがある」 「ま、まさか! お前は!?」 どうやら紅藤田も国定さんを知っているらしい。 それは狐坂と五味も同様だ。 「ま、ま、ま、ま、待て! 」 「あれは――」 「時間がない、消えろ」 右手に炎を練り出し、左手は輝いている。 火属性と聖属性の合成魔法か。 ――ディバインヒート!! 「ノギャア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!?」 聖なる炎が紅藤田達を一瞬に焼き尽くし消滅させた。 灰も塵も残さず、元の静寂なドームに戻った。 「すごい……」 オニキアは、伝説の大魔導師『ゾージュ』に対する羨望の眼差しを向けている。 僕達が国定さんの圧倒的強さに驚愕していると赤田さんが言った。 「思い出した。数年前、メガデインズ内で野球賭博疑惑が上がり若手選手が一人退団した事件があったな」 赤田さんがそのことを語ると、天堂オーナーは分が悪そうな顔して続けた。 「名前は国定造酒、プロ二年目の外野手だった。あれは苦い思い出だよ、本当に野球賭博をしていたのは――」 天堂オーナーが続けようとしたところ、国定さんが遮った。 「昔話はやめましょう。私が『遊び人』の癖が抜けず、紅藤田の話に乗ったのがいけない」 国定さんは自嘲気味に言うとオニキアを見た。 「オニキア……君は私のようになってはいけないよ」 オニキアを見るその眼は哀しくも真剣なものだった。
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