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「この大僧正アークビショップ、残り全ての魔力を使い浄化する」 「全ての魔力!?」 「観客ファンに……それも女性レディに手を出したことは許されない」  スペンシーさんは鐘刃との勝負で体力を消耗している。  これ以上何をしようというのか。 「その体でどうしようというのですか! 打つだけ、守るだけで精一杯でしょう!?」 「ボーイ……プロ野球選手らしい穏やかでありつつも、勇ましい表情だ」 「 ま、待って下さい! あなたは一体何をしようというのですか!」 「補助呪文だよ。あらゆるステータス以上を直す、僧侶などの支援系職業クラスが得意とするね」 ――フッ!  スペンシーさんはポケットから丸い小さな宝玉を取り出した。  玉は全部で8つ。それぞれ魔法力で宙に浮いていた。 「こ、これは!?」 「神殿騎士テンプルナイトが装備する武器や防具を製作する際に使われる鉱物――トルダムストーン!」 「ト、トルダムストーン!?」 「このトルダムストーン……術者の魔力を増加させる効果があるが、その反動として3倍の魔力を消耗すると言われる特殊鉱物だ」  その言葉と共に、8つのトルダムストーンはドーム内に飛び散った。  これから何が起きようというのだ。 『な、なんだァ!? 8つの球がドーム内を囲うように飛び散ったぞ!』 『これから、とんでもないことが起きそうだぜ』 『ブロンディさん! 何故そんなことが分かるんですか!?』 『マンダム! 何となくだ!』 ――ザワザワ……  ドーム内にいる観客達が騒ぎ出す。  飛び散ったトルダムストーンが聖なる光を放ち始めた。  それは魔物達にとって苦手な聖属性の輝きだ。 「な、何じゃありゃ~!?」 「ヨハネ応援団長! アレはなんですか!!」 「おいに聞かれてもわからんと! ただあの光は聖属性に違いなか!!」 「せ、聖属性ですと!?」 「やばいわよ、やばいわよ」 「俺達にとっちゃ気分の悪い属性の名前ですぞォ!」  監督である鐘刃、そして人質を取ったアルストファーは何故か焦った様子だ。 「こ、この光ッ! 輝きは我ら魔族……私、ヴァンパイアにとって苦手な聖属性のもの!」 「大僧正アークビショップ! 貴様は一体何を企んでいる!?」  スペンシーさんは両手を大きく広げている。 「黒い霧を払うのさ!」 ――破邪呪文! ホーリーケーション!!  8つのトルダムストーンは光の八角形を刻む。  屋根、観客席、グラウンドは光のオーラに包み込まれる。  その光は優しく僕達を包み込んでいる。 「こ、この光は?」 「ホーリーケーションさ」 「ホーリーケーション!?」 「切り札にとっておいた破邪呪文だ。効果は体力の全回復、あらゆる状態異常の回復、呪文効果の打ち消し……」  スペンシーさんはドーム内に輝くトルダムストーンを見ている。  痩せ細った体が、更に痩せたように見えた。  生命力、魔力共に限界ギリギリまで消費したんだろう。 「まさかこんな場面で使うとは思わなかった」  額には汗が流れている。  チラリとライトの国定さんを見ていた。 「攻撃力を増加させるビヨックスの効果を打ち消してしまったが、緊急事態なので仕方がない」  体も細いが声も小さいが、体が衰弱している。  しかし、目はまだ活きている。  僕を見つめるスペンシーさんの目は黄金の輝きを放っていた。 「鍛えた肉体、蓄積した経験や技以外で試合に勝つなど言語道断。八百長など、野球ベースボールを侮辱する行為だ。それがこの世界で知った、私がリスペクトするベーブ・ルース、ジョー・ディマジオ、大リーガー達から続く魂の教えだ」  そう述べると、 「それにファンを大事にしないプロは――プロではない!」  大きな体がグラウンドに倒れた……。 「スペンシーさん!?」 「プロフェッサーが倒れた!」 「タイム、タイムや!」  メガデインズナインは倒れた仲間に駆け寄る。 「スペンシー!」 「ど、どうしたんだ」  西木さんと赤田さん、首脳陣もやってきた。  傍には控えのオニキアもいる。 「私の回復魔法で――」  そう言ってオニキアが回復魔法であるヒールを唱えようとしたが、 「無駄だよガール。今の私は再起不能、話すだけで一杯だ」  とスペンシーさんは言った。 『ど、どういうことだ! セカンドのスペンシー選手が突然倒れてしまいました!!』  ドーム内は聖なる輝き包まれたまま。  カクテル光線が優しくダイアモンドを包んでいる。  その光を見ながらスペンシーさんは言った。 「早く……あそこの女性ファンを……スキル【吸血】の効果は消え去ったはずだ」  スペンシーさんは最後の力を振り絞り指差す。  指先の方向はアルストファーが操られた人間の女性ファン達だ。  彼女達は意識を失ったようで倒れている。 「マリアム!」 「任せとき! なんか知らんけど、やかましかった魔物達がちょいと大人しゅうなったからな!」  マリアムは僕の言いたいことを即座に理解した。  ホーリーケーションによる影響か、聖属性の光を魔物達は浴び動けないでいる。 「オーナー達も手伝ってんか!」 「ぼ、僕達が? こんな恐ろしい魔物達がいる中で……」 「今しかチャンスはないで! あそこの女の人達を助けるんや!」  おののく天堂オーナー、それを見た他のメンバー達が後押しする。 「襲ってくるなら既に襲っていますよ!」 「怖い顔していますが、それなりのマナーがある魔物達です」 「手癖の悪い魔物がいたらマリアムちゃんがやっつけてくれますゥ」 「せや! うちの戦闘力は、そこいらのザコには負けへんくらい強いからな」 「わ、分かった。一度席を外して彼女達を救出だ!」  マリアムと天堂オーナーは急いで席を立つ。  その光景を見たアルストファーはバットを振りかざしながら叫んだ。 「下らぬ破邪呪文など使いよって! このロートル大リーガーが!!」 「何だと……」 「私の素晴らしい作戦を邪魔しやがって! さっさとそこの倒れたポンコツを排除しろ! 目障りだ!」 「黙れ!」 「ひっ……」  僕の体から黒い何かが飛び出そうだった。  それは殺意か――勇者らしからぬ漆黒の炎。  ヴァンパイアこいつを許せない。許すことが出来ない!  この魔族はファンを汚した! 野球を汚した! 仲間の名誉を汚した!  絶・対・に・許・す・こ・と・が・出・来・な・い! 「Take Me Out to the Ball Game……」  その時だ。誰かが歌っている。  それは西木さんと赤田さんに抱えられたスペンシーさんだ。 「Take me out with the crowd……」 「え?」 「Buy me some peanuts and Cracker Jack……」  何かの歌だろうか。  衰弱した体にも関わらず歌い続けていた。 「For it’s one, two, three strikes you’re out……At the old ball game」 「それは……」 「ボーイ、怒ってはいけない。集中を乱していけない。まだ試合中――野球の借りは野球で返せ!」 ――カツーン……カツーン……  スペンシーさんの言葉と同調して音が聞こえた。  それは僕達メガデインズ側の三塁ベンチの奥からだ。 「やあアラン。一度投手交代だ」 「じ、神保さん?!」  そこにはいなくなった神保さんと……。 「アランさん。僕がワンポイントで投げます」  白いマントを羽織った湊の姿があった。

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