ボクは沖田元気。 別名『タオル王子』と呼ばれている。 夏の甲子園で赤色のハンドタオルで顔の汗を拭ったところから、そう呼ばれるようになった。 甲子園でブイブイいわせて大活躍、優勝投手までになった。 ここからは順調、あの名門『羽巣田大学』に進学し、そこでも大活躍さ。 大学野球でも優勝、日米大学野球選手権の代表にも選ばれた。 まさに順調、プロでは浪速メガデインズにドラフト指名された。 ――浪速メガデインズ。 本音を言うと入団するのは嫌だった。評判が悪いからね。 でも、社会人野球に行くのは面倒だったので契約することにした。 なーに、このチームはメジャーへ行くための踏み台さ。 何れは女子アナと結婚し、六本木のマンションに住みたいな。 「アヘアヘ、もうちょっと腕を下げたらどうや。球速もアップするで」 キャンプ初日に投手コーチの間海蔵さんに言われた。 プロの指導者だ。ボクはコーチの言う通りにした。 だがボクが、ブルペンで投げていると……。 「小僧、あまり人の話を聞き過ぎるなよ」 強面の麦田さんに言われた。 何だよ偉そうに、ひょっとしてボクの人気に嫉妬しているのかな? キャンプも進むと、球界のOBがわざわざ天才のボクに会いに来てくれる。 「腕の振りはもっとこう……」 「足がインステップしてね?」 「変化球を伝授しよう!」 日替わりで様々なOBが指導してくれた。ボクは言う通りフォームを改造し、教えてもらった変化球もマスターした。 またコーチやOBだけではない、動画サイトを見たりして独自に研究。自分なりの完璧なフォームを作り上げていった。 ――あれ……ちょっと待てよ。 「何かしっくりこないぞ?」 ☆★☆ ――カツーン! 『滅多打ち! 滅多打ちだ!! 沖田元気、初回を7失点KO!!』 沖田は京鉄打線の餌食になっていた。 球のキレはなく、変化球も外れ四球の連発。甘く入ったところを打たれる、その繰り返しだ。 「ピッチャー交代や! 左の神保!!」 福井さんより、左投手のベテラン神保さんがコールされた。 神保さんは球速はないが老獪な投球術で三者凡退だ。 「……」 沖田はベンチの隅に座り顔を白いタオルで覆っている。 沖田元気……散ったか。 途中、彼が自分を見失っているように見えたのだが――。 「次はお前やさっさと出んかい!」 「は、はい」 福井さんは苛立っている。 開幕戦というのに、ほぼ試合が決まってしまったからだろう。声に怒気がこもっていた。 『四番 ライト アラン 背番号6』 京鉄ドームに僕の名前が響いた。 人の心配をしている場合じゃない、僕はこれからオニキアと対戦するのだ。僕はバットを握りしめ打席へと向かう。 ――ニッ…… オニキアは相変わらず冷たく笑っている。初めての対戦、来るなら打つしかない。 そうして、僕がスキル【集中】を発動して打席に立つと……。 ――ヒヒッ! いくよ勇者さん! 声がした……僕は直ぐ後ろを振り向いた。 「コラ、前を見んか」 僕は審判と目が合い注意される。キャッチャーの元山は無言でミットを構えるだけだ。 (何だったんだろう……) 僕は気を取り直して構えると……。 ――ズン! 「なッ?!」 体が急に重くなった。 全身に重い石を取り付けられたような……。 「ストライク!」 いつの間にか球が投じられていた。 球速は112キロ……僕はバットを振れず見逃してしまった。 「何やっとんじゃ!」 「そんな眠くなるような球も打てんのかい!」 観客席から僕に対して野次が飛んだ。オニキアを見るも、彼女は飄々とロジンバックをつけている。 (何か呪文を唱えたのか?) いや違う……直接的に僕に魔法攻撃するわけがない。そんなことをすれば大変なことになる。 ――ブン! 球が投じられた。今度はカーブという変化球だ。 ボールを引き付けて打てば……。 ――ズン! 「ストライク!」 まただ。また体が鉛のように重くなった。 奇怪だ……まるで誰かに、のしかかられるているようだ。 だが、考えている余裕はない。既にオニキアは投球モーションに入っている。 ――ブン! ど真ん中のストレート、僕を試しているのか。 ――ズン! 体は鉛のように重くなる。こうなったら力づくだ。 ――コン…… 何とかボールを当てた、逆方向への打ったがボテボテ。ボールはセカンド方向へ転がる。 このままではアウトだ……ならば『エアカンダス』を唱え内野安打を狙うしかない。 ――そうはさせないよ。 僕が走り出した直後に声が聞こえた。しかもだ……。 ――シールレス! 「なっ!?」 補助呪文『シールレス』だと! 一定ターン、魔法を封印する呪文だ。 オニキアか? いやまさかそんなハズはない。それならば、されたことがわかるはずだ。 「アウト!」 全力で走るもアウト。僕はセカンドゴロに倒れた。ベンチに戻ると福井さんはカンカンだ。 「アカンで! 振り抜かな!」 「……すみません」 どうなっているんだ……。 まるで僕は見えない敵と戦っていた。 ☆★☆ 試合はとうとう9回の表まで来た。 スコアは7-0と僕達に全くいいところはない。 「調子がよかったのはオープン戦だけか!」 「アランはアカン!」 京鉄側のファンから野次が聞こえる。そう今日の試合はこれで最終打席だ。 僕はここまでゴロだらけでヒットを打ってない。 (どうする考えろ) 誰かに呪文をかけられていることは分かる。どこからされているのかはわからない。 エアカンダスによる内野安打を狙ったとしても、シールレスで再び呪文を封じられるだろう。 ならばどうするか……あの技を試すしかない。 ――ブン! オニキアが投げた。 僕は目を閉じて集中する。 ――ヒヒッ! グラビ……。 小さいが声がした。 やるなら今だ! 「疾風斬り!」 ――カン! 特技【疾風斬り】。 その名の通り、疾風の如く攻撃する技だ。威力は低いが相手より先制して使用することができる。 『ライト前にポテンヒット! ようやくプロ初ヒットが生まれました!』 思った通りだ。 いつも体が重くなるのは、ボールが投げ込まれた瞬間。 僕に攻撃呪文をする前に攻撃すればよいのだ。 「フフッ……」 一塁に立ち、オニキアを見るも不気味に笑っている。 そうか……僕一人だけ打っても仕方がない。野球はパーティプレイなのだ。 ――バン! 「ストライク! バッターアウト!!」 「今のはボールだろッ!?」 続くベールは見逃し三振。 ベールは納得できないのか審判に抗議するが、判定が覆るはずがない。 「ゲームセット!」 結局、僕達は開幕戦を黒星発進した。
コメントはまだありません