僕はゲッツーを取ってツーアウト。次のバッターを抑えれば交代だ。 次のバッターは2番のデホ、上半身裸でバットをフレイルのように回しながら打席に入る。 ――ビュンビュン! ビュンビュン! 「ブルース・リーかいな」 「マリアム君、若いのに例えがジジ臭いぞ」 「それにしても何で上半身裸なのかしら」 「マッチョ♡」 スタンドで応援する天堂オーナーとマリアム達が騒いでいた。 デホといえば怪鳥音を叫びながらバットを構える。 「ホワアアア――ッ!!」 相変わらずの気合の入れっぷり、堕ちたとはいえ一流の武闘家だ。 どんな特技を繰り出すか分からないが、ここはしっかりと投げるしかない。 『外野手アラン! 小さいテイクバックから……』 ――ブン! 『投げたッ!!』 僕が投じたのはストレート、というよりもコレくらいしか投げられない。 もう一つあるとすれば、チェンジアップだが実戦で使えるかどうかは疑問。 今はドカの構えるコースに思いっきり投げるしかない。 「崩ッ!!」 ――特技【震脚】! 僕がボールをリリースした瞬間、デホは特技【震脚】を繰り出して来た。 やはりこの場面で出して来たか……揺れが伝わり足場が崩れる。 「くっ!」 足場の崩れが体と心の崩れとなり、心技体の崩れがボールに伝わる。 つまり、ボールに伝わった乱れが失投というミスという形になってしまった。 「喝ッ!!」 ――カツーン! 『引っ張った! 打球はレフトへと飛ぶゥ!!』 打たれた! レフトはいなくなった佐古さんに代わり元山が守っている。 「完全に捉えたぜ! ホームランだな!!」 デホはゆっくりと走りながら僕を指差す。 打球は大きい、グングンと伸びていく。 ホームランか……僕はガックリと肩を落とすが――。 ――バシィ! 『レフト元山! サーカスプレイ!!』 「何ィ!?」 何と元山は金網を昇り、逆シングルでグラブを差し出してのアウト。 敵だった元山にまさかこんな形で助けられるとは。 「ざまあ! ラー○ンマン野郎、ざあま!!」 元山はキャッチしたボールをこれ見よがしに掲げてアピールしていた。 あいつ本当にキャッチャーだったのか、かなりの瞬足と打球判断能力だ。 「ありがとう」 「しっかり投げろよボケ!」 僕はベンチに戻って来た元山とグラブを突き合わせてのタッチ。 今は味方同士、頼もしい仲間が現れたものだ。 「憤ッ!!」 ――ベキィ! 一方のデホはバットをへし折っていた。よっぽど悔しかったのだろうか。 「バットを粗末にするのは二流よ」 「何だと!?」 それを見たシュラン、赤バットを磨きながら言っている。 そして、グラブをはめるとバットを腰に差したまま守備についていった。 「スカした態度取りやがって……」 「熱くなり過ぎだ、まだ我らの方がリードしている。守備に就くぞ」 熱く滾るデホをブルクレスがなだめ、デホはセカンドへブルクレスはファーストへと向かう。 次は僕達の攻撃、攻撃前に円陣を組んだ。赤田さんが皆に発破をかける。 「いいか! 相手はアンダースロー、無理に引っ張ったらイカンぞ!!」 続いてスペンシーが前に出た、何か全員に伝えたいことがあるそうだ。 「もう一つ、皆に伝えたいことがある――」 僕達はスペンシーの言葉を耳を立てた。 なるほど、そういうことか―――。 ☆★☆ 『打った! 森中に続き、徳島が打ちました!!』 「バ、バカな!?」 『続いて元山も執念のポテンヒット!!』 「ざまあ! サブマリン野郎、ざまあ!!」 反撃の狼煙だ、7番の森中さんから連続ヒット。 赤田さんの指示通りに思い切り振らず、センターから逆方向を意識してのスイング。 ノーアウト満塁までもっていった、ここでもしホームランを打てば一挙逆転である。 『満塁の大チャンス! 次は負傷退場した安孫子に代わりスペンシー!!』 「ありえん……俺が打たれるなどォ!!」 『サブマリンのデーモン66号、投げたァ!!』 ボソッ……。 「カーブ……」 ――カツーン!! スペンシーは低めのカーブを思い切り叩きつけ、ボールを左中間に運んだ。 森中さんとドカ、更には元山が本塁を踏んで同点となる。 『同点! これで試合は振出しに戻った!!』 「し、信じられん。こいつら急に俺の球を……」 デーモン66号はまるで狐に包まれたような顔だ。 彼はまだ気付いていない、スペンシーにスキル【分析】によるクセを見破られていた。 そのクセとは3つ。 1.カーブを投げるときは舌をペロリと出る。 2.シンカーを投げるときはグラブがヘソより下に来る。 3.低めへ投げるときはリリースする時の手が地面に近くなる。 分かりやすいクセは読まれやすく、プロなら打てて当然である。 ――カツーン!! 続く国定さん、河合さんもヒット。僕に打席が回ってきた。 「俺の自慢のストレートはどうだ!!」 浮き上がるようなボールが迫るが、そろそろ僕の目も慣れて来た。 ――カツーン!! センターを意識し振り抜くとボールはスタンドイン。 『アラン、満塁ホームラン!!』 「う、うがあああッ!?」 ――カツーン!! 「や、やった打てたぞ!」 「ピ、ピッチャーだったヤツにまで……」 精神的な動揺はボールにも伝わり、コースが甘くなる。終いには湊にまで打たれた。 この回、デーモン66号は火だるまとなり一挙12点をもぎ取った。 「ちっ……役立たずが」 「所詮は二軍メンバーだな」 デホとブルクレスがベンチで項垂れるデーモン66号を侮蔑の表情で見ていた。 彼らには仲間意識というものがないのだろうか……。 ――ザッ…… そして、いよいよ次は3番ライトを守るシュラン。 赤いバットを僕に向けながら言った。 「やっと会えたな」 「やっと?」 「よもや忘れてはおるまいな、ドンロンの切り裂き魔を」 ド、ドンロン!? 物語の序盤に訪れた街ドンロン、街の人々を恐怖に陥れた殺人鬼の異名、それがドンロンの切り裂き魔……。 (そして、その名はシュラン!) 悪徳魔法剣士で、技のキレ味を試すために何の罪もない人々斬り回った男の名前がそうだった。 僕達勇者パーティが街の領主に懇願され、何とか見つけ出して討伐。中ボス的存在で手強い相手だった シュランの事を思い出し動揺していると、ドカが心配して近づいてきてくれた。 「どうしたんや?」 「い、いや……」 「おかしなやっちゃな。とりあえず大量点は取ったんや、安心して投げ込みや」 ドカはそう言うが、オニキアに当てようとした魔法剣ならぬ魔法撃をするのは目に見えている。 ――グッ…… ボールを真芯に当てさせてはならない。 (新変化球を試すか……) 僕はグラブの中にあるボールに指をかけた。 縫い目にはかけない、人差し指と中指をつけ、親指はボールの下部を支えるようにして握った。 (ぶっつけ本番で出来るか? いや……やるしかない!)
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