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 開幕の前日、僕とマリアムは一度クエスト通商に戻って来た。  僕自身オディリスに聞きたいことがある。そう山ほどあるのだ。 「アランどうしたんや……さっきから顔が怖いで」  僕がこれからボス戦に臨むような顔になっていたのだろう。 「何でもない」  僕はふとマリアムを見た。彼女は言っていた『オディリスに命を救われた』と……。  ならばオニキアの言うような『ゲーム』とやらに、マリアムも参加させられているのだろうか。 「マリアムはオディリスとの付き合いは長いのか?」 「何やねん急に……」 「いいから答えて」  マリアムは僕を怪訝けげんな顔で見つめる。  緊張が伝わったのか、マリアムは一呼吸置いてから答えた。 「そないに長ないな。付き合いはホンマについ最近や」  ……ということは、それほど月日は経ってないということか。では、人の言葉はいつ覚えたのか。 「人間の言葉はいつ覚えたの」 「オディリス様にスキル【言語学】をもろてからやな。人間の言葉をしゃべらんとマズイという理由でや」 「そのおかしな話し方は?」 「アホ! これは天然のものや!」  天然ね、てっきりこの世界に住んだ影響かと思っていた。マリアムは僕が珍しく質問を投げかけてきたので不思議そうな顔だ。 「今日はどうしたんや。何かおかしいで」  僕は無言で店の奥まで入っていく、行先はクエスト通商の作業所だ。オディリスは異世界で手に入れた植物や食材をそこで加工製造する。  僕に緊張感が走った。まるで魔物が住む洞窟に入るような感じだ。  だが……。 「誰もいない……」  作業所にオディリスはいなかった。  しかし、作業所のテーブルに何かが落ちていた。 「これは?」  一枚の羊皮紙があった。インクにはこう書かれている。 ――暫く留守にします。  オディリスはどこへ?  まあいい、僕は与えられた試練クエストを進めるしかないのだ。 ☆★☆  僕は落ち着かないまま開幕戦を迎えた。場所は京都ドーム、京鉄バイソンズの本拠地だ。  つまり開幕戦の相手は因縁深い京鉄バイソンズということになる。 『始まりました、プロ野球開幕戦。メガデインズの先発は沖田元気、一方のバイソンズはオニキア・ワイス。両チーム共に今年の新戦力として期待されております』  オニキアがマウンドに立っている。  左からのサイドハンド、美しいフォームだ。僕より野球というゲームに適応している。 「オニキアちゃーん!」 「がんばってーっ!」  球場からは観客達の声援が飛ぶ。  練習試合やオープン戦ではそれほど投げてはいないが、無失点の好投を続け開幕投手の座を手に入れたとのことだ。 ――パシャパシャ  カメラのシャッターが切られる。オニキアは入団時より話題を呼び、早速グッズまで作られたようだ。  写真集はショップで飛ぶように売れているらしい。 「フッ……アホらしい、何が美しすぎるプロ野球選手だよ。この『佐古如水さこにょすい』が華麗に出塁してやろう」  メガデインズの一番打者は、センターの佐古さんだ。  今年、FAとやらで東京サイクロプスから移籍したプロ11年目のベテラン。  盗塁王なるタイトルを2回受賞したとのことだが――。 「ストライク! バッターアウト!!」 「バ、バカな?!」  あっという間に三振した。ここでオニキアは、一つのトリックを使用している。  風属性の魔法だ、ボールに風の魔力マナを加えスピンをかけている。  ボールが伸び、実際の球速よりも早く見えるのだ。 「アウト!」  続いて二番ショートの安孫子さんはサードゴロ。次はレフトのハイデン、スイッチヒッターだ。 「ヘーイ! かわい子ちゃん、ミーの〇〇〇も興奮して来るぜ!」  ハイデンはオニキアに手を振っている。 「あいつ何言ってんだ?」 「さあ……」  ベンチではチームメイトがハイデンを見て話し合っている。英語という言語が分からないのだろう。  僕は理解しているが無言だ。言葉が分かるブルボンさんは眉をしかめ、ベールはニタニタしている。 ――ブン!  オニキアはボールを投じる。 「ヘッ! 何でこんな球を打てないんだ!」  ハイデンはボールを打つもファウル。バットの芯を外されたのだ。 (サイドハンドから縦回転?! いやあり得るが……)  ハイデンはバットを構え直す。 (一球待つか……) 「ストライク!」  続けて内角へと入りストライクコール。  これでハイデンは追い込まれた。 ――ニコ……  オニキアは笑う。一方のハイデンは肩に力が入っていた。 (このアマ、嘗めやがって。ミーは元大リーガーだぜ!) ――ブン!  サイドハンドからボールが投げ込まれた。ボールは縦回転、おそらくはフォークボールか。 (ニホンの配球は単純明快だな、俺がガイコクジンと思って変化球を振ると思い込んでやがる。だがな……所詮は横手投げ、そんなに変化はしねェ! 一球目のボールでどれくらい変化するか予想できるぜ!!)  ハイデンは膝と腰を折りたたみ、ボールを掬い上げるように打つ気だ。  彼の力ならスタンドへ、悪くても長打は打てるだろう。 ――ブウン! 『空振り! バッターアウト!! オニキア、一回を見事に抑えましたーっ!!』 「な、何だよ。あのボールは……」  ミーティングという会議で、はざまという投手コーチが言っていた。 「データによるとフォーク投げるみたいや。でもサイドやからそんなに変化はせん」  サイドからならそれほど変化はしない。  僕達もミーティングでオニキアの試合映像を見せられた。  確かにボールの変化量は小さかった。どちらかというと打ち取るためのボールだろう  だが先程のフォークは普通のフォークではない。  風魔法を込めた『魔球』……。  縦回転をより加え、変化量が多いボールだ。 「アメリカ野郎、日本の野球を嘗めるなよ」  バッテリーを組む元山がハイデンに何やら声を掛けた。  ハイデンは悔しそうにバットを地面に叩きつけている。 「ガッデム!!」 ――ニッ……  オニキアがメガデインズのベンチに向かってグラブを突きつける。  妖魔のような笑み、彼女はもう僕の知っているオニキアではないのか……。  イブリトスとの戦いでは、ある意味人間らしい感情があった。  でも、今の彼女は違う。何かこう冷たさがある。 「何やあの外国人、教育せいよ教育」  福井さんは挑発されたと思って怒っているようだが、それはチームに対してではない。  この僕……碧アランに対してだ。 ――野球地獄。  オニキアが言ったこの言葉が脳裏に浮かぶ。  僕はこの言葉を思い出しながらライトの守備に就いた。  これから、どういう試合になるのだろうか……。 『メガデインズの投手は沖田! いよいよ甲子園優勝、大学日本一経験のタオル王子が登板しました!!』  一方、僕達メガデインズの先発は沖田元気。  彼はこれからどのような投球を見せてくれるのだろうか。

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