勇球必打!
ep104:乱調

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「ストライク! バッターアウトッッ!!」 「ちっ……!」  ネノさんが三振に倒れた。  7番、8番、9番の下位打線はあっという間に凡退だ。  6回の表は終了、ベンチにいる西木さんは腕を組んで黙ったままだが、 (嫌な流れだ……)  顔が曇っているように見えた。 ☆★☆ ――バシッ! 「ボール! フォアボール!!」 「へへっ! 毎度ありっ!」  ベリきちが不敵に笑う……。  5番ブルクレス、6番レスナーと連続のフォアボール。  そして、7番のベリきちもフォアボールで塁に出られてしまった……。 『アラン乱調ォッ!!』  どうしたことか――スキル【精密樹械】を発動させているハズだ。  それなのにコントロールが乱れる……。 「どうしたんや……」 「まさか連投で疲れたのかい?」  内野陣が集まりドカやネノさんが声を掛けてくれる。  ベンチから神保さんが小走りに走って来ると心配そうな顔だ。 「5回の裏から様子がおかしいよ」 「すみません」  僕は平謝りするしかない。  サードの森中さんが黒眼鏡の奥から見える目で僕を凝視する。 「すみません……ってなァ、どうすンだよこのピンチ!」  ファーストの鳥羽さんが興奮する森中さんを諌める。 「そう興奮するな。1点は仕方ない、開き直っていけ」 「は、はい」  神保さんは真剣な眼差しをして僕に言った。 「鳥羽君の言う通りだ。開き直ってやるしかない!」  そう告げると神保さんは小走りでベンチへと戻る。  ベンチを見ると西木さんも赤田さんも黙って僕を見つめるのみ。  確かにそうだ――ここは開き直ってやるしかない。 「アラン! あんたは勇気ある心を持つ勇者やろ! 思いっきり投げんかいッ!!」  三塁側の観客席からマリアムの声が聞こえる。  そうだ――僕はこのチームの勇者エースなのだ。  スキル【殺人球活人球】を発動させるッッ!! 「フム……良い目をしているな」  次はホブゴブリンの田中だ。  前の打席ではあいつにツーベースを打たれている。 (アラン、その精神を荒ぶらせることで強くなる素養――上手くいけば闇落ち勇者になれるかもしれん)  不敵に笑い続ける田中。  ノーアウト満塁のチャンスにほくそ笑んでいるということか? (負けられない……)  僕は〝黒い意志〟と〝鬱金色の炎〟をたぎらせる。  理由はわからないが……球の質、キレ、コントロール全てが乱れているが……。 「僕達は負けるわけにはいかない!」  渾身のストレートを投げる! 「ストライク!」  お次は外角低めへのカーブだ! 「ストライク!」  よし……ツーストライクまで追い込んだ。 (ギアがかかってきたようやな)  ドカがサインを出す。高めへとストレートのサインだ。 (ボールでもええで! 高めの球を振ってくれれば幸いや!)  ドカの意図は理解した。  僕は高めへ渾身のストレートを投げ込む! ――コツッ!  田中は高めへのボール球を手を出したがファールだ。  まだ遊び球を使うには十分だ。 (次は低めへのチェンジアップ!)  僕は低めへのチェンジアップを投げる。  ストライクゾーンからボールゾーンへと変化する緩いボールだ。  ボール球に手を出してもらえれば―― 「おりゃッッ!!」 ――カツーン!  田中は低めのチェンジアップに手を出した。  掬い上げるような打ち方だが――ヘッドを返していないッッ!! 『ワ、ワザあり! ワザありのヒットオオオォォォッッ!!』 『まるでクリケットの選手のようだぜ!』  センター前のヒットを打たれた……。  まさかあんなボール球を打つだなんて……。 「フフ……これで1点差だな」  これで8-7……点差は一点差。  BGBGsの新リーダーであるデーモン0号。  彼は手を叩きながらヒットを打った田中を労う。 「見事な悪球打ちだったぞ! 恐怖の8番バッターといったところだな!」 「ありがたき幸せ……」  田中は一塁ベース上で膝をつき、デーモン0号に頭を下げている……。 ――くたばれ人間♪ くたばれ人間♪ ――ハア♪ 踊り踊るなら♪ チョイト魔界音頭♪ ヨイヨイ♪  ライト側応援席からの大合唱。  全員が上下に黒いコウモリ傘を動かしている……。  瞑瞑ドームはBGBGsのイケイケモード、ドーム内の雰囲気、流れが明らかに変わってきた。 「…………」  何が足りないのだろうか?  工夫? 投球術? リズム? 修正力?  これまで身に着けた全てを出しているはずなのに……。  数々のレアスキルを発動させているのに……。 「ピッチャー交代!」 「えっ!?」  西木さんの声だ。  それと同時に神保さんもベンチから出て来た。 「アラン、ここは湊に任せよう。君はセンターへ回ってくれ」  僕は黙ってボールを神保さんに渡した。  この試合は落とせない――そう理解しているつもりだ。  しかし……。  グッ!  僕は拳を握り込んだ。  悔しい――途中までは完璧な投球内容だったのに……。 『ピッチャー交代のようです! センターの湊がマウンドへ! ピッチャーのアランがセンターへいきます!』 『マンダム――本人は気付いていないが球のキレが悪くなっているからな、残念だが仕方がないぜ』  こうしてマウンドを湊に託し、僕はセンターへと守備についた。 「どうしたばい! 調子が崩れ過ぎとね! 敗北勇者さんよ!!」 「敗北勇者は馬車ではよ帰れ!」 「敗北勇者様、こっちへ来て一緒にブタマン食べよ~」  ライトスタンドのヨハネ応援団長と共に数匹の魔物から野次を飛ばされた。  敗北勇者――その言葉が心に突き刺さる。 ☆★☆ 『フレスコム! 平凡なキャッチャーフライッッ!!』 「クワカーッ! ミスショットをしてしまったァッ!!」  湊はフレスコムをキャッチャーフライに打ち取った。  これでワンアウト……湊には申し訳ない気持ちで一杯だ。  大ピンチに駆り出されるリリーフの心労は半端ないだろう。 (これでワンアウト、確実にアウトをとっていくぞ)  次は一番に戻りショートのゼルマだ。  守備陣形は前進守備となる、1点もやらないような守備位置だ。 「小賢しい陣形だ」  湊はセットにつき第一球を投じる。  ゼルマは打席に入った時は構えたものの……。 ――コッ!  ヒッティングからバントの構えに変えた! 『ス、スクイズッ!?』  スクイズだ! この場面で!?  前進守備で三塁ランナーはレスナーだぞ!?  カイザートロルの足は決して速くはない! 「湊! ワイにトスや!!」 「う、うん!」  ボールは幸いピッチャー前!  湊はドカにボールをグラブトスする! タイミング的には完全にアウトだ!  ボールをしっかりとミットに納めたドカはタッチに向かうが……! 「ハイヤー!」 ――特技【鉄山靠てつざんこう】! 「うぐっ!?」  ドカはレスナーのタックルにより吹き飛ばされてしまったッ!!

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