勇球必打!
ep121:光の応援団

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「私の暗黒球ブラッディボールを打った……たかがモブキャラに……アランならまだしも……」  森中さんが出塁した。  次はラストバッターのネノさんだ。 「さっさと投げなよ」  挑発するネノさん。  ヤツはセットポジションに入り、 「くゥ!」  直球を投げ込んだ。  ネノさんの目がキラリと光る。 「よっと!」  ネノさんはバント姿勢へと入った。 ――コン!  送りバントだ。  殺された打球がコロコロと三塁線へと転がる。 『打球は三塁線へと転がるゥ!』 「ちィ!」  ヤツは打球を処理。  急いでボールを一塁へと送球する。 「アウトッ!」  アウトを取るが、森中さんは二塁へと進塁した。 『これでチャンスが広がった!』 『マンダム――得点圏にランナーを置いたぜ』  これで二塁に森中を置いた。  同点の大チャンスだ。  打順は一番に戻り安孫子さん。ベンチに戻ったネノさんがウインクを送る。 「ジョーさん! 頼んだよ!」 「任せな、いぶし銀の技を見せてやるぜ」 「期待してるよっ!」 「へっ……女に応援されたら、より気合が入るってもんだぜ」  安孫子さんは燃えていた。  打席に立ち、首を左右に振り、敵軍チームのポジショニングを確認している。 「黒野、俺の仇名を知っているか?」 「な、何を突然――」 「いいから言ってみろよ」 「知るか!」 「ならば教えてやるぜ。俺の仇名は〝殺し屋ジョー〟だ」 「だからどうした!」  ヤツは第一球を投じる。  投げた球種はストレート、外角低めに決まる。 「ストライク!」  ストライクを取られた。  でも、これが安孫子さん――殺し屋ジョーの流儀だ。  初球は必ず振らない、こうやって相手の球筋を見て分析するのだ。 「なんかキレがないな」 「な、なんだと?」 「お前、5回からここまでいい球を投げてたはずだぜ。急にショボくなったぞ」 「バカな……そんなはずがない!」  ヤツは二球目を投じた。  鋭く曲がるカーブが真ん中低めに決まる。 「ストライク!」  安孫子さんはバットを振らない。 「見たか、我が暗黒のカーブを!」 「声も変わっちまってるな。ノドを痛めたんなら龍○散でもなめるか?」 「追い込まれたというのに余裕だな」 「さっさと投げてこいよ。お前、だんだん鐘刃みたいに小物化してるぞ」 「愚かものめ!」 ――ギュウンッ!  投げた。  速く、鋭く曲がるスライダーだ。 「このスイーパーで闇に沈め!」  スイーパー。  スライダーの一種で、大きく横に変化する変化球。  MLBで大流行りしている。僕も実際に見るのがこれが初めてだ。 「球速87マイル(約140キロ)! 17インチ(約43.2センチ)の変化だ! このワールド球の――」 「ていっ!」  安孫子さんは、 『逆方向へのヒットオオオッ!』  打った。  コースに逆らわない、芸術点が高い右打ちだ。 「なっ……」 「俺は殺し屋、狙った獲物は逃さねェ」  安孫子さんは一塁へと走り、森中さんは三塁へと進む。 「な、何故だ……私のワールドクラスのスイーパーが……」 「何だか知らねェがよ、そのスヌー○ーとかいう変化球、劣化カオスボルグって感じだな」 「ス、ス○ーピーではない! スイーパーだ!!」 「知るかよ。ただの真っスラだろ、最近の野球はすぐに名前をつけたがる」  一塁上で、バッティンググローブを外す安孫子さん。  カオスボルグより遅く見えたという。  殺傷力はないだろうが、速さと変化量なら圧倒的にヤツのスイーパーの方が上に見えたのだが。 『一、三塁にランナーを置いた! 逆転のランナーを置いたぞ!』 『壮絶な殴り合い野球だぜ』  何はともあれこれで同点どころか、逆転のチャンスだ。  一方のヤツはマウンド上でプレートを蹴っていた。 「どういうことだ……私の暗黒球ブラッディボールもスイーパーも完璧だった。この世界のモブキャラどもに打たれるなど絶対におかしい!」  ヤツは一塁上の安孫子さんや三塁上の森中さんを睨んでいる。 「どんなスキルや特技を使ったのだ!?」 「そんなものは使っていないよ」 「ぬっ……!?」  打席では次の打者が立っている。  2番の国定さん――大魔導師ハイウィザードゾージュだ。 「メガデインズはアランより勇気を貰った。各々が身につけたプロの技のみで戦っている」 「な、なんだソレは……」 「黒野――いや黒野ではない何者かよ。私の体から発する力が見えるか?」 ――カカッ!! 「深紅の覚悟!」 ――ボボッ!! 「白金の焔!」  国定さんはバットを構えた。 「これが野球――プロ野球のナチュラルパワーだッ!」 「う、うぐゥ!?」  ヤツは怯んでいた。  国定さんから発する見えない力に恐れをなしていたのだ。 「こ、これはマズいばい!」 「叔父様、どうなされたのですか?」 「ノア! 犠牲フライでも同点ばい! 雄叫びをあげてプレッシャーをかけるばい!」 ――ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ!  ライトスタンドから魔物達の咆哮が響き始めた。  その声は最初は小さいものだったが―― ――ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! ――ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! ――ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! 『ひ、響きます! 魔物達の咆哮が轟きます! 暗黒エースへの声援か!?』 『違うぜ……』 『違う?』 『これは打席に立つクニサダへの圧だ――プレッシャーをかけてミスショットを狙っている』 ――ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! ――ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! ――ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオッ!  瞑瞑ドームは魔獣の咆哮が広がる、響く、揺らす。  更にはウェーブが巻き起こり、試合から死合へと変えるほどの殺伐とした空気が流れ始めた。 「ビジターの肩身が狭さを感じるぞ!」 「す、凄い声量」 「私達に応援させないっていうの!?」 「魔物達のマナーが悪すぎますゥ!」  天堂オーナー達は戸惑った様子だ。 「応援団が――応援団がおったら!」  マリアムが何やら叫んでいるが聞き取れない。  それほどまでに異様な雰囲気になったからだ。 「ふっ……魔物の声援。ピンチだというのに力が湧いてくるようだ」 「くっ!」 「先程の勢いはどうした? シンクノカクゴ、ハッキンノホムラとやらを見せてみろ!」  嫌な予感がしてきた。  例え国定さんが売ったとしてもゲッツーになるかも。  ネガティブな思考が頭を過る、これではいけない。  こちらが押し始めているというのに。 ――チャチャチャチャチャ♪  魔物の方向の中からトランペットの音が聞こえた。 ――オイ! オイ! オイ!  続いて、声援が聞こえた。 ――OHHHHHHHHHH!  轟き始めるのは応援。 ――オイ! オイ! オイ! オイ! オイ!  応援歌だ。 「応援ボイコットはマナー違反や」  だみ声が聞こえた。  内野スタンドを見ると法被を着たおじさんがいた。 「え?」  あの人は見たことがある。  ブッフとの試合で僕に声をかけてくれた人だ。 「あ、あの人は!」  オディリスが驚いた顔をしている。 「し、知り合いですか?」 「や、八坂さんだ! メガデインズの応援団長さ!」  あのおじさんは応援団長だったのか。 「新応援歌――『勇王』を流すでエエエエエ!」 ――ピー♪ ピッ♪ ピッ♪ ピッ♪  八坂さんが笛を鳴らした。  その笛を合図に、 ――ウオオオオオオオオオオッ!  レフト側に多くの人がなだれ込んできた。

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