勇球必打!
ep123:塀際の悪魔術師

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 モンスターシフト。  確かにそう言った。  如何に外野の陣形を整えようとも、あの大飛球をキャッチすることは不可能だ。  外野の陣形は、フレスコムを中心にヒロとベリきちが、三角形トライアングルの形で並んでいる。  これから何をする気なんだ。 「クワカー! まずは俺からいくぜェ!」  まず、動いたのはフレスコムだ。 ――バシバンシュ!  バシバンシュ!?  敵グループを吹き飛ばし、戦闘から強制させる離脱させる呪文だ!  フレスコムはそれを仲間である、ヒロとベリきち目掛けて放った! 『フレスコム選手の謎の力! ヒロとベリきちが吹っ飛ばされたーっ!』  ヒロとベリきちは上空に舞い上がった。  本来なら、どこか遥か彼方へと飛ばされ戦線離脱であるが……。 「クワカカカッ! ここはドーム球場!」 「天井があれば戦線離脱はなしッ!」  フレスコムとベリきちの言葉通りだ。  バシバンシュは天井のない平原で効力を発揮。  洞窟や塔など天井がある場所では無効化となる。 「よって、呪文の効力はかき消されるが――上空へと飛翔は可能!」  ヒロはそう述べると、ベリきちに合図した。 「ベリきち!」 「応ッ!」 ――パシッ!  ベリきちはヒロの足を掴んだ。  い、一体何を……。 「打球の方向は約2時の方向……お前の強肩を見せてやれ!」 「言われなくとも――ッ!」 ――ブウンッ!  グレーターデーモンの腕力かいなぢから。  そのままヒロを大飛球への方向へと、 「ちょいやアアアッ!」  投げ飛ばし! 「「「これぞ! モンスターシフト絶技ッ!」」」  魔物外野陣は声を合わせた! ――塀際の悪魔術師フェンス・ダークマージ! 「逆転打! 掴んだりッ!」  ヒロの叫びが僕達、メガデインズの耳に響かせ。 ――パシッ!  希望の逆転打をキャッチした。 「ア、アウト!」  審判に宣告されるアウトコール。 「な、なんてことだ……」 「ホームラン性の打球だったのに!」  僕を含め、ベンチのいる全員がガックリと肩を落とす。 『ヒロ! 超大ファインプレー! これでツーアウト!』 『マンダム――まだ希望を捨てちゃあいけないぜ』 『どういうことですか! ブロンディさん!』 『三塁にランナーを置いている。つまり――』 ――犠牲フライによる同点!  そう、まだ希望を捨ててはいけない。  三塁に森中さんがいる。 「や、やったるぜ!」  森中さんは意を決して本塁へと突入するが、 「森中! 走るなアアアッ!」  赤田さんが大きな声で叫ぶ。 「え!?」  森中さんはその声に気付いて、立ち止まった。 「あ、赤田さん!?」 「何で止めるんだよ!」  僕と元山は赤田さんを見る。  何故止めるんだろう。 「ヒロがあの人なら――本塁突入は危険だ!」  そう、赤田さんが言った瞬間だ。 ――ビュウーン!  一閃がダイアモンドを横切る。  白球だ、白球が矢よりも早く投げ込まれた。 「いい送球だぜ!」  外野からの送球が、本塁で構えるキャッチャーの田中の元へといく。  何という強肩なんだろう、もしあのまま森中さんが本塁へ突入していたら……。 『大強肩! ヒロのバックホーム!』 『危なかったな。森中の足を考えれば、あのまま本塁に突入してたらアウトだったかもしれん』  僕達は全員が息を飲み、ホッと胸を撫で下ろした。  赤田さんが言わなかったら、森中さんはホームタッチアウト。  メガデインズは敗北していただろう。 「……赤田さん」 「西木さん、あの魔物はあの人ですから」 「空下浩だからか?」 「ええ……守備でも鉄砲肩を披露していましたからね」  ソラシタヒロシ。  この試合で赤田さんから何度も聞いた名だ。  浪速メガデインズを長年支えた4番打者、三冠王にも輝いたことがある伝説の名打者。  NPBを守ってくれるはずの『偉大なるメガデインズの勇者』だった男が何故敵として……。 「クワカッ! 流石だぜィ」 「ナイスだヒロ」 「ふっ……これくらい造作のないことだ」  ヒロ達、魔物外野陣はお互いにグラブを突き合わせている。 「腐ったNPBを――野球人共を倒すのが私の目標。後一人、アウトを取れば汚れきったNPBは浄化される」  何か言っているようだが、遠くなので聞き取れない。  包帯から除く鋭い目は何を見ているんだろうか。 「すまない……」  国定さんが、申し訳なさそうな顔でベンチに戻ってきた。 「仕方がありませんよ。まさかあんな技を繰り出すなんて予想が出来ません」 「鉄壁の外野陣だ。フレスコムの翼を切り落としたから安心したけど、そうは問屋が卸さないようだね」  僕とネノさんが声をかけると、 ――後一人ッ! 後一人ッ! 後一人ッ! 後一人ッ! 後一人ッ! 後一人ッ!  魔物達が『後一人コール』をし始めた。  八坂さん達の応援歌をかき消すほどの大声援だ。 ――後一人ッ! 後一人ッ! 後一人ッ! 後一人ッ! 後一人ッ! 後一人ッ! ――後一人ッ! 後一人ッ! 後一人ッ! 後一人ッ! 後一人ッ! 後一人ッ! ――後一人ッ! 後一人ッ! 後一人ッ! 後一人ッ! 後一人ッ! 後一人ッ!  瞑瞑ドームに響き渡るコール。  応援席の八坂さんとマリアムが何か話し合っている。 「応援中の『後一人』コール!?」 「おっちゃん、これはマナー違反やで!」 「相手は魔物……無法者の集団やからな」 「うちらも負けてられへんで!」 「もちろんや! 気合入れて応援するやで!」 「オッケー!」 ――湊ッ! 湊ッ! 湊ッ!湊ッ! 湊ッ! 湊ッ! ――湊ッ! 湊ッ! 湊ッ!湊ッ! 湊ッ! 湊ッ! ――湊ッ! 湊ッ! 湊ッ!湊ッ! 湊ッ! 湊ッ!  今度は光の応援団の湊コール。  両チームの声と声がぶつかる。  異様な光景と空気感だ。  まだチャンスのメガデインズに、後ワンアウトでゲームセットのBGBGs。  どちらも勝負を譲れない、熱く、光と闇が絡み合う最終決戦ラストバトルシリーズ。 「ぼ、僕がなんとかしなきゃ……」  次は3番の湊。  そして、 「いくぞ……!」  次に僕が控える。 「信じているぞ二人とも!」 「二人の勇者がNPBを救うんだ」  元神の片倉さんと、現在神である神保さんオディリスが声援を送る。  この勝負の結果は果たしてどうなるか?  それは、神にも理解わからないだろう……。

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