勇球必打!
ep60:神の遊び

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 鐘刃は魔軍『BGBGs』を召喚、僕達メガデインズとの睨み合いになる。  両者は光と闇、太陽と月、水と油……ダイヤモンド内で両チームを真っ二つにする。  その間から魔法陣が出現、そこから現れたのは審判団だ。  僕達を鐘刃は傲慢なる下目遣いで見ている。 「公正なる戦闘試合には審判が必要であろう」  暴君ではあるがそこはNPBのコミッショナー。  光と闇の火花が散る殺伐とした雰囲気だが、野球というルールあるスポーツを行うのだ。  公正なる審判を下すジャッジマンは必要不可欠な存在だ。 「主審の万字です」  召喚されたのは以前試合の主審を務めた万次さんだ。 「念のために確認させてもらうよ」 ――スキル【分析】発動!  スペンシーさんはスキル【分析】を発動、召喚された審判団を観察している。 「どうやら……キャプテーションで操られていないようだな」 「するわけがなかろう」  闇の術法で操られた気配はないようだ。  確かに目の焦点は乱れておらず生気を宿している。  審判団の登場を見て、マリアムは鐘刃を指差す。 「審判何て今更やんけ。あんたご自慢の四天王とやらの時はおらんかったで」 「ガタガタ細かいことを言うんじゃないよ。同種族と恥ずかしいぞ」 「なっ!?」  マリアムはBGBGsのメンバーにファックサインを出される。  そう……その魔物は……。 「マ、マリアム君にクリソツじゃあーりませんか!!」  天堂オーナーが驚く。  妖精族の魔物『アルセイス』……マリアムと同じタイプである。  ただ違うのは肌は浅黒く、青紫色の髪をしていた。  鐘刃は自チームの選手を紹介する。 「彼女はゼルマ、我がBGBGsの遊撃手だ。見た目と違い凶暴ラフな妖精さんだぞ」 「フン!」  細かい細部の違いはあるこそ、マリアムとは一番異なる点がある。  それは―――― 「こ、怖い」 「どんな修羅場を潜り抜けたんだ」 「目が恐ろしいですゥ」  MegaGilrsが言った通り、一番違うところは目だ。  マリアムの存在で忘れていたが、これが本来のアルセイスらしい魔物の眼光。  魔物としてのアルセイスと何度か戦闘した経験があるから分かる。 「アルセイスの面汚しめ、勇者などという汚らわしい存在と戯れやがって」 「う、うるさいな! あんたに言われる筋合いはないわい!」 「存在も言葉使いもウザい……この試合が終わったら可愛がってやる」 「くっ……」  マリアムは同種族の登場に動揺している。  鐘刃はニヤリと笑いながら言った。 「試合前のトラッシュトークで盛り上がったね。これから早速試合を行いたいのだが」 ――ピッ!  鐘刃は突然振り向き、瞑瞑ドームの天井にあるスピーカーを指差した。 「その前に紹介したい人物がいる」 「ホ、ホッグスくん!?」  天井には先にドームに侵入したホッグスくんが吊るされていた。  呪符のようなもので体を巻かれ体はピクリとも動かない。  意識は完全に失っているようだ。 ――バァーン!  それと同時に神秘的なメロディが奏でられる。  よく見るとセンターバックスクリーンに巨大なパイプオルガンが設置。  それを奏でているのは……。 「大江戸エリクトのマスコット! マドンだ!」 「マンダム――そういえば、オフ番組『マドンチャレンジ』でパイプオルガンの演奏を披露していたな」  実況と解説の言葉が入る。  まんまるとしたカブで可愛らしい着ぐるみだ。どうやらエリクトのマスコットらしい。  鈍重な見た目とは違い、器用にパイプオルガンを弾き続けている。 「FA宣言していたので獲得しておいた。様々な芸が出来るようなのでな」  皆がマスコットの登場に驚く中、鐘刃はグラブを召喚。  右手にグラブをはめながら説明する。 「私はマスコットまで支配出来るのだ」  続いて鐘刃はバットを召喚し左手で握り締める。  そのバットは深い闇のような黒さだ。 「ホッグス……君達はまだ彼の本当の姿を知らないでいる」 ――ビッ!  僕達に黒バットを向け叫んだ。 「ヤツが神であることを!」  神!?  どういうことだ。  僕達全員に電撃が走った。動揺した。混乱した。  ホッグスくんが神―――― 「ゼルマ!」 「ハッ!」  鐘刃の言葉を合図にゼルマはボールをトスする。  くるりと反転した鐘刃、片手でボールを掬い上げた。 ――カツーン!  ボールはグングン伸びる。  片手でのスイングというのに何というパワーか。 「な、何を……」  僕の問いに鐘刃は答えた。 「真実を見せてやろうというのだよ」 ――ゴン!  ホッグスくんの頭部に見事命中。  衝撃によりホッグスくんの顔が取れた。 「あ、あれは……」  僕はホッグスくんを凝視する。  その正体は―――― 「あ、あのおっちゃんは!」  マリアムも見覚えのある顔だった。  アッシュグレイの髪と口ひげ、品位を感じる身なり。  気品を感じさせる神々しい存在だ。 「か、片倉さん!?」  その正体はオディリスではなかった。  浪速メガデインズのスカウト、片倉国光さんだった。 「オディリスなる神だと思ったのかね? 真実は違うようだね」 「じゃあオディリスはどこに……」  動揺する僕に鐘刃は冷たく笑う。 「ククク……だいたい想像出来るんじゃあないか。彼は悪戯の神、我々の命や魂を弄んでいる存在だ」 「それは真実なのか?」 「魔王の言葉だ。信じるも信じないも勇者次第さ」  鐘刃はわざとらしく曖昧に答えた。  明確ではない言葉は僕を激しく惑わす。 「これより最終決戦ラストバトルシリーズを開始する!」 ――最終決戦開始プレイボール!  万次さんから戦闘開始の合図が出された。  僕は鐘刃の言葉に心揺さぶられなかったが、真実により揺さぶられた。  そういえば天堂オーナーも言っていた。  ホッグスくんの中の人はオディリスではないと。 「魔王イブリトスを転生させたのは……」  疑心暗鬼になる。  やはりオディリスは悪戯の神だ。  僕を転移し別次元の魔王を転生させ互いに戦わせ合う。  そういった悪趣味な『神の遊び』をして楽しんでいるのではないか。  僕が疑惑という名の言葉に精神を乱された時だ。 ――ポン……  この大きな手の感触はスペンシーさんだ。 「疑ってはならない」  続いて国定さんが言った。 「前にも言っただろう『オディリスを信じろ』と」 「こんな状況でまだ信じろと?」 「細かい話は後でするとして、事実だけを述べよう。オディリスは彼の正当な後継者だ。あんな危ない存在を決して転生させない」 「どういう意味ですか?」    後継者と国定さんは言った。  一体どういう意味なのだろうか。  様々なことを矢継ぎ早に伝えられ頭が混乱してくる。  監督の西木さんはそんな僕を見かねたのか喝を入れた。 「碧、お前は勇者だ! 気を確かに持てッ!!」 「は、はい!」  更なる謎が深まる中……最終決戦ラストバトルが始まろうとしていた。

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