勇球必打!
ep39:緊急登板

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 ホッグスくんが間を持ち、デホにカンペに文字を書きながら尋ねた。 『野球勝負は普通の試合でいいよね、あんたらが京鉄に代わる形で1回の裏ツーアウト、ランナー一三塁からスタート。そっちのほうがまどろっこしくないでしょ?』 「いいだろう、その変わりこちらは9人のみ。DH制なしで試合を再開させてもらう」 『いいよ』  鐘刃サタンスカルズ乱入達の登場で試合は無茶苦茶になった。  ホッグスくんは試合再開を促すも、審判団は怪訝な表情だ乗り気ではない。  それもそうだ、何もかもが唐突過ぎて理解出来ずにパニックを起こしているのだろう。  まずは主審の万字さんが言った。 「こんな状況で試合などバカバカしい、そんな権限がどこにあるんだ」  万字さんの言葉に続けて、他の審判達も声を上げた。 「そもそも、こんな暴挙は許されンぞ」 「無効試合だ、無効試合」 「我々がルールブックだ!」  抗議する審判団に対し、シュランは他のメンバーとバットやグラブなど野球道具を構えながら答えた。 「これはコミッショナー命令だ」 「試合の仕切り直しを拒否すれば己らは解雇ッ!!」 「貴様らは猿みたいにジャッジをすればよい。サラリーがなくなっては困るだろ」  この言葉に審判団は意気消沈。 「わ、わかった」  万字さんの言葉で試合は決定。  1回裏から再び試合は仕切り直しとなった。  それにしても……。 (このホッグスくん、何という胆力なのだ)  マスコットのホッグスくんは天堂オーナーや西木さんところへ行き、何やら筆談しながら相談している。  中の人は一体誰なんだろうか、あれだけのことがあったというのにデホ達相手に冷静な交渉をするのは、只者ではないことは確かだ。 『オーナーも監督もいいよね?』 「こ、こうなっては仕方がない」 「試合に勝つ……それ以外に選択はなさそうですしな」 ☆★☆  荒れ果てた球場で試合は再開された。  1-0で負けている状態、バッターは鳥羽さんだ。  キャッチャーでありながらも打撃力が高く、毎年二桁ホームランを打っている強打型だ。  そんな鳥羽さんだが……。 (あ、ありえねェ……) 「ストライクバッターアウト!」 (アンダースローで普通150キロ出るかよ!?)  三球三振、チャンスで点を取ることが出来なかった。  ベンチでは佐古さんと森中さんが冷や汗をかいている。 「下手投げなのに何という剛速球だ……」 「変化球もカーブやシンカーがキレキレだぞ!?」  マウンド上の『デーモン66号』と名乗る男がこちらを見てニヤニヤしている。  明らかに嘗められているのはわかる。  僕は男の顔を見た後に彼女の元へ行く、そうオニキアだ。 「判官、大丈夫?」 「マロ達はピエロぞ。ただの利用されるコマだったでおじゃる」  彼女は弁天と判官と共に、こちらのベンチの端で座っている。  あの後、スペンシーさんにリカイアムで治療されたが、判官のダメージを回復しきれていない。ずっと横になり、オニキアの回復呪文『ヒール』による治療を継続していた。 「オニキア、君達の事……あいつらの事を教えてもらおうか」 「今は試合途中よ、守備が終わってからにして……」  素っ気ない返事だった、僕に対して気まずい思いがあるのかもしれない。  傍にいる弁天が僕達の様子見てから答えた。 「アラン殿、拙僧が端的にお答えよう」  弁天が僕の目を見据えてから述べた。 「我らもヤツらも、鐘刃周という男に力を与えられたのだ」 「力を与えられたって普通の人間に……」 「ヤツは魔王の転生者を名乗る人間、異能の持ち主なのだ」 「魔王!?」  魔王ということはイブリトスか!?  僕達以外の誰かがヤツを倒して、この世界に転生してきたのだろうか……。  イヤでも待て、ではその魔王を誰が転生させてきたんだ?  まさかオディリスが――。 ――トントン  僕はモフモフな手で背中を叩かれた。 「ホ、ホッグスくん!?」 ――キュキュッ…… 『守備に就きなよ、皆待ってるよ』  詳しい事情は無事に試合が終わった後だ、僕はグラブを手にするとセンターの守備についていった。 ☆★☆ ――カツーン! 「く、くそう……」  2回表、鐘刃サタンスカルズの攻撃だ。  ピッチャーマウンドの湊は山賊の如き勇猛な打線に成す術はなし……。  5番から9番までのマシンガンヒットで2失点で計3失点。  この回は先頭はセンターを守る『デーモン号44号』から攻撃が始まる。 「あわわ……全然ダメじゃあないか」  スタンドで試合を見守る天堂オーナーは頭を抱え、マリアム達MegaGirlsは懸命に応援していた。 「オラ! しっかり気合いれんかい!!」 「ゴーゴー! 湊!!」 「湊くんガンバ!」 ――ゼェゼェ……  応援を受けるも遠目でもわかるくらい湊は疲弊していた。  肩が上下に大きく揺れているのは疲れている証拠だ。  打席のデーモン44号は、先程から何故か三遊間方向へチラチラと見ている。  何を考えているのか……僕はデーモン44号の行動に疑念を感じた。 『私も観客がいない中で懸命に実況を続けております! ガンバレ、メガデインズ!! 根性入れろ湊!!』 ――ビュッ!  湊はクイックモーションからボールを投げた。 「ストライク!」  審判がストライクコールをかけた……が悲劇は起こった。 ――スキル【投擲】発動。 「グボッ!?」  デーモン44号が振ったバットが、ショートを守る安孫子さんの顔面に直撃。  スキル【投擲】……それをヤツは発動させたのだ。 「ジョーさん!」 「あ、安孫子さん!?」  河合さんや湊が先に動いた。  次いで僕達ナインも安孫子さんの元へと向かった。 「ダ、ダメだ気絶している」 「早く誰か治療を!!」  緊急事態の発生、三塁の森中さんがデーモン44号に詰め寄った。 「てめえ! バット投げするとはどういうことだァ!?」 「手が滑っちまったんだ。ワザとじゃないんだ」  デーモン44号はヘラヘラと笑う。塁上のメンバーも同様だ。  それに対し僕達ナインは怒りを隠しきれない。  一触即発状態の中、デホが余計な一言を言った。 「おい! 汚いから片付けてけよ、そこのボロクズを!!」 「お、お前!!」  湊はデホの野次に反応したらしく怒りを爆発。  大人しい湊がらしくもなく向かって行こうとした。僕やドカは懸命になだめ押し留めた。 「湊、落ち着け!!」 「これは野球や! この借りは試合で返そう!」 「ダメだ! あいつは――」 ――パン!  頬を打つ音が響いた。 「ピッチャー交代」  西木さんだ。  ベンチからマウンドに降りて来ていて、湊の頬をピシャリと叩いたのだ。 「すまん」  西木さんは帽子を深く被り小さくそう言った。 「か、監督……」 「これ以上、点を取られては不味い」 「ぼ、僕はまだ――」 「球が浮ついて来ている。肉体、精神的な疲労度が大きい、それに何よりも冷静さが欠けている」  そして、西木さんは僕の眼をしっかりと見つめると想像もつかない一言を発した。 「碧、お前投げろ」

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