勇球必打!
ep91:魔王転生者の意地

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――シィィィィィィン……  ドーム内は静まっていた。 「ざまあ! 何がカオスボルグだよ! ボールから黒いの出てるから警戒したが、ただの真っスラじゃねーか!」 「バ、バカな……」  僕だけではなく、後続の元山にもヒットを打たれた。 「も、もう一球! もう一球投げてくれるゥ!!」 「えっ……まだ投げるんですか」 「うるさい! もうノーサインでいくぞォ!」 「ちょ、ちょっと……」 ――カオスボルグ! 「見える……見えるぞ。ボールの縫い目までよく見えやがる」 ――カツーン!  鐘刃はカオスボルグを連投するも鳥羽さんに痛打。  またもやヒットを打たれる。これでノーアウト満塁だ。 「ウオオオオオ!?」  異世界の力を持たない、この世界の人々までブラッドサンダーの餌食にしようとした。  だが、不思議なことに魔力が込められた球を彼らは弾き返すことが出来たのだ。 「な、何故だ……何故カオスボルグが打たれた!」  フフッ……。  自軍の三塁側ベンチから笑い声がした。  声の主は神保さんだ。手にはバットを持っている。 「世界樹のバットにすり替えておいたのさ」  せ、世界樹のバット!?  神保さんは手でメガホンのような形を作った。 「世界樹から作った特性のバットだ。どんな魔法であろうと弾き返すぞ!」 「神保さんが何故そんなことを知っているんだ。そういえば世界樹のバットをくれたのは……」  神保――神保――神! 「まさかオディリス!?」  僕の言葉に神保さんはニコニコと笑っているだけ。  聞きたいことは山ほどあるが後にしよう。  今は試合―― 「アウト!」 「えっ?」  僕が神保さんに気を取られているとアウトのコールが聞こえた。  コールしたのは二塁審判だ。  見るとゼルマが隠し球を使用。元山をタッチアウトにしたのだ。 「き、汚いぞ! 隠し球なんぞ!」 「フン……隙を見せるからだ」 「ち、ちっくしょう!」  元山は悔しそうにベンチへと戻る。  マウンドの鐘刃は邪悪な笑みをこぼしていた。 「決まった! これでワンアウトだ――そう私は転生魔王だ。ちょっと冷静さを失ったが……」  ニコッ。 「10度!」  ニコッ。 「20度!」  ニコッ。 「30度!」  ニコッ。 「セルフスマイルセラピーで心を――」 「リセットは出来へんで! 人生と一緒でな!!」 ――ズチャ!  打席で地面を強く踏み鳴らしたのドカ。  神保さんが用意した世界樹のバットを鐘刃に向けている。  そして、これまでのフォームと違っていた。グリップエンドが高い位置にして構えている。  まるで戦士が大剣を持っているかのような構えだ。 「そ、その構えはどこかで……」 「ワイの前世の記憶が言っとる! 悪いヤツを倒せってな!」  マウンドの鐘刃からは作り笑顔が消えていた。  顔がゴーレムのように硬直している。 「思い出したぞ……私に何度も大ダメージを与えた〝ブリザードソード〟を手にした時の構え……」  ゴクリ、そんな唾を飲み込むような音が鐘刃から聞こえた。 「ま、まさかお前は!」 「戦士ボンハッド! その男がワイに『バットを振ったらボールは飛ぶ!』と助言してくれとる!!」 「ええい! そんなことは当たり前だろ! カオスボルグをくらえ!!」 ――バヂヂヂッ! 「殺してでもアウトだ!!」 「それはバッドな選択肢や! これは野球の試合で殺生はご法度やで!」 ――ガツーン! 『イッツゴーンヌ! スリーランホームランだ!!』 『点差はますます開いたな』  目にも止まらぬフルスイング。  ドカはカオスボルグをホームランにした。これで6-1だ。 「わ、私のカオスボルグが……」  マウンドの鐘刃は放心状態。  打ったドカはダイアモンドを一周。ベンチで皆とハイタッチすると……。 「昇天ポーズ!」  高々と天に拳を突き上げた。  流れは完全にメガデインズだ。  ここから一気に点を積み重ねていきたいところだ。 ☆★☆ 「こうなったらパワーカーブだ!」 ――カツーン! 『伏兵森中のソロホームラン! これで6点のリードだ!!』  パワーカーブを投げたが森中さんにホームランを打たれた。  鐘刃はショックを受け膝をガックリと落としている。 「パ、パワーカーブまで……」 「燃えてンだよ! 俺だってパワフルな打撃が出来るんだぜ!」  森中さんは小柄な体を躍らせ、ダイアモンドを一周。  チームメイトからヘルメットをバシバシと叩かれ、手荒い祝福を受けていた。 「さ、山賊打線か! 品のない人間どもめ!」  鐘刃が三塁ベンチにいる僕達を憎々しく見ている。  エースの乱調、チームリーダーの取り乱すさま。  そんな鐘刃を見て、女房役の田中はマスクを脱いでマウンドへ向かっている。 「あんたも今は人間でしょうが」 「な、なんだ! この私にしょうもないツッコミをするな田中!」 「うるせえ!」  パチン!  叩いた音がこちらまで聞こえた。  なんと田中がキャッチャーミットで鐘刃の頭を小突いたのだ。  「た、田中! 私の頭をポカリしたな!?」 「アホには殴って教育だ」  突然の田中の行動。  僕達もBGBGsのメンバーは沈黙した。 ――スオオオォォォ!  小突いた田中から黒いオーラが出ている。  それはホブゴブリンのそれではない。  僕が戦った魔王イブリトスよりも強い殺気だ。  鐘刃は数歩後退、田中の威圧感に押されているのか? 「田中……お、お前は……」 「俺のリード通りに投げろ」  田中の突然の豹変。  それはドーム内にいる全てのものを困惑させている。  一部例外を除いては……。 「とうとう動くか」  神保さんだ。  恐ろしいくらい冷静に鐘刃と田中を見ている。 「神保さん?」 「ゲームはメガデインズの流れだ。もうすぐあいつが出るに違いない」  意味深なことを呟く神保さん。  やはりそうだ。神保さんの正体はオディリスに違いない。  僕は意を決して尋ねた。 「あなたはオディリスですか」  神保さんは僕の目を見つめると困ったような顔をした。 「オディリス? 私は神保だよ神保錬」 「誤魔化さないで下さい。世界樹のバットを用意したり色々と……」 「どうした。仲間割れしている場合じゃないぞ」  西木さんが入って来た。  僕と神保さんが揉めたと思ったのだろうか。  神保さんは西木さんの肩をパンパンと叩きながら言った。 「ナハハハ! あそこに見えるMegaGirlsの若葉色の髪した子がいるじゃないですか」 「あの観客席にいる元気な子か」 「そうです。彼女とアランが付き合っている噂は本当かな、と思って聞いてたんですよ」 「お前……そんなに軽いキャラだったか?」 「キャラ変ですよキャラ変!」  何だかはぐらかされたが試合は続く。 ――カツーン! 『クールビューティー! クールバッティング!』  ネノさんが痛烈な打球を放った。  ゼルマは飛び込むもボールを取れないでいた。 「ゼ、ゼルマ! 何故捕らんのだァ!!」 「も、申し訳ございません」  鐘刃は意地になっていた。  田中の出すサインに首を振り、カオスボルグをこれでもかという具合に連投していた。

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