勇球必打!
ep94:リクエスト

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

――オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! Let’s go 鐘刃様! (どういう超展開は理解出来かねぬが……) ――みなぎる闘志を奮い立て! (勇者アランが『二人現れた』からどうというのだ!) ――鐘刃様が打たなきゃ誰が打つ! (魔物で言うと『アランA』『アランB』みたいなものであろう!) ――今勝利を掴め! オイ! オイ!鐘刃様! (この鐘刃――魔王転生者! このムラマサバットで……) ――バシィ! 「ストライク!」 「ツ、ツーストライクだとォ!?」  4番の鐘刃だが追い込んだ。  カウントはツーストライク、ワンボール。  鐘刃は〝瘴気の構え〟を取りながら息を乱していた。 (それにしてもおかしい。バットを振るごとに私に倦怠感が襲ってくる……このムラマサバットは神より与えられた極上の一品のハズだ……)  ヤツの体からはドス黒いオーラを放っている。  次の一打に全てを賭けているようだ―― (ええーい倦怠感がなんだ! これは心地よい疲れ! 手負いのボスキャラこそが危険! 手負いこそが最強!) ――グングン! 『おおっと! 鐘刃コミッショナーが忙しなくバットを動かし始めた!』 『オグ〇ビーみたいな打ち方だぜ!』  鐘刃は小刻みにバットを前後に揺らし始めている。  急に癖のあるフォームに変わった。 「我がリストを利かせることで! 暗黒闘気をバットに注入!」 ――スオオオォォォ……  それに合わせ打席で放つオーラがドンドン大きくなっているようだ。  何だか嫌な予感がしつつも僕はボールを投じる。  打ち取れるか……三振を取れるか……そんな不安を抱えつつも変化球を投げた。 ――フッ! (大僧正アークビショップのように、実はこの鐘刃もスキル【分析】の使用は可能だ。貴様が投げる次の一投が手に取るようにわかる……小賢しい決め球を投げときのクセが出ているぞ……) ――ククッ…… 「やはりクサナギシュート! 貴様がそれを投げる際、僅かながらグラブの位置が上がっているのだ! 来る球が分かれば怖くはない! 我が暗黒の必殺打法で息絶えるがよい!!」 ――ブラッディ・プルート・ハーデス打法!  ムラマサバットが黒く輝いている!  当たれば全てを闇に呑み込まんばかりの殺意を感じる! 「全てを終わらせる!」  主人公らしい台詞を言いながらヤツはトップを作り―― 「全員私を出迎える用意をしろ! ホームランを打つことをお約束しよう!」  しっかりと踏み込むと―― 「ちゃんとベースを踏んでいるかの確認も頼むぞ!」  暗黒のフルスイングを敢行した! ――ブウ"ウ"ウ"ゥ"ゥ"ゥ"ン"! 「アウト!」 「ぐふッ!?」  僕はクサナギシュートを投げると見せかけてカーブを投げた。  投げる際に握りを変える高等技術。 「やったなアラン」 「ネノさんのお陰です」 「今は河合だよ」  自軍のベンチに戻る際、僕はネノさんとグラブでタッチをする。  この技を身につけれたのも、ネノさんとの最終試練での訓練の賜物だ。  結果的に変化量が乏しいカーブだが、鐘刃を見事三振に仕留めることができた。 『最悪! 鐘刃コミッショナー最悪!』 ――BOOOOOOOO!  絶好のチャンスを逃したBGBGs。  とうとう鐘刃はドーム内に招かれている魔物達からもブーイングを受ける羽目になった。 「……」  打席の鐘刃は暫く放心状態。  その瞬間だけでもまるでしかばねのようであった。 ☆★☆  5回の表、メガデインズからの攻撃だ。  2番の国定さんからの攻撃だが―― 「アウト!」 「フム……アウトか。いい角度で上がったんだが」  スライダーを打ったがライトフライに倒れた。  だが、スライダーのキレが無くなってるようだ。  その証拠に打球が上がり始めている。 (な、何故だ。私のボールのキレが落ち始めている)  そして、次は3番の湊。  スペンシーさんの代わりにクリーンナップを務める。  聖者のマントを羽織る姿は変わらず。  打席では癖のないバットを寝かせた構えだ。 「間違ってもヘンな球を投げるなよ」 「ああ……」 「頼むぞ!」  投球に入る前、田中が再びマウンドに行き鐘刃に声をかけた。  どうも警戒しているようだ。 『バッターはセンターの湊! 強打者スペンシーの代役は務まるか!?』 「必ずボールをしとめます!」 ――聖闘気セイクリッドドライヴ発動!  打席の湊は鐘刃を見据え、聖闘気セイクリッドドライヴ発動させていた。  その姿を見て鐘刃はロジンバッグを大量につけていた。 (この小僧、スペンシーディードよりも強い聖闘気セイクリッドドライヴ……やはりコイツは私と戦った時のアランに間違いない) ――サッサッ……  田中のサインを見た鐘刃。  ベンチからヤツを見ているが、どうも出たサインが気に入らないようだ。 (またスライダーのサイン! こういう時こそカオスボルグで滅殺すべきだ!) (間違ってもカオスボルグを投げるなよ!)  一方のマリアム達の声が、少ないビジター側の応援なのでよく聞こえて来る。 「湊! 界〇拳10倍みたいなオーラ出とるで!」 「このまま追加点よ!」 「ゴーゴー!」 「ホームラン打って下さいですゥ」  打席の湊は恐ろしいくらい集中している。 (彼女から送られる見えない応援……僕はその想いに応えるためにも必ず打つ!)  湊の顔が一瞬であるがライトスタンドを向いたような?  ライトスタンドはBGBGsの応援団がいるのだが……。 「白いマントとかカッコつけとんのかい!」 「坊やが打てるほど異世界野球は甘くないわい!」 「打てば三振守ればエラー走る姿はボケの花、アホ・アホ・アホの湊」  魔物達の野次が外野から飛んでくる。  集中力が乱されたのだろうか。 「なァーにが聖闘気セイクリッドドライヴじゃ! 波〇のパクリたい! ノア、おいと一緒に野次を飛ばすばい!」 「え、ええ……そうですね。ヨハネおじさん」 「パウロの仇の人間は一人も許せんと! 全員滅殺じゃ!!」 ――キレイな女性が殺せなんて言ったらダメですよ。 (人間とはいえ初めて『キレイ』なんて言われた……そんなストレートで情熱的な言葉を言われちゃったら……) ――惚・れ・て・ま・う・で・し・ょ♡ (打て湊! ホームランよ!!) 「ノア……お前何か様子がおかしか。ずっとあの人間を見てる気がするとね」 「えっ?」 「そういえば、姿を暫く見なかったがどこへ行ってたんと」 「れ、練習です! ソロで応援の練習をしていました!」 「ほうか……」  外野が野次の嵐で盛り上がる中、鐘刃が投球フォームに入った。 (私のスライダーは本物の変化球だが――それは常識の範疇でのもの! この天才の鐘刃『常識を疑え』で考え抜いた末に編み出した新魔球がある!!) ――その名も『アルマゲボール』! (それは魔力MP全てを解放する究極破壊呪文『アルマゲドル』を応用した魔球!) ――フッ! (この鐘刃周の切り札! 最強のボール! 勝てばよかろう精神の具現化!) ――フワァ…… (余りにも破壊力で瞑瞑ドームを消滅させかねんが構わん!) ――ノーゲームになれば試合に勝者も敗者もなし!  鐘刃が投じたボールは山なりのボールだ。  まるでハエでも止まりそうなスローボールだった。 「これならば!」  湊はしめたと思いボールに手を出した。 ――ブン! 「バカめ! バットがボールに触れた瞬間に全てが終わりだ!!」 「か、鐘刃! て、てめえ! サインを無視して何を投げた!?」 「黙れホブゴブリン! 貴様もここにいる全員も消えろオオオォォォ!!」 「な、ななっ!? まさかアルストファーが言っていた……」 「そう『アルマゲボール』だァ――!」 「や、やめろ!」 「もう遅い!」 ――カツーン! 「はうわっ!?」  スローボールは湊にプルヒッティングされレフト線のポール際に飛んでいった。  ライン、ポールのギリギリだがどうだろうか。 「ホームラン!」  三塁塁審が右手を3度回している。  どうやらホームランのようだ。 「バ、バカな……私の『アルマゲボール』が……」  膝から崩れ落ちる鐘刃。  湊がベースを駆け抜け本塁へと向かおうとした時だった。  鐘刃は立ち上がると鬼の表情を浮かべながら叫んだ。 「リクエストだ!」

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません