――オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! Let’s go 鐘刃様! (どういう超展開は理解出来かねぬが……) ――みなぎる闘志を奮い立て! (勇者アランが『二人現れた』からどうというのだ!) ――鐘刃様が打たなきゃ誰が打つ! (魔物で言うと『アランA』『アランB』みたいなものであろう!) ――今勝利を掴め! オイ! オイ!鐘刃様! (この鐘刃――魔王転生者! このムラマサバットで……) ――バシィ! 「ストライク!」 「ツ、ツーストライクだとォ!?」 4番の鐘刃だが追い込んだ。 カウントはツーストライク、ワンボール。 鐘刃は〝瘴気の構え〟を取りながら息を乱していた。 (それにしてもおかしい。バットを振るごとに私に倦怠感が襲ってくる……このムラマサバットは神より与えられた極上の一品のハズだ……) ヤツの体からはドス黒いオーラを放っている。 次の一打に全てを賭けているようだ―― (ええーい倦怠感がなんだ! これは心地よい疲れ! 手負いのボスキャラこそが危険! 手負いこそが最強!) ――グングン! 『おおっと! 鐘刃コミッショナーが忙しなくバットを動かし始めた!』 『オグ〇ビーみたいな打ち方だぜ!』 鐘刃は小刻みにバットを前後に揺らし始めている。 急に癖のあるフォームに変わった。 「我がリストを利かせることで! 暗黒闘気をバットに注入!」 ――スオオオォォォ…… それに合わせ打席で放つオーラがドンドン大きくなっているようだ。 何だか嫌な予感がしつつも僕はボールを投じる。 打ち取れるか……三振を取れるか……そんな不安を抱えつつも変化球を投げた。 ――フッ! (大僧正のように、実はこの鐘刃もスキル【分析】の使用は可能だ。貴様が投げる次の一投が手に取るようにわかる……小賢しい決め球を投げときのクセが出ているぞ……) ――ククッ…… 「やはりクサナギシュート! 貴様がそれを投げる際、僅かながらグラブの位置が上がっているのだ! 来る球が分かれば怖くはない! 我が暗黒の必殺打法で息絶えるがよい!!」 ――ブラッディ・プルート・ハーデス打法! ムラマサバットが黒く輝いている! 当たれば全てを闇に呑み込まんばかりの殺意を感じる! 「全てを終わらせる!」 主人公らしい台詞を言いながらヤツはトップを作り―― 「全員私を出迎える用意をしろ! ホームランを打つことをお約束しよう!」 しっかりと踏み込むと―― 「ちゃんとベースを踏んでいるかの確認も頼むぞ!」 暗黒のフルスイングを敢行した! ――ブウ"ウ"ウ"ゥ"ゥ"ゥ"ン"! 「アウト!」 「ぐふッ!?」 僕はクサナギシュートを投げると見せかけてカーブを投げた。 投げる際に握りを変える高等技術。 「やったなアラン」 「ネノさんのお陰です」 「今は河合だよ」 自軍のベンチに戻る際、僕はネノさんとグラブでタッチをする。 この技を身につけれたのも、ネノさんとの最終試練での訓練の賜物だ。 結果的に変化量が乏しいカーブだが、鐘刃を見事三振に仕留めることができた。 『最悪! 鐘刃コミッショナー最悪!』 ――BOOOOOOOO! 絶好のチャンスを逃したBGBGs。 とうとう鐘刃はドーム内に招かれている魔物達からもブーイングを受ける羽目になった。 「……」 打席の鐘刃は暫く放心状態。 その瞬間だけでもまるで屍のようであった。 ☆★☆ 5回の表、メガデインズからの攻撃だ。 2番の国定さんからの攻撃だが―― 「アウト!」 「フム……アウトか。いい角度で上がったんだが」 スライダーを打ったがライトフライに倒れた。 だが、スライダーのキレが無くなってるようだ。 その証拠に打球が上がり始めている。 (な、何故だ。私のボールのキレが落ち始めている) そして、次は3番の湊。 スペンシーさんの代わりにクリーンナップを務める。 聖者のマントを羽織る姿は変わらず。 打席では癖のないバットを寝かせた構えだ。 「間違ってもヘンな球を投げるなよ」 「ああ……」 「頼むぞ!」 投球に入る前、田中が再びマウンドに行き鐘刃に声をかけた。 どうも警戒しているようだ。 『バッターはセンターの湊! 強打者スペンシーの代役は務まるか!?』 「必ずボールをしとめます!」 ――聖闘気発動! 打席の湊は鐘刃を見据え、聖闘気発動させていた。 その姿を見て鐘刃はロジンバッグを大量につけていた。 (この小僧、スペンシーよりも強い聖闘気……やはりコイツは私と戦った時のアランに間違いない) ――サッサッ…… 田中のサインを見た鐘刃。 ベンチからヤツを見ているが、どうも出たサインが気に入らないようだ。 (またスライダーのサイン! こういう時こそカオスボルグで滅殺すべきだ!) (間違ってもカオスボルグを投げるなよ!) 一方のマリアム達の声が、少ないビジター側の応援なのでよく聞こえて来る。 「湊! 界〇拳10倍みたいなオーラ出とるで!」 「このまま追加点よ!」 「ゴーゴー!」 「ホームラン打って下さいですゥ」 打席の湊は恐ろしいくらい集中している。 (彼女から送られる見えない応援……僕はその想いに応えるためにも必ず打つ!) 湊の顔が一瞬であるがライトスタンドを向いたような? ライトスタンドはBGBGsの応援団がいるのだが……。 「白いマントとかカッコつけとんのかい!」 「坊やが打てるほど異世界野球は甘くないわい!」 「打てば三振守ればエラー走る姿はボケの花、アホ・アホ・アホの湊」 魔物達の野次が外野から飛んでくる。 集中力が乱されたのだろうか。 「なァーにが聖闘気じゃ! 波〇のパクリたい! ノア、おいと一緒に野次を飛ばすばい!」 「え、ええ……そうですね。ヨハネおじさん」 「パウロの仇の人間は一人も許せんと! 全員滅殺じゃ!!」 ――キレイな女性が殺せなんて言ったらダメですよ。 (人間とはいえ初めて『キレイ』なんて言われた……そんなストレートで情熱的な言葉を言われちゃったら……) ――惚・れ・て・ま・う・で・し・ょ♡ (打て湊! ホームランよ!!) 「ノア……お前何か様子がおかしか。ずっとあの人間を見てる気がするとね」 「えっ?」 「そういえば、姿を暫く見なかったがどこへ行ってたんと」 「れ、練習です! ソロで応援の練習をしていました!」 「ほうか……」 外野が野次の嵐で盛り上がる中、鐘刃が投球フォームに入った。 (私のスライダーは本物の変化球だが――それは常識の範疇でのもの! この天才の鐘刃『常識を疑え』で考え抜いた末に編み出した新魔球がある!!) ――その名も『アルマゲボール』! (それは魔力全てを解放する究極破壊呪文『アルマゲドル』を応用した魔球!) ――フッ! (この鐘刃周の切り札! 最強のボール! 勝てばよかろう精神の具現化!) ――フワァ…… (余りにも破壊力で瞑瞑ドームを消滅させかねんが構わん!) ――ノーゲームになれば試合に勝者も敗者もなし! 鐘刃が投じたボールは山なりのボールだ。 まるでハエでも止まりそうなスローボールだった。 「これならば!」 湊はしめたと思いボールに手を出した。 ――ブン! 「バカめ! バットがボールに触れた瞬間に全てが終わりだ!!」 「か、鐘刃! て、てめえ! サインを無視して何を投げた!?」 「黙れホブゴブリン! 貴様もここにいる全員も消えろオオオォォォ!!」 「な、ななっ!? まさかアルストファーが言っていた……」 「そう『アルマゲボール』だァ――!」 「や、やめろ!」 「もう遅い!」 ――カツーン! 「はうわっ!?」 スローボールは湊にプルヒッティングされレフト線のポール際に飛んでいった。 ライン、ポールのギリギリだがどうだろうか。 「ホームラン!」 三塁塁審が右手を3度回している。 どうやらホームランのようだ。 「バ、バカな……私の『アルマゲボール』が……」 膝から崩れ落ちる鐘刃。 湊がベースを駆け抜け本塁へと向かおうとした時だった。 鐘刃は立ち上がると鬼の表情を浮かべながら叫んだ。 「リクエストだ!」
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