勇球必打!
ep80:荒ぶる武闘家

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 アラン達が鐘刃率いるBGBGsとの死闘が始まる中、瞑瞑ドーム前に3人のプロ野球選手がいた。  それは小倉、判官、弁天の3人。『小倉と愉快な仲間達(仮)』の野球パーティである。  瞑瞑ドーム前にやってきたが、ここまで到達出来たのはこの3人だけである。  先にドーム内へと突入したアラン達を見届けた恋川が寂しそうに言った。 「ここまで来られたのは小倉さん達だけですか。他の方々は?」  その理由を小倉が答えた。 「デーモン66号……ではなかった伴達は試合終了後に突然倒れてな」 「倒れた!?」 「己の力を限界以上に使ったからだろう」  小倉の言葉通りである。  試合終了後、他のメンバーは精魂尽き果てて倒れてしまったのだ。  おそらくは強敵を倒したことによる影響――肉体の限界ギリギリまで追い込んだからだろう。  従って小倉達のみ来たというわけである。 「他のチームはまだ来ぬでおじゃるか?」  判官は傍にいる弁天に尋ねた。  他のチームが来ないかと待っているが――  ライン♪  弁天の所持するスマホから可愛い声の音声が流れた。  ダウンロードしている無料通話アプリからメッセージが届いたようである。 「うむ……皇選手から動けぬとの連絡が入った」 「Mr.プロ野球も動けぬか。他のチームはどうでおじゃるか?」 「同じだ。不思議な事に試合が終わって暫くすると、精魂尽き果てて動けなくなったとのことだ」 「負ければ即ゲームオーバーで責任重大――肉体と精神をかなり削ったのでおじゃろう」  小倉は青バットを抜くと言った。 「お喋りはここまでに致そう。某達も突入するぞ!」 「委細承知ッ!」 「ノホッ! オニキア様――いやアラン達、メガデインズをサポートするために!」  勇んでドーム内へ突入しようした彼らだが……。 「お待ちなさい」  声が聞こえた。  そこには青いベースボールジャケットを着た男がいた。  恋川が男を指差した。 「あ、あなた様は!?」  驚く恋川に小倉達は言った。 「こやつが何故ここに……」 「あの試合で逃げ出したかと思ったでおじゃるが?」 「まさか敵として操られておらぬだろうな!」  男は笑って答えた。 「ヤだな。そんな、よくある展開があるわけがないじゃないか」 「信用ならぬ」  小倉がバットを構えた時だ。恋川が必死で制止する。 「皆様、落ち着いて下され! そのお方は『鐘刃討伐作戦』を立案され、プロアマ問わず各選手を招集しチーム編成を行った総指揮官ですぞ!」  恋川の言葉に3人は驚きの顔を隠せない。 「ま、まさか!?」 「この男が何故そのような力を――」 「にわかには信じられぬ」  男は爽やかな笑みを浮かべる。 「さて……王道の4人パーティで瞑瞑ドームラストダンジョンへと突入しようか」 ☆★☆ 『どうした! 何があった!? アラン選手が先程から立っているだけだッ!!』 『マンダム――プロ野球選手とあろうものが震えているぜ』 『な、なんと! それは本当ですかブロンディさん!』 『そうだ……ありゃまるでオバケを怖がっている子供のようだぜ』 『あっーと!? ほ、本当だ! 震えております! 顔が強張っております!』 『鐘刃コミッショナーが火の玉を飛ばしたところからだ……』 『今更ながら異世界野球の超展開には驚きませんが、これはプロ野球界の未来がかかっている大事な一戦だ! 動いてくれ! 投げてくれ! 僕達はエースである君だけが頼りだァッ!!』  ドーム内がざわつく、魔物達の困惑と野次が包み込む。 「人間の勇者様が無様にも震えているぞ」 「鐘刃様の威圧感にビビってんじゃね?」 「オラオラ! さっさと投げろよ勇者様よォ!」 「さっさと投げんかい! ボケェ――!!」 ――チャラララ♪ チャラララ♪ ――はよやれ! はよやれ! ――チャラララ♪ チャラララ♪ ――はよやれ! はよやれ!  煽るようなトランペット音や声が響く。  それでもなお僕は動けないでいた。 「アラン――お前一体どうしたんだ」  西木さんは困惑している……。  気合を入れた声を出し呼びかけても動けず、体が震えているからだろう。  バッテリーを組むドカ、セカンドのスペンシーさんを初めとした内野陣も集まる。 「ど、どないしたんや」 「ボーイ……まさか……」 ――カタカタ……  まだ体が震えている。  それを見かねたのか、森中さんが耳元で大きな声を出した。 「どうしちまったんだよ! 体がブルってるぞ!!」  安孫子さんと鳥羽さんは二人で何やら会話している。 「何がどうなってんだ?」 「わからん。ただ鐘刃が観客席に火の玉をブチ込んだときから、おかしくなっているような……」  見かねたのか。審判の万字さんが心配した顔で近付いて来た。 「ど、どうかしたのか」 「いえ……ちょっと……」  西木さんが少し俯く。  かなりマズい状態だ――わかっているわかってはいるが……。 「アラン! どうしたんや!! あんたは勇者やろ!?」  マリアムの大きな声が聞こえる……。  クソ……こんなところで恐怖心が出てくるなんて……。  僕はあの時の恐怖を――絶望感を乗り越えてなかったというのか! 「フフッ……何があったかわからんが、選手を交代させた方がいいんじゃないのか」  並行世界のイブリトスだった鐘刃は、当然のことながら僕の恐怖心の理由は分からないでいる。  まさかイフリガというありふれた攻撃呪文で、勇者が恐怖心を出していることなんて気づかないでいるだろう。 ――カタカタ……  僕はまだ震えている。  打席の鐘刃は呆れ果てたような顔と声を出した。 「勇者が震えるなどと――どうや私の威圧感に恐怖しているようだな。審判よこんな状況では試合にならん、さっさと強制退場させろ」 「し、しかし……」 「円滑な試合運営が審判の仕事であろう! 試合を遅延させるつもりか!!」 「は、はい。でも少し時間を下さいますか」 「何故だ?」 「私は主審ですが、公平な判定を下すために合議の時間を……」 「面倒なものだな……許可しよう。これはルールある試合だからな」  万字さんはそう返事をすると審判を集めた。  どうやら合議をしているようだ。 「どうします?」 「確かにコミッショナーの言うことも一理ある」 「しかし、それでは審判の威厳が」 「こんなバケモノに囲まれた空間で、今更審判の威厳も何もないでしょう」 「変な判定をしたら殺されるかもしれませんからな……」 「何で我々がこんな目に……」 「嘆いても仕方がない。とりあえず、アラン選手が動けないようであれば……」 ――チャラララ♪ チャラララ♪ ――はよやれ! はよやれ! ――チャラララ♪ チャラララ♪ ――はよやれ! はよやれ!  魔物達の煽り音と声がまだ響いている。  ダメだ。僕はもう……そんな弱気な気持ちが出たときだ。 「アランてめェ!」  敵チームにいるデホだ。ベンチから飛び出すと怒った表情で僕に近付いて来る。 「デホ!」 「何を勝手に」  突然の行動に鐘刃やゼルマをはじめとして驚いた顔だ。 「な、何だお前は!」 「どけっ!」  制止しようとした西木さんを押しのけると、 「イフリガでビビってんじゃねェ!」  僕の頬をパシリと平手打ちをした。  思いがけないデホの行動にドーム内は静まった。

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