僕達は圧倒的な野球力で、鐘刃四天王の『白虎』『青龍』を撃破。 次に現れる敵は……魔法陣に入った僕達は静かな雰囲気の場所に召喚された。 木々で覆われた球場、何だか心が安らぐような気がしてくる。 森中さんが球場を見渡しながら何故か嬉しそうにしている。 「球場だがここは森だぜ! このパターンはエルフちゃんが出てくるに違いねェ!!」 森中さんは異世界でエルフに会ったのか……。 ダークエルフのエルパソに出会ってから、何だかエルフにやたらと拘っているような気がする。 「それにしても静かだな」 安孫子さんが数歩歩むとネノさんが叫んだ。 「ジョーさん!」 ――ズッ! 地面から人が這い出て来たのだ。 「こ、こいつはアンモナイツのフローレス!?」 「違う! それは泥人形だぜ!!」 「ゴ、ゴーレムだァ!?」 安孫子さんの目の前に現れたのは、青いストライプのユニフォームを着た外国人選手だ。 「誰ですか?」 僕の問いに西木さんが答えた。 「神奈川アンモナイツの最強助っ人だ」 エ・リーグに所属する神奈川アンモナイツの助っ人外国人のようだ。 だが目に生気はなく、呼吸音もない。 これは泥人形――魔法生物だ。 ここまで精巧に作り上げられている泥人形は初めてだ。 術者のレベルが相当に高いものと推測できる。 ――ズッズズッ! 「あ、あれはライガースの『守備職人』鳥飼! それにエリクトの『ID野球の申し子』古谷もいるぞォ!?」 「エを代表する選手ばかりだぜ」 実況と解説の言葉から察するに、エリーグの選手を模した泥人形が現れたようだ。 ――ズッズズッ! 次々と精巧な泥人形が現れる。 中には見たこともないユニフォームを着用している泥人形の姿も見える。 「あいつは炎原!」 その中に、北海道カムイの炎原に似た泥人形がいた。 炎原と因縁がある元山、バットを振り上げ攻撃しようとしたがオニキアが止めた。 「あれは泥人形よ」 「なっ……そういえばメジャー時代のユニを着ている」 西木さんや赤田さんは他の泥人形を見て驚いている様子だ。 「に、西木さん!」 「間違いない……東京サイクロプスの伝説右腕『村雨球史』だ」 どうやら、伝説級の選手まで混ざっているようだ。 これは一体どういうことだろうか……。 「ボクの人形劇はどうだい?」 球場に一際大きな木から声が聞こえた。 声から察するに女性の声だ。 「鐘刃四天王『玄武』の総監督、ハーフエルフのクリーム」 木から飛び降りフワリと着地したのは耳の先端が尖ったハーフエルフ。 人間とエルフの混血種である。黒いローブに身を包んでおり、緑青の髪を覗かせていた。 見た目は美しいが、その表情はオーガのように険しい。 「ボクっ子のハーフエルフですと!?」 森中さんが興奮した様子でしゃべり始めた。 「頼むから、次のステージへ行かせてくれ!! ハーフエルフちゃんは倒したくねェ!!」 「何だお前……ドワーフかホビットか?」 森中さんは身長が低く、がっしりとした体型。 クリームと名乗るハーフエルフは、森中さんを見て異種族に見えたようだ。 「俺は人間だぜ!」 「人間か……」 ドヤ顔で人間宣言する森中さんを見てクリームは叫んだ。 「ボクが認める人間は鐘刃様のみ! それ以外の人間は木の養分にしてやる!!」 ――ガシャシャ!! クリームが指先を動かすと、泥人形達は一斉にバットやグラブを構えた。 わかったぞ、こいつはレア職業『人形師』。 これだけの精巧な泥人形作り出し、操る能力者は中々いない。 「ゲェー!? このハーフエルフちゃん、めちゃんこ凶暴だぞ!!」 「バカだね。ここで出会うのは敵ってことだよ」 森中さんを見るネノさんの目は冷たい。 ファンタジー世界に夢を持つ森中さんが残念だったのだろう。 ――ガシャン…… 村雨球史の泥人形を操るクリーム。 不敵な笑みを浮かべながら言った。 「鐘刃様に頂いたデータに基づいて作った野球泥人形だ。特にボクの最高傑作ともいえる、この『村雨球史』の野球泥人形で完封勝利してやる」 ☆★☆ ――浪速メガデインズVS鐘刃四天王『玄武』 多少手こずったものの、7回裏『12-2』でメガデインズのコールド勝ちとなった。 試合終了と同時にクリームの作り出した泥人形は崩れ去っていった。 「そ、そんな……ボクの野球泥人形達が」 試合に負け項垂れるクリーム、そんな彼女に向かってスペンシーさんが言った。 「Mr.ムラサメの名前はアメリカでも伝説として聞いたことがある。そのデータとやらを忠実に再現したようだが……既にその技術は過去の遺物と化している」 スペンシーさんは村雨を模した泥人形の破片を拾い上げて言った。 「今尚進化を続ける現代野球の前では伝説も……」 寂しそうな顔を浮かべるスペンシーさん。 この村雨が投げる伸びのある速球やドロップには苦戦したが、慣れればどうということはなかった。 それにクイックモーションもなく盗塁もしやすかった。 クリームの敗因は投手に村雨という過去の英雄を過信したこと。 如何に英雄と言えど、その野球技術は――そう哀しく思った時だ。 「敗因はそこではありません」 「せや、そこやない」 湊とドカが静かに言った。 なるほど……彼らが言いたいことが分かった。 敗因を投手のせいだけではない。 現代の選手のデータを取り入れた選手も、野球泥人形としてチームに入れていたのだ。 「泥人形に野球魂がなかったということか」 コクリと頷く二人、それを見たクリームは一人笑い始めた。 「ふふふ……ボクは人形師としてまだ未熟だな」 「クリームちゃん……」 公正な野球勝負とはいえ、敗れ去ったクリームを見た森中さん。 目線を合わせ優しく語りかけた。 「ナイス采配だった。次は魂込めた野球泥人形で試合をしようや」 その言葉を聞いたクリーム、何やら驚いたような顔をしている。 「優しいね……こんな人間もまだいたんだ……」 クリームは涙ぐんでいた。 ハーフエルフは人間とエルフの混血種、きっと口では言えないような迫害を受けて来ただろう。 これは推測だが、そんな彼女を鐘刃は心の隙間に入り込み上手く操っている。 それは彼女だけではない、これまでの野球での闘いから鐘刃の部下に共通するのは『寂しさ』だ。 判官や弁天、鐘刃サタンスカルズのメンバーもそうだった。 鐘刃はぽっかりと空いた心のパズルを埋めるが、それは善ではなく邪なピースで補う。 ある者は力を、ある者は人を、またある者は金であろう。 だが、それは彼ら彼女達のための慈善活動ではない。 己の野心や欲望を満たすために利用する道具として使うための行為だ。 その満たされないパズルは誰しもが持ってしまう心の隙だ。 僕も例外なくそうだった。 勇者としての力や賞賛に溺れ、どこか仲間を道具として見ていた。 原因は僕自身、何か満たされないものがあったのだろう。 人々は勇者ともてはやすが僕は不満だった。 何故、勇者だけ戦わなくちゃならないのか。 何故、人々は共に戦ってくれないのか。 そういった不満が少しづつたまり、いつしか僕は利己的になっていたと思う。 『勇者さえ活躍すればいい』そういった驕りという埋まらないパズルが完成したのだ。 「碧、ボケっとしとらんで行くぞ」 「は、はい!」 西木さんに呼びかけれた。目の前には魔法陣が出現している。 今は感傷に浸っているヒマはない、次のステージへと行かなけばならないのだ。
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