勇球必打!
ep38:野球テロリズム

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「デ、デホ……何で君が」 「復活したんだよ、鐘刃様のお力でな」 「そんな彼はただの人間ではないのか」 「それはだな――」 ――特技【超激震グランドスラム】!  デホが答えようとした時、球場が揺れた。 「キャー!!」 「わ、わわっ! なんや!?」 「じ、地震か!?」  球場は混乱から大混乱へと陥った。観客達は我先にと逃げ出していく。 『じ、地震が発生しております! 震源地はここ浪速ブレイブスタジアムか!?』 「に、逃げろ!」 「どけッ!俺が先だ!!」 「何言ってまんねん! 順番を守らんかいな!!」 「あたい、まだ死にたくないよ!」  球場に響くのはもう人々の歓声ではない。  悲鳴と怒声、僕が魔送球が当たったときよりも強い生の感情だ。 ――野球地獄。  オニキアが僕にそう言ったが、これが本当の地獄だろう。  球場の壁にはヒビが入り、土が盛り上がり荒れ果てる。  まるで魔物が襲って来たかのような空気に包まれている。 「デホ、いい加減にしておけ」 「おっと……口が軽かったかな。スマンなブルクレス」  ブルクレス!?  デホに呼ばれたのは、一塁側ベンチに座っていたギルノルドだ。  見るとバットを地面に突き刺していた。  まさか先程の地震は、戦士が使う特技【超激震グランドスラム】では……!? 「久しぶりだな、アラン」 「ブ、ブルクレス……」  フェイスガード付きのヘルメットを脱ぐとそこには見覚えのある顔があった。  彼もデホ同様にイブリトスに殺された戦士ブルクレスだ。 「二人とも確かに――」  デホは軽い準備運動をしながら答えた。 「ああ、死んだ。俺達は老いぼれ魔王に敗れてな」  ブルクレスはオニキアを見ながら述べた。 「詳しいことは、そこのオニキアに聞いたら分かるんじゃないか」 「くっ……!」  オニキアは歯軋りして二人を見ている。  この事態を招いた黒幕のことを知っているのはオニキアも同じだ。 「あんた達が同じチームにいるなんて聞いてなかったわよ」  デホとブルクレスは腕を組んで、醜悪な笑みを浮かべて聞いている。  そこには、かつてのパーティメンバーだった彼らはいない。  オニキアと同じように悪魔的な何かと契約をしたのか? 「我らは監視役だ」 「アランをブッ殺せるかどうかキチンと見るためのな」  二人が金剛とギルノルドという偽名で、チームに参加していたのは監視役としてか。  それはオニキアを信用していなかった証でもある。  それにしても何故そこまで……。 「お前、アランのことが実は好きなんだろ?」  突然のデホの言葉、僕もオニキアも動揺する。二人はそんなことを意識したことは一度もない。  少なくとも僕はそう思っている。 「えっ……」 「デホ、あんた急に何を――」 「顔もいいし、勇者というステータスは最高だよなァ!!」 ――ドン! 「勇者はいつも、どこに行ってもチヤホヤされやがってよォッ!!」  デホは特技【震脚】を繰り出した。  ブルクレスの特技【超激震グランドスラム】よりも揺れは少ないが、少なくとも弁天の特技【震脚】以上の揺れが球場を襲った。  僕を始めとするメガデインズの仲間達は揺れに耐えるしかない。 「興奮しすぎだぞ、デホ」 「す、すまねェ……」  荒ぶるデホをブルクレスがなだめた。  しかし、驚いた……僕はちっともデホの気持ちなんて知らなかった。  彼は僕に嫉妬していたのか、そんなこと微塵も思わなかった。 ――ツカツカ……  混沌とする球場。  僕達は急展開に驚き戸惑うなか、思わぬ人物が間に入ってきた。 ――キュキュッ……  マスコットのホッグスくんだ。 『いい加減に野球しね?』 「けっ……言われなくても分かってるぜ。お前らに本当の野球地獄を見せてやる」  デホは汗を拭いながら答える。  そう、これから死闘が始まろうとしていた。 「か、監督、一体全体どうなっとるんですか?」 「赤田さん、俺に聞かないでくれ、長い野球人生で初めての事ばかりで頭が痛い」 ☆★☆  その頃、各球場でも混沌カオスが巻き起こっていた。  試合中、オーロラビジョンに鐘刃コミッショナーが登場。  11球団のオーナーと共に、1リーグ制への意向やルール改正を一方的に宣言。  更には『鐘刃サタンスカルズ』という私設チームが乱入し野球勝負を仕掛けていた。 〝埼玉県・ペルーナドーム 大宮レオンズVS房総ぼうそうブッフオライオンズ〟 『こちらペルーナドーム! 因縁の埼玉VS千葉のライバルシリーズが始まったばかりなのですが……』 ――カツーン! 「オ、オレの高速スライダーが……」 「米沢忠輔! 甲子園優勝投手もこの程度か!」 ――ブン! 「ブッフの熱い応援を受けてるのに……」 「ツーシーム打ちの名人と呼ばれた海老原も大したことないわね」 『突然現れた鐘刃サタンスカルズに投球、打撃、守備、走塁あらゆる野球勝負で敗北致しました!!』 〝北海道・網走ドーム 北海道カムイVS長崎ファルコンズ〟 『網走ドームから中継でないか~い! ビッグアニキと佐世保監督はなまら意気消沈!!』 ――カツーン! ――ブン! 「タイトルホルダーの投手陣、野手陣が全滅だと!? ものの3分も経たずに……? バ、バケモノか……!?」 ――カツーン! ――ブン! 「さわやかガッツなスター達が三振したり、炎上してる……あははは……打たれたホームランも大きい! 彗星かな? いや違う、違うな。彗星はもっと、バァーって動くもんな!」  緊急事態の発生、それはワ・リーグだけではない、エ・リーグも同様のことが起こっていた。 〝愛知県・シャチホコドーム 名古屋ドラグナーズVS神奈川アンモナイツ戦〟 『名古屋でどえりゃーことが起きとるがね! 期待のルーキー牛丸君も、神奈川のカミソリカッター穐山も滅多打ち! 打線も両チーム共に三振の山! 遠投も走塁も大人と子供の差を見せつけられとるでよ!!』 〝山口県・下関舟島スタジアム 陰陽ガンリュウVS大江戸エリクトマンドラゴラ戦〟 『大変なことが起きとるけん! 陰陽のエースであるキタケンが、鐘刃の選手に死体蹴りかの如くホームランをポンポン打たれちょる! 更には〝鉄人〟の異名を持つ、絹越闘風きぬごしどうふう選手もデッドボール耐久合戦で敗北! エリクト自慢の司令塔、古谷はリード論で論破されるという異常事態が起きとるけん!!」 ――FA宣言します。 『エリクトのマスコットであるマドン! この光景を見て、FA宣言を趣旨するボードを取り出したけん!!』 〝兵庫県・甲子園球場 東京サイクロプスVS大阪ライガース戦〟 『こちらは甲子園球場! 本来であれば伝統の一戦が行われますが、鐘刃サタンスカルズが聖地に乱入!! 呉越同舟、お互い即席の合同チームで試合に挑みましたが――』 「334……」 「あ、悪夢の数字だ」 『スコアボードは33-4! 夢の東西チームは既に大敗北を喫しました!!』  混沌!  球哀!  黒いボールのファンタジー!  鐘刃サタンスカルズによる野球テロの同時発生!  日本プロ野球史上、最悪の事態が起こっていた。

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