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『炎原監督が両手を掲げ!』 「ハーイ!」 『長襟を立て!』 「ビシッ!」 『チームの連勝に喜んでおります!』 「さわやか……」 『 ビッグアニキ最高ッ!!』 「ガッツ!!」  北海道カムイの監督とナインで喜び合っている中、メガデインズのベンチはかなり険悪になっていた。 「ピッチャーが打たれるせいだ!」 「黙れ、無援護打線!」  結局、ブッフ戦の3戦目に勝ってもチームの空気は変わらなかった。  投げば打たれ、打線も湿りがち。チームメイト同士、お互い疑心暗鬼になっている。  これで大宮や長崎、そしてカムイとの試合では2連敗――これで8連敗だ。  福井さんが怒りを堪えているのが見て取れる。 「プロなんか」  半笑いだ、選手達に呆れ返っている。守備や走塁、バントミスが関わっての負け方が多い。  そこにはもう選手への信頼という二文字はない。 「4番もなァ」  僕の調子も何だかおかしい、特技やスキルが発動しないのだ。  エアカンダスなどの呪文は使うことが出来るのだが、野球において走塁など使える場面が限られている。  従って、最近では全然打てていない。 「おかしなことやっとる」  福井さんは守備走塁コーチの嵐岡さんを見る。何を言いたいのか見当がつく。  嵐岡さんは、ファンの間で『壊れた信号機』なる不名誉な仇名がつけられているのだ。  というのも、三塁ベースコーチとして指示を出すのだが、間に合うようなタイミングでも走者を止めたり、間に合わない場面での本塁突入を指示してアウトになることが多いからだ。 「はい?」 「ゴニョゴニョ……」  神保さんが福井さんの言葉を翻訳して伝える。 「わ、私の責任だと言うんですか!」 「そうやないのか?」 「打線のつながりが悪い! 金光さんの脇締め理論がいかん、単打マンを量産してるじゃないか!!」  嵐岡さんが金光打撃コーチを見る。  一昔前は『脇締め理論』なる打撃理論で一世を風靡ふうびしたらしい。  最近ではその打撃理論もチームや選手の相性があることが分かったらしく、脇を締めコンパクトに打つ方法は長打が生みづらく、連打が出ないときは残塁の山を築く時が多い。 「何を言っとる! 打たれる投手やリードが悪い!! この責任は間さんと影沼澤さんにある!!」  金光さんが間投手コーチと影沼澤バッテリーコーチを見る。  間さんは直ぐに選手のフォームを改造しようとすることで有名。  それが功を制し感謝する人もいれば、成績を落とし恨みを持つ人も多いという両極端な評価がある人だ。  もう一人の影沼澤さんは『困ったらアウトロー』が口癖で読まれやすいリードを教えることで定評がある。 「アメマ?! 何でもかんでもコーチのせいにしたらあきまへんで」 「そうです、最後はトップが責任を取らないといけません」  間さん達は福井さんと日暮里さんを見た。 「何で采配を言われなアカンねん!」 「我々の指示は完璧です!」  選手だけでなく、首脳陣も険悪になってきた。開幕してから間もないというのにチームはバラバラだ。  そう、それは魔王イブリトスに負けた勇者パーティのように……。 ☆★☆ 「は、8連敗!?」  メガデインズのオーナー天堂雄一(26歳)は兵庫県芦屋にある大豪邸で叫んだ。開幕からここまで3勝11敗でぶっちぎりの最下位である。 「坊ちゃま、新聞を読みながらの食事は恥ずかしいですぞ」  雄一はじいやにスポーツ紙を取り上げられる。 「じ、じいや」 「今の雄一様のお姿を見れば、お爺様や御父上は嘆き悲しむでしょうな」  じいやこと恋川蔵之介(65歳)は何気なく新聞をチラ見する。 ――メガデインズ自爆! 悪送球にエラー連発で8連敗!! (昔のメガデインズは強豪じゃったのに……)  恋川は今の超弱小チームと化したメガデインズを憂いていた。  そもそも株式会社ハズレは、天堂雄一の祖父である天堂一茶により創業されたゲーム会社。  一茶の野球好きが高じて発足したのが始まりである。  米一の代になると、強豪として名を馳せたが近年は低迷、その理由は息子雄一に原因がある。  球団運営が下手なのだ。峠を過ぎた高年棒選手の獲得、ドラフトではミーハー路線、主力選手のトレード、現場への介入等々……。  これでもかという具合に悪手を連発し、チームを弱体化させてしまった。 「うう……沖田くんのプロデュースは失敗だし、ユニフォームも変更したのに反応はイマイチ、それにチームも最下位で最悪だ。全部、監督が悪いね! こうなったら変えちゃおう!!」 「坊ちゃま、監督を変えただけでチームは強くなりませんぞ。そもそも、福井様を呼んで来たのは坊ちゃまですぞ」 「ライガースを優勝させた手腕を買って雇ったんだ! 戦力も十分に補強したのにこのザマだよ!」 「もう少しドンと構えなされ。御覧なさい、二軍では西木監督が若手を上手く育成してウェストリーグの首位に……」 「二軍って首位なの?」 「そうですけども」 「凄い手腕だね! これは西木を一軍監督にするしかない!!」 ☆★☆  開幕からここまで3勝11敗。  今日は網走ドームでの北海道カムイと3回戦目。  試合前、既に全体練習が始まっているのだが―――。 「どないします?」 「貧乏くじに変わりないし」  福井さんや日暮里さんの姿が見えない。コーチ陣が集まり何やら相談している。 「ここは公平にじゃんけんで……」 「1試合だけですからね」 「負けた人が代行監督ということで」  代行監督?  何を言っているんだろう。 「じゃんけん……」 「ぽん!」 「あいこで……」 「しょっ!!」 「ワテかいな?!」 「頑張って間さん」  間さんが神保さんに肩をポンと叩かれている。一体何だろう……間さんがフラフラとこちらに近付いて来た。 「皆にちょっと伝いたいことがありますねん」 「えっ?」 「なんだ、なんだ」 「ワテが監督することになりました」  暫し、無人のダンジョンのような静けさとなり……。 ――えーーーーーーーー???!!!  皆一斉に叫んだ。  唐突な監督宣言だ、選手を代表して佐古さんが尋ねる。 「どういうことですか」 「福井監督と日暮里ヘッドコーチが謎の高熱で倒れてん」  次は安孫子さんがヤレヤレという表情だ。 「何ですかいそれは?」 「いやな。昨晩、監督やコーチ陣でジンギスカン喰いながら試合の作戦を練ってたら突然バッタリや。医者からは長期休養を言い渡されて電撃退任することになった」  続いて鳥羽さんが尋ねた。 「じゃあ、間さんがこれから監督?」 「ちゃうちゃう。既に次の監督は決まってるらしいけど、まだ球団から正式な発表を聞かされてないんや」  超展開とはこのことか……。  監督とヘッドコーチが謎の病にかかっていなくなるとは。 「今日は頑張るやで。機動力野球や!」 (だ、大丈夫かな……)  僕の嫌な予感は当たった。  間さんはランナーが出るたびに、盗塁とヒットエンドランのサインを出していた。  鳥羽さんのような、足が遅いバッターにまで盗塁の指示を出すとは……。  そのアヘアヘな采配でボロ負け。これで連敗は9にまで伸びてしまった。

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