勇球必打!
ep49:異世界野球留学

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 スペンシーさんの水晶玉に映し出された映像。   僕が水晶玉を覗き込むと、何かのテレビ番組が映し出されている。 「1リーグ制でもいいんじゃないですか」 「選手が入れ替わってから、試合時間も短縮した」 「超メジャー級のプレーを見せてくれるし、何だかカッコイイ♡」 「ホンマでんな。今まで、エだのワだのごちゃごちゃし過ぎててん」  ひな壇に座る評論家や文化人、芸人達がそう述べていた。  よく見ると目が虚ろだ、それは京鉄の監督や選手達と同じ現象。  おそらくは闇の術法で操られているのだろう。  スペンシーさんは水晶玉を再び撫でながら言った。 「こうやって世論は操作され――」  次に水晶玉から別の映像が流れ始めた。  そこには、何名かの人々が集団で抗議活動をしている様子が映っている。 「合併反対!」 「俺達のプロ野球を返せ!」  『合併反対』と書かれたボードを掲げた12球団のファン達だ。  太鼓を打ち鳴らし、笛を吹きながら行進していた。 「我々の雇用が脅かされております!」 「反対の署名をお願いします!」  そして、12球団の選手達が署名を活動している。  そんな行動をしている人々や選手に対し、鐘刃サタンスカルズ選手達が突然現れ妨害活動を始めた。 「オラオラァッ!」 「底辺どもが! 鐘刃様の邪魔をするんじゃねェ!!」  バットを振り回したり、ボールを投げたりといった暴力活動だ。 「う、うわァ!?」 「キャー!!」  打たれ倒れる人々、逃げ惑う様子は阿鼻叫喚。  ケイサツと呼ばれる兵士達は黙って眺めているだけだ。 「ひ、酷い……」  僕はそのディストピアと化す世界に歯噛みした。  スペンシーさんは水晶玉を懐に直すと僕に言った。 「こうやって……不都合なことは力で黙らされる」 「早くあの世界へ――」  動こうとする僕をネノさんが止めた。 「ダメだぜ」 「何故だ! このままでは人々が……」  焦る僕に対し、兎角さんが言った。 「やるべき選択肢を間違えるな」 「やるべき選択肢?」 「目には目を歯には歯を……野球には野球で返すのがルールだ」  どういう意味だろう。  不思議そうな顔をしているであろう、スペンシーさんは言った。 「反撃の狼煙を上げるために、各々が行うべき『異世界野球留学』を開始はじめている。それに君も――」 ――テレポレート!  瞬間移動呪文テレポレートで去っていった。  僕が追いかけようとするが、兎角さんが煙草をふかしながら立ち塞がる。 「さて……Lessonの開始だぜ」   ☆★☆  ホッグスくんの転移の術法により、アラン以外の面々も異世界へと送り届けられていた。  場所はレアチズ山、自然豊かな環境な場所はまさにキャンプにうってつけ。  それはまさに『異世界野球留学』と呼ぶに相応しいイベントの発生である。 ――隠れ里『球聖の村』 「球聖の村へようこそ。村長のヤマダリンだ」  異世界へと強制転移させられた西木達メガデインズの面々。  目を醒ますと集落の宿屋にいることに気付いた。  そこには、ヤマダリンと名乗る初老の男が現れたのだが―― 「あ、あなたはメガデインズの伝説的サブマリン投手の……」 「西木監督、それにメガデインズの後輩達よ。話ではなかなかに頑張っているそうだな」  森中はサングラスの奥にある瞳を凝らして見る。  そこには、ヤマダリンと名乗る村長の隣に伝説の盗塁王に似た男の姿があった。 「細かい話は後にしようや」 「い、韋駄天!」  驚く森中に鳥羽は言った。 「森中、それだけじゃないぞ……」 「えっ?」  そこには、数十年前にメガデインズが優勝させた伝説の選手達の姿があった。  犠牲フライの名手、代打の神様、豪速球投手……更にはラテン系の外国人選手までもいる。 「ユー達をオレ達『伝説の優勝メンバー』がトレーニングすることになった」  赤田コーチが目を擦りながら言った。 「き、鍛える?」  顔を包帯でグルグル巻きにされている安孫子が言った。 「斜め上過ぎる展開だろ。理由は?」  その質問に対しヤマダリンは力強く答えた。 「日本プロ野球を守るためだ!」 ――レアチズ山・山麓  小倉、判官、弁天……そして危く不死系の魔物に殺されかけた、鐘刃サタンスカルズの選手達。  彼らはレアチズ山の裾野で凶悪な魔物と戦っていた。 「グラアアアアアァァァッッッ!!」  レアチズ山に生息する二首の頭を持つ『デュアルドラゴン』である。  その強さは並みの冒険者では勝てないほどのレベル。  野球用の簡単な特技やスキルしか与えられていないサタンスカルズ……いや、元サタンスカルズの選手では歯が立たないのは明白である。 「ド、ドラゴン、しかも首が二つも」 「鐘刃様……いや、鐘刃から与えられた特技やスキルじゃあ歯が立たねェ」  既に忠誠心を失ったメンバー。  今は小倉をリーダーとする『9人パーティ』を結成し、この凶悪な魔物と戦っている。  しかし、あらゆる呪文や特技、スキルを使用するが決定打を与えることが出来ない。  そんな最悪な状況であるので、判官と弁天は弱音を漏らした。 「異世界がここまで厳しいものでおじゃるとは」 「拙僧達の認識は甘かった……」  それに対し、小倉は青バットを掲げながら言った。 「何を弱気な。こちらは前代未聞の9人パーティ! 更にはホッグスくんより、HPが全回復する『生命樹の雫』を9999個も渡されているのだ!!」  小倉はバットで弧を描きながら仲間達を鼓舞する。 「低レベルクリアだ!!」  そう小倉達はホッグスくんより、低レベルでの魔物退治を試練として与えられた。  レアチズ山で倒すべき魔物数は100匹……。   ――レアチズ山・山腹 「集中力を乱すな、オーラを手に集中させるんだ」  レアチズ山の森の中で湊はスペンシーの指導の元、ある特技の特訓をしていた。  聖属性魔法と闘気を配合した『聖闘気セイクリッドドライヴ』を習得すためだ。  それを応用、ボールに込めることで『全く新しい魔球』の完成を試みていた。 「投げたまえ」 「ええ球を頼むで!!」  キャッチングを務めるのはドカこと徳島。 「いくぞ……」  投球モーションに移る湊であるが、以前の固いフォームからかなり端正されている。  それは球の出所が見えづらく鞭のようにしなやかなもので……。 ――バシィッ!!  ボールは極上の威力を発揮していた。 (なんちゅう威力や、湊の成長曲線がヤバ過ぎやで)  たった数時間の指導によるレベルアップ。  流石は大リーガー、投手の指導も出来るのか驚くのではあるが。 「何故、僕とドカだけは個人指導なんですか?」  そう、湊とドカだけは個人的な指導だ。それに対しスペンシーは笑って答えた。 「君達が忘れているだけさ」  意味深なことを述べるスペンシーであるが……。 「さァ次は打撃の練習だ」 「は、はい……」  休みなく続く野球修行、湊には疲労感が襲っているようである。 「待って! 回復してあげるわ」 ――ヒール!  全快回復呪文リカイアムよりは劣るが、回復呪文によりヒールで湊の削られたHPは回復する。 「あ、ありがとうノアさん」  呪文を唱えたのはセイレーンのノア。  疲労は回復、これで再び練習に打ち込めるわけである。  その光景を見ているドカは少し羨ましそうに言った。 「殺気立ってたヤツが、何で懐いているんや」  ドカの言葉にスペンシーはどこかで聞いたような台詞を述べる。 「いい冒険者ってやつは、魔物に好かれちまうんだ」 ――レアチズ山・山頂  山頂では、国定がオニキアを指導している。  ここは山の頂上であるため『低圧低酸素』の環境。  つまり高地トレーニングが始まっている。 「いいぞ、魔力マナが戻って来たようだな」 「ありがとうございます」  闇の術法を習得したことでレベルが低下してしまったオニキア。  ここで再びレベルアップの修行をしているというわけである。  その目的はスタミナ……いやMPを少なく消費するスキル【魔力半減】を習得するためだ。  高地トレーニングを実施することで、この特殊スキル習得に努めているのだ。 「次は瞑想の時間だ」 「何だそりゃ。俺は坊さんじゃないんだぞ」  当然ながら元山も異世界へと転移させられている。  彼の役目はオニキアの練習パートナーだ。 「文句言わないの! 血の気の荒い、あんたに一番必要なものでしょう?」 「わ、わかっているよ」  渋々ながら元山は承諾。  二人の姿は傍から見ると、夫婦漫才をしているかのように見えた。

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