勇球必打!
ep107:レアスキルの代償

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 7回の表――ラッキーセブンの攻撃だ。  バッターは一番の安孫子さんだが……。 「ストライク! バッターアウト!」 「ちっ……!」  アウトローへの緩いカーブ。  抜群のコントロールで見逃しの三振をとった。 「あの仮面野郎……うまく緩急を使って来やがる!」  安孫子さんが悔しそうな顔をしてベンチへ戻ってきた。  あのデーモン0号、かなりの曲者だ。6回から見てるが球速は140キロ台とそんなに速くはない。  だがカーブやスライダー、カットボールを上手く使ってくる。  また、バッテリー組む田中も四隅を使いながら打ち気を逸らすようなリードだ。  ――巧みな闇のバッテリーワークといったところか。 (見たところ人間ではある――それにあのフォームもどこかで……)  続いては2番の国定さんだ。 (私の魔力を練り込んだバットで打たせてもらう)  国定さんの持つバットが淡い黄緑色のオーラを放っている。  おそらくは雷と風の合成呪文『ライジングストーム』の一撃を放つつもりだ。  バットの芯で当て、ボールに伝われば長打は間違いない……。 (国定――2軍の練習で見たな)  デーモン0号はフォームに入った。  試合中に何度も見ているが、少しサイドの変則だが流れるようなスリークォーターだ。  水のエレメントのような美しさとしなやかさがある。 『デーモン0号! 第一球を――』  ブン! 『投げました!』  ズバン! 「ストライク!」  一球目はインサイド高めだ。 「………!」  あれ……どうしたんだろう?  国定さんの顔が急に変わった……。 (回転のいい球……球速は早くないが伸びがある。この独特の直球――いやそんなまさか)  すると国定さんは審判に何やら言った。 「審判、タイムだ!」 「わかった」  国定さんは自分を落ち着かせるようにタイムをとった。  打席を外し、素振りを繰り返している。 (リリースポイントの位置を下げるアドバイスを彼が聞いたとすれば……それに背格好から声、持ち球の特徴からして……まさか……そうだとすれば何故魔物達と一緒にいるのだ……彼はこの世界の……)  集中している。 「今は考えている余裕はないか」  何やら打席で言っているようだが遠すぎて聞き取れない。  集中力を高めるための自己暗示か、それとも魔力を高めるための詠唱か。 (あの男……まさか俺の正体に気付いたのか……いやそれは考えすぎか) (デーモン0号様……どうされたのですか) (何でもない) (……ここはどう攻めますか? この国定という男は侮れません) (スペンシーを飛車とすれば、この国定は角だからな……)  マウンド上のデーモン0号が珍しく自分からサインを出す。  多くのチームでは司令塔であるキャッチャーがサインを出すが、投手側からサインを出すのはかなり珍しい。  それもこの場面において―― (真ん中低めのカーブを投げるぞ。あいつは変化球打ちが得意だからな) (あえて投げるというのですか? 危険では……) (魔術師はMP魔力が切れたら貧弱な戦士だろ? 少しでもMP魔力を消耗させ鐘刃と同じ轍を踏ませるんだ。7回表の終盤――あいつらは少しでも点差を開きたくて焦っているはずだ) (で、ですが……) (打たれてもホームランにならなければいい。後続の打者は抑えられる自身がある) (……承知!)  デーモン0号はフォームに入った。  投げる球は―― ――ククッ!  カーブだ! (この球種! このコース! 打つのならば絶好球ッ!) ――風雷一体ッ! 魔打『ライジングストーム』!!!!!!  大魔導師国定さんは魔法が込められたスイングを放った! ――カツーン!  雷鳴音が瞑瞑ドームに鳴り響いた!  ハードコンタクトだ! 「やった!」  僕はひとりでににそう呟いた。  バットの芯からボールへと強力な魔力が伝わったのが目視出来たからだ。  後は打球が上がれば―― ――ガコッ! 『ピッチャー強襲ッ!』  打球が上がらなかっただと!?  しかし――デーモン0号の顔面を強襲ッ!  ヤツはそのまま地面にうずくまってしまった! 「デ、デーモン0号様!」 「俺のことはいいから一塁へ投げろ!」 「は、ははっ!」  ボールは投手の周りを転がっている。  田中は急いでキャッチして一塁ベースへと送球するが……。 「セーフ!」  国定さんはピッチャー強襲の内野安打。 「ハァハァ……」  全力疾走で息を弾ませている。ベンチにいる僕達は大盛り上がりだ。 「いいぞ国定!」 「ヒットはヒットだ! あの仮面野郎からの初ヒットだぜ!」  しかし、一塁上の国定さんは体を震わせている……。  じっと自分の手を見ているようだ。 (何という重いカーブボールだ……まるで鉄球を打ったかのような感触……闘気を込めたわけでもないだろうに……)  国定さんは息を整えると軽くリードを取っている。 (瞑瞑ドームから入ってから試合の連続……スキル【魔力半減】で補っているがMP魔力も少なくなってきたな……燃費の悪い魔法を使い過ぎたか……スペンシーのいない中、回復や補助呪文が出来るのは私とオニキアのみ……ここは慎重に考えていかないと……)  一方のデーモン0号――強烈なライジングストームのピッチャーライナーが顔面に直撃した。  ヤツは顔を覆いながらゆっくりと立ち上がる―― 『猛烈な打球が直撃しましたが無事に立ち上がった!』 『あの奇妙な仮面がフェイスガード代わりになったようだな』  顔から手が離れる――髑髏の仮面は割れ、顔をのぞかせた。  黒髪を覗かせ、黒い瞳が妖しく輝く――人間、やはりデーモン0号は人間だ。  〝デーモン〟を名乗るとしたら、この世界の住人かもしれない。  それにどこかで見たような……気のせいだろうか? 「あれ……」 「どうしたんだいマリアム君!」 「天堂オーナー、あいつなんか見たことあるような、ないような……」 「どっちなんだい!?」 「いや……どっかで見たことあるような気がするんやけどな……」 ――コン! 『3番の湊は見事送りバント成功! ランナー2塁において4番のアランを向かえます!』 『ここは追加点のチャンスだぜ。ターニングポイントになりそうだ』  続く湊は送りバント成功、次は僕の出番だ。  先程の打席では三振を取られてしまったが……ここは何としてでも打たなければならない! 「いったれアラン! 打ったれアラン!」 「いけいけ!」 「ここでダメ押しの追加点を!」 「いっちゃえーですゥ!」  マリアム達の応援する声が聞こえる。  第一球目が投げ込まれる―― (ど真ん中!?)  甘い球! 好球必打! 思いもしないほど〝おいしいボール〟!  自然と力が入る。ダメだ――  スキル【律動調息法】で呼吸を整え。  スキル【精密樹械】で集中し。  スキル【緩急剛柔】で体を操作し。  スキル【殺人球活人球】で気を込める。 (そして……特技【闘神斬り】で決める!) ――ククッ!  来る……来る……来る……! 確実に捉えるッ! ――特技【闘神斬り】! 「ストライク!」  僕は空振りした。  何故だ――僕は捉えたと思った……それが……。  僕はずっとフォロースルーをしたままで動けないでいた。 「どうした? ど真ん中に投げてやったんだぜ」  デーモン0号が妖しく笑う。  ヤツはわざと投げたのか? 何故? 理由は? 「うっ……!?」  すると僕の体は重くなった。  なんだこれは――まさかベンチのインプが?  僕はベンチを見るも、あの小悪魔は何もしてない。ベンチに腕を組んで座っている。 「ふふふっ!」  デーモン0号は理由を知っている顔だ―― 「ど、どうしたんだアラン?」 「わからん……スイングがかなり鈍かったが……」  ベンチで西木さんと赤田さんが何やら会話している……。  するとベンチの奥から人影が見えた。 「アランくん! これ以上レアスキルの多用はやめるんだ!」  片倉さん!? 目が覚めたのか!

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