勇球必打!
ep111:TRPG

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「ストライク!」 「カ、カーブだと!?」 「ノンノン! カイザートロルくん! それはカーブじゃないよ」 「カーブではないだと?」 「カーブはカーブでも、ナックルカーブだ」 「ナ、ナックルカーブ!? 貴様のデータでは、そんなミーハーなボールは投げないハズだぞ!」 「フフッ……データに頼り過ぎだね」  神保さんが次に投げたのナックルカーブ。低めに決まりストライクだ。  球速も140キロ台――あのコースに決まれば打つのは難しい。  マウンド上の神保さんは自分からサインを出す。 (それを投げるんですか? キャンプの時にお遊びで投げていた球でしょう?) (いいから♡ いいから♡ こういう時こそ『遊び心』が肝心だ。打たれれば、私が責任を取るから) (……どうなっても知りませんからね)  鳥羽さんは黙ってミットを構える。  コース的にはど真ん中よりやや内角低めだ。 「さて、次はこれだ」  次に投げるのは……。 ――フワ……。 「ぬゥ!?」  スローカーブ。   遅い、とても遅いボールだ。 「こ、このオオオオオッ!」  レスナーはバットを棍棒のように振り回した。  当たれば長打だろうが―― ――ブンッ!  タイミングは完全に外されている。 「ストライク! バッターアウト!」 「ぬがあああッ!」  レスナーは三球三振。  大振りをした影響で体をクルリと回転し倒れてしまった。 ――ざわざわざわざわ……  場内は騒然。  敵味方問わず、誰しもが驚愕の表情を浮かべているようだ。 『恐るべきは神保錬! このようなボールはシーズン中に見せなかったぞ!?』 『ウェイトトレーニングでもしまくったのか? ボールの速度や変化球のキレがパネェぞ』  コーチ兼任選手ベテランがメジャー級のボールを見せている――当然だろう。  三塁側にいるマリアム達も騒がしくなっているようだ。 「な、なんや、あのおっさん……あんなエグいボールシーズン中投げとったか?」 「この天堂にも理解不能だ。彼の最高球速は140キロ台、変化球はカーブとスライダー、フォークのみだったはずだぞ」 「きっと覚醒したんですよ!」 「がんばれ神保さーんっ!」 「三者凡退ですゥ!」  続いては7番のベリきち。  バットを立て、体をシンクロさせながらタイミングを計るが―― 「ストライク! バッターアウト!」 「タ、タイミング取れねェ!」 「無駄に打席で動き過ぎだよ。グレーターデーモンくん♡」  高めの直球と低めのフォークで空振り三振だ。  教科書通りの配球で、巧打者ベリきちをアウトに打ち取った。  敵軍のゼルマとフレスコムはベンチから身を乗り出しながら、神保さんを見つめている。 「な、なんてことだ。あの業師ベリきちを三振に打ち取るなどと」 「クワカーッ! ベリきちさんの三振率は1割だぞ!?」  次は8番の田中だ。  バットを極端にまで短く持って打席に立っている。 「おっ? 珍しいくらいバットを短く持っているね」 「何が何でも食らいついてやる!」 「いい心がけだ。では、ど真ん中付近にストレートを投げ続けてあげよう」 「ハァッ!?」 ――バシッ! 「ストライク!」 「ぬぐゥ!?」 「クイックで投げさせてもらった♡」  神保さんは余裕綽々、まるで遊んでいるかのようだ。 「それ! いくよッ!」  次に神保さんはサイドスロー気味に投げた。  オニキアの投球フォームを模倣したのか? 動きに固さはあるがよく似ている。 ――シュッ! 「あ、あれは!?」  投げたボールに風の魔力マナが込められている。  回転数の多いボールは切れ味鋭く、真ん中内寄りに入った。 ――バシッ! 「ストライク!」  万字さんの声が外野にまで響く。  これでツーストライクまで追い込んだ。田中はメットを被り直すと、 「タ、タイム!」  タイムを要求。  万字さんはこれを了承、田中は何故か自軍ベンチへと戻っていく。  出迎えるゼルマは田中に声を掛けているが? 「どうした……」 「バットを交換だ」 「ん?」 「これを見ろ」 「なっ! バットのグリップが削ぎ落されている!?」 「風属性の魔法だ――バットを振ろうとした瞬間に、ホームベース上で真空波が発生しやがった」 「ということは……」 「バットをフルスイングしていたら、俺の腕が吹っ飛んでいたかもしれん。いや……恐るべしは神保、ミットに収まる瞬間は呪文の効果がきれるように魔力を調整していやがる」  田中はバットを交換したようだ。  理由はわからない。ただ田中は打席でおかしな動きを見せる。 『ああっと! これはどういうことだ!? 打席を外し気味に構えているぞ!』 『ピッチャーが打席に立ったみたいだ。全くやる気がねェ』  そう、田中は打席を大きく外している。  投手が打席に立つエ・リーグでは、無駄な体力を消費しないために行うことがある――とマリアムから聞いたことがある。  だが、それは投手だからだ。田中は8番打者、クリーンアップほどではないが打撃が期待されているのだ。 ――バシッ! 「ストライク! バッターアウト!」  最後は真ん中へ140キロ台の直球でスリーアウト。  三者連続三振で7回の裏を終了した。 「ア、アウトかよ」 「バットを振らんかい! クソゴブリン!」 「どげんかせんといかんとね!」  当然ながら魔物達が野次が飛んでいる。  田中は全く打つ素振りを見せなかった。野次を飛ばされても当然だ。  しかし、何故バットを振らなかったのだろう? リードで頭がいっぱいなんだろうか? 『三者連続三振! 逆転はされましたが流れを止めました! 神保錬の神ピッチでしたッ!』 『マンダム――まさに圧巻のピッチングだ。今すぐメジャーにいけるぜ』 「ふぅ……しんどかった」  神保さんはベンチでドリンクを飲んでいる。  チームメイト達は淡々と投げ、抑えた神保さんに突っ込んでしまう。 「神保さん! そんなに凄い球投げれるなら最初から投げて下さいよ!」 「そうだぜ、神保のとっつぁんよ!」 「ふ、二人とも落ち着きなよ。私はリリーフだ、初回から投げてたらスタミナ切れを起こしてしまう」  湊と森中さんが興奮した様子だ。まあ確かにそうだろうな……。  神保さんの正体がオディリスならば、このデタラメなほどの投球も頷ける。  本当にどうしようもない神だ。二人が言うように最初から投げていれば0点で抑えられたんじゃないのか。  そう思っていると、神保さんと目が合った。 「最初から私がチート見せておけばよかったんだけどね……でも、あまり介入するとあいつがうるさいんだ」  神保さんが小さく言った。  あいつって誰のことなんだろう? 「にしても……TRPGなら、私はゲームマスター失格といったところだね」 「テーブルトークアールピージー?」 「テーブルゲームの一種さ。私は楽しくゲームを進行させたかったんだけどなァ」 「言っている意味が……」 「さてと! たかが一点差だ! 絶対に逆転しよう!」  神保さんが立ち上がってみんなを鼓舞する。  何だか言葉を濁されたが、今は細かいことを考えている余裕はないか。  次の回で逆転し、再び流れをこちらに引き寄せて行きたい。 (オディリス、少し悪戯が過ぎるぞ) (ラ、ラウスさん!) (今はラウスではない――人間、片倉国光だ) (これは失礼) (そもそも、お前の下らぬ介入がなければ、あやつがこの世界に荒らしに来ることもなかったんだぞ) (それは言わない約束ですよ……私も責任は感じています。そのために『命を賭けて』来たんですから) (物は言いようだな。その体でどこまでやれる?) (ぶっちゃけ、あの回で力を使い果たしちゃって……) 「な、なんと!?」  突然、片倉さんが立ち上がった。  西木さんや赤田さん、それに僕達の視線が片倉さんに一気に集まる。 「どうしたんですか?」 「い、いや……何でもない」

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