勇球必打!
ep44:降臨

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「あっ! ドカお前何をしてるんだ!!」 「ど、どうしたんだ!?」  鳥羽さんと森中さんが驚く。  ドカが折れたバットを振り回しながら襲って来ているからだ。 「球遊びは終わりだ! 命のやり取りなら誰にも負けねェ!!」  止めるならばドカを倒せばいいがそれは出来ない。  異世界で習い覚えた一撃を叩き込めば、良ければ大怪我、下手をすると死につながるかもしれないからだ。 「このブーちゃん、パワーだけはあるな! そこの優男とは違い体も直ぐに馴染む!!」  折れたバットを振り回すドカを誰も止められない。  審判団は突然のことに狼狽え、鐘刃サタンスカルズのメンバーは喜んでいる。 「ハハハ! いいぞ殺れ殺れ!!」 「こんなところで映画さながらのアクションが見れるなんてな」  僕はドカの攻撃を躱し続け後退すると……。 ――カッ!  マウンドのピッチャープレートに足場を取られた。 「しまった!」  バランスが崩れ後ろに倒れる……。  それを見たドカ、いやシュランは満面の妖笑を浮かべた。 「チャンス! 死ねィ!!」  突きが僕を襲うも――。 ――パシ! 「下品な野郎だな」  何とデホが僕を助けてくれた。 ――特技【龍華手鏡りゅうかてかがみ】! 「痛ッ!?」  武闘家の特技【龍華手鏡】。  立ち関節技により、ドカの手からバットが落ちた。 「どけ」  今度は大きな影が傍にいるのに気がついた。  ユニフォームの上から鎧を身に付けたブルクレスだ。 (何をする!?) 「潔さのない者は見苦しい」 (ま、待て! お前らは悔しくないのか!?) 「黙れ」  ブルクレスはバットを上段に構えた。  あの構えから繰り出す特技は一つしかない。 (や、止め――) ――特技【大地撃】!  地面がめり込むほどの振り下ろし、もちろん狙いは僕ではない。  狙いは赤バット、つまりシュラン。ブルクレスの特技【大地撃】はゴーレムも砕く一撃必倒だ。 (グギャアアア!!)  バットからの悲鳴が木霊した。  その激烈な一打は赤バットをガラス細工のように粉砕した。  事情を知らないこの世界の住人達は皆驚いている。 「に、西木さん、何だか悲鳴が聞こえませんでしたか」 「赤田さん、今日は色々なことがあって疲れているんでしょう。バットから声がするなんて――」 「聞こえたんですね、声が……」 「……」  一塁ベンチからそんな声が聞こえて来る。  こんな奇怪な現象が起これば動揺するのも無理もないだろう。  チームメイト達も勝利したといえども何とも言えない表情だ。 「言っとくが、お前を助けたわけではないぞ」  デホの声が聞こえた、見ると足元に飛んでいるバットの破片を踏みつけている。  そして、ブルクレスはバットを担ぎながら言った。 「あの方の命令だ」 ――パチパチパチパチ……  どこからともなく拍手が聞こえる……。  その音はどこか冷たく、妖しい音色だ。 「浪速メガデインズの諸君、まずはおめでとう」 「ひ、人だ! 人が浮いてるぞ!」  森中さんが上空を指差すと確かに人が空に浮いていた。  雪のような白い肌に銀色の長髪、黒と紫を基調にしたスーツの男だ。  僕達が生で見るのは初めて、そうあいつこそが――。 「改めて皆さんこんにちは。NPBのコミッショナー『鐘刃周』と申します」  鐘刃は丁寧にお辞儀するとグランドに降り立った。 「お、お前が……」 「君『お前』とは失礼ですよ。コミッショナーと呼びなさい」  凍てつくような声だった。  まるでイブリトスのような禍々しくも威厳ある声。  映像で聞くのと実際に聞くのでは大違いだ。 「ドカ、大丈夫か?」 「だ、大丈夫です。何かあったんですか」 「お前、何にも覚えてないのか」  西木さん達やメガデインズナインが集まって来た。  突如現れたコミッショナーに西木さんと赤田さんは言った。 「一体これはどういうことなんですか。急にリーグ変更だのルール改正だの……」 「何かの冗談ですよね? だいたい空から来るなんてイリュージョンパフォーマンスが過ぎますよ」  対する鐘刃は人差し指を立てて答えた。 「私は本気だし、これは演出でもマジックショーでもない。このプロ野球界を面白くするために改革が必要だと思っている」  鐘刃は映像のように体を捩じらせながら言った。 ――バァーン! 「 映像の中で各球団のオーナーが言っていただろう。赤字の球団ばかりなのに、選手の年棒だけは高騰し続け、更には夢だの何だの好き勝手に言って海外へと行ってしまう……」 ――バァーン! 「そんな勝手な選手など必要ない! 只今をもって12球団の全選手は自由契約!」 ――バァーン! 「代わりとして、各球団に我が鐘刃サタンスカルズの選手を送り込む!」 ――バァーン! 「お得なのは、鐘刃サタンスカルズの選手の年棒はなんと!」 ――バァーン! 「一律の上限が8980万まで!」 ――バァーン! 「更には、大リーガーが裸足で逃げ出すほどの超ハイパークオリティのプレーを提供!」 ――バァーン! 「こんなお得な話はないだろう?」  身勝手な話だった。  そんなことはシーズンオフにやればいいことだ。  そもそも選手やファンの意見を無視して一方的過ぎる。 「さて、そんなこんなでNPBの大革命だ。君達もプロ野球の未来のために応援してくれるよね?」  鐘刃は笑顔で言った。ふざけた話に皆は憤っている。  まずは所属チームの京鉄を消された元山からだ。 「ふざけんな! テレビショッピングみたいなこと言いやがって!」  続いて鳥羽さんが睨みつけながら言った。 「お前の言っていることは無茶苦茶だ」  森中さんは唾を吐きながら暴言を吐く。 「さっさと辞めろ!!」  チームメイトから罵詈雑言の野次が飛ばされる。  鐘刃は僕達をまるで豚を見るかのような目だ。 「そんなことをほざくと思ったよ、勇者アラン以外は生かしてあげようと思ったのに残念だ」 「はっ? 何を言っているんだ」  森中さんの言葉に対し鐘刃はニタリとしている。 「私は勇者という存在を憎んでいる。それは彼女もそうだ――」 ――ビッ!  スタンドにいるマリアムが指差された。  まさか、いやそんなはずは……。 「ま、待ちや! うちは確かに……」 「あんたじゃないわよ」 「へっ?」  MegaGirlsのメンバーの一人が立ち上がった。  亜麻色の髪をしたスレンダーな女性だ。手にはフルートらしきものを持っている。  天堂オーナーは慌てて、その女性に駆け寄った。 「望愛ノアちゃん何をやってるの? 『悪魔が来りて笛を吹く』じゃないんだから……」 「うるさいぞ、汚らわしい人間が!」  ノアと呼ばれた女性は笛を吹いた。 「えっ……ちょ、ちょ……望愛ちゃん!?」  妖しくも禍々しい音が球場に響く。  その音はまるで亡者のうめき声のようだった。 「お、おぐわあああ!? 頭が割れそうだ!」 「何だこの音は……」  音が響くと頭痛と吐き気が一気に襲ってきた。  この異様な音は何なんだ――。 「Mr.クニサダ、これはまさか……」 「妖魔が使う『冥界の笛』だ」  国定さんとスペンシーさんはあの笛の事を知っているようだが……。 (フフフ……兄の仇を取らせてもらうわ) ――『閻魔門』開演!

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