勇球必打!
ep103:魔神銃打線

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

 ランナー一塁にフレスコムを置いて、打順は一番のゼルマだ。  僕はここまで彼女を2打席とも打ち取っていたのだが―― 「見えるッ!!」 ――カツーン! 『弾丸ライナー! キレイなライト前ヒットです!!』  打たれた……初球、高めのストレートをライト前にキレイに運ばれてしまった。  一塁上のゼルマは不敵に笑っている。 (この5回に入り……急激に球のキレがなくなっている!)  ランナーは1,2塁であるがツーアウト……。  後一人……後一人アウトに打ち取れば……!! 「ハイッッ!!」 ――カツーン! 『2番のデホもセンター前ヒット!!』 「な、なんだって!?」  低めへのチェンジアップが打たれた。  原因は分かっている。コントロールが微妙に乱れたのだ。 『3連打! これでツーアウト満塁ッッ!!』 『マンダム――ここが踏ん張りどころだが……』 『ブロンディさん、どうかされたのですか?』 『急に球のキレが悪くなったような気がするぜ』 『キレが?』 『原因はわからないが――明らかにこれまでと変わってボールの質が変わっちまってる』  マウンド上にはドカとネノさんを初めとする内野陣が集まってきた。  そして、もう一人……神保さんだ。 「きゅ、急にどうしちゃったんだい?」 「いえ……体は何ともないのですが……」  疲れはない、むしろ充実しているほどだ。  でも何かがおかしい――僅かに手元が狂うというか……。 「…………」  次はクリーンナップのマスターマミーのヒロだ。  不気味なほど静かだ――そして、その後ろに控えるのは……。 ――ブンッ!  デーモン0号だ。  ウォーミングアップだろうか、白木のバットを静かに振っている。  鐘刃と違い、一般の技術書に載せられているかのような全くクセのないフォームだ。 「大丈夫です。ここは僕が何とか抑えますので」 「…………頼んだよ!」  神保さんは少し不安そうな顔してそのままベンチに下がっていった。  ショートの安孫子さん、セカンドのネノさんが僕に声を掛ける。 「頼んだぜエース!」 「しっかりと抑えるんだよ」  僕は黙って頷く――仲間の想いに僕は応え何が何でも抑えてやる。 「やるで! やるで!」  女房役のドカは拳をミットに叩きつけながらホームベースへと戻る。  気合十分な様子で、その姿を見ると自然と僕も闘気が出て来る。 「思い切って投げるんやッッ!」  ドカはゆっくりと腰を下ろすと、インコースへしっかりミットを構えながらサインを出した。 ――クサナギシュート!  それは伝家の宝刀クサナギシュート! ――バシィッ! 「ストライク!」  まずはストライクを取った。  左打者のヒロだ、内角へ投げられるクサナギシュートは恐怖に感じるだろう。  どこか腰が引けたような見逃し方をしている。 (これがクサナギシュート……これほどまでのボールは私の生前に投げる投手はいなかった) ――バシィッ! 「ストライク!」  続いて投げたのは1回の裏で彼を仕留めたチェンジアップ。  上手くアウトローに決まってくれた。 (ちぇんじあっぷなるボールか……亜米利加アメリカの選手がよく投げていたボールだな。ふふっ……現代の野球は私が思ったよりも進化したようだ)  ストライクゾーンギリギリに決まったボールはストライク判定だ。  最初は低めを上手く打たれたが、これくらいの臭い球をストライクにとってもらうのはありがたい。 (遊び球はなしッ! 思い切って闘神ストレートを投げるんやッ!!)  ドカは高めにミットを構えた。  ツーアウト満塁、点差は開いているが押し出しの1点だけは避けたい。  下手な1点はゲームの流れを変える可能性があるからだ。  コクッ……。  僕はドカのサインに頷いた。  闘神ストレート――全身全霊の直球で三振を取りたい。  この大ピンチであるが、ここまで投げた全ての球に狂いはない。  偶々――点差が開いていたことによる僕の油断が生んだミスに違いない。 「しっかりしなきゃ……」  ポツリと僕は言った。自然に出た言葉だ。  さて――雑念は不要! 三振狙いに僕は思いっきり腕を振り―― ――闘神ストレート!  会心の一撃を放ったッ! ――カ”ツ”ーン”ン”ン”ッ"ッ"!!!!!!!!  音が鳴った。 『ヒロ! 打ちましたッッ!!』  会心の一撃を放ったのはBGBGsの3番打者のヒロ。  その打球は滞空時間も長く『虹』のような弧を描いている。 「う、美しい……」  打たれてしまったが僕はその打球に見とれてしまった。  確かに見えたのだ――虹が――七色に輝く虹が確かに見えたのだ。 ――ガン!  電光掲示板にボールが当たった。  それは紛れもなく―― 『ま、満塁ホームランッッ!!』  僕はグランドスラム、つまり満塁ホームランを打たれてしまった。 ――ワ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ"!  瞑瞑ドーム内の魔物達が大歓声を上げる。  やんややんやの大喝采、抱き合う者、飛び跳ねるもの、どこで用意したのか紙吹雪を撒く者もいる。 『ヒロ! グランドスラムウウウゥゥゥッ!! 8-6の2点差となったアアアッ!!』 「ウ、ウソやろ……」  3塁側の内野席にいるマリアム達もガックリと肩を落としている。  僕の方はというと―― 「…………」 「大丈夫か?」 「あっ……」  一塁の鳥羽さんが話しかけてくれた。  どうやら少し放心状態になってしまったようだ。 「まだ俺達がリードしているンだ! ちゃんとしやがれ!!」  森中さんにバシッとお尻を叩かれた。  気付いたら塁上のランナーは全ていなかった。  もちろんゲームは続行、次は4番打者のデーモン0号だ。 「ふふっ!」  右打席に立つデーモン0号。  僕を見て笑っているようだった。 「今までと勝手が違うようだがどうした?」  おかしい――あの闘神ストレートに間違いはなかった。  渾身のコースへキレのいいボールを投げたハズだ。 「タイム!」  ドカがタイムをかけた。  僕の方へと近寄ってきてくれた。 「森中さんが言ってたようにまだワイらがリードや!」 「は、はい」 「気のない返事やな。相手の言葉に惑わされずしっかりと投げるんや!」  ニカッとしてドカは再びホームベースへと戻る。  そうだ、まだ2点だ。試合は僕達がまだリードしている。  相手のデーモン0号の実力は未知数だが、ここで怖がっているようではダメだ。 「ハッ!」  僕は気合を入れてボールを投げ込んだ。 「ぬっ!?」 ――カツ!  初球を打ったデーモン0号は平凡なピッチャーフライ。  僕はガッチリとボールを取って、これでスリーアウトチェンジだ。 「ククク……ッ!」  アウトになったものの、デーモン0号は不気味な笑みを浮かべている。  そして、ヤツはこう言った。 「なかなかに重い球だった。だが――これより後半戦ッ!!」  髑髏の仮面の奥から目をギラリと光らせる。  デーモン0号は僕にバットを向けて続けた。 「我々の逆転勝ちが見えたッ!」

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません