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 目に広がるのは真っ赤な画面。  僕の名前はアラン。  世界に混沌をもたらす魔王イブリトスを倒すために立ち上がった勇者だ。  数々のイベントやダンジョンをクリアし、強敵とも言える魔物や魔族を倒して来た。  僕はやっと物語のエンディングに近づいてきたんだ。  そう、ここは魔王城――最終決戦ラストバトルの地だ。  僕は最高の仲間達を集めた。  剣の達人、戦士ブルクレス。  会心の一撃を連発してくれる、武闘家デホ。  パーティをいつも支えてくれた魔法のプロ、賢者オニキア。 「勇者アランよ」  目の前にいる白髪の老魔族が言った。  肌は紫色で龍のような角が生えている。  ドクロの肩当て、深い黒のローブは実に禍々しい。  ――ヤツこそが魔王イブリトスだ。 「最高の仲間、最高の装備品、最高の技や呪文を駆使しても――何故勝てないかわかるか?」  そう……僕は最高のものを築き上げた。  経験を積みレベルも上げ、高度な技や呪文、スキルを身に付けたんだ。  でも、現実は厳しい。魔王イブリトスがここまで強いとは思わなかった。  僕達の磨いた技も呪文も……全て涼しげな顔で受け流した。  信じられなかった。それぞれが得意な方法で攻撃したからだ。 「ア、アラン……すまん!」 「こんなバケモノに勝てるわけがねえ!!」  大ダメージを負っているブルクレスとデホ。  彼らは背を向け、僕達を置いて逃げようとしていた。  まだだ、まだ戦闘は終わっちゃいないのに――。 「待て二人とも!!」  僕は大きく叫んだ。  戦闘はまだ途中だ、何とか知恵を絞れば活路を開くことができる。  でも、仲間達は違っていた。 「俺は常に勝ち続けたい! 悪いが次は強くて勝てそうなパーティに入らせてもらうよ!」 「魔王を倒せば一生贅沢出来ると思って、パーティに入ったのが間違いだったぜ!」  信じていた二人の仲間……。  最後の最後にして本音を語ってくれた。  二人の逃げる姿を見て、僕は何か絶望の淵に落とされたような感覚がした。  裏切られた――期待外れ――そんな気持ちが入り混じる。 「愚かな……魔王からは逃げられない」  イブリトスの呆れたような声が聞こえた。  すると巨大な火球が僕を横切った。  ただ横切っただけなのに、地獄の炎のような熱さと痛みが伝わる。  あれは火属性最上級魔法『イフリガ』……向けられた先はブルクレスとデホだ。 「うぐわ――ッ?!」 「ヒギャアッ!!」  断末魔が最終決戦の場である魔王城に響く。  そして哀れにも、二人は炭屑と化してしまった……。 「先程の話に戻ろう、何故勝てないかわかるか?」 「クッ!!」  僕は急いでオニキアの元に駆け寄る。  イブリトスとの戦闘で、魔力を使い果たした彼女が真っ先に倒されたからだ。 「大丈夫かオニキア!?」 「くう……」  彼女は何とか意識を取り戻した。  大丈夫だ……まだ息がある。  オニキアは目を醒ますと、バンシーのような表情となり叫んだ。 「私……こんなところで死にたくない!」 「オニキア?!」  オニキアはイブリトスの前で跪いた。  祈るようなポーズをとっている。 「お願いします魔王様、何でも致します! 奴隷にしても結構です、だから命ばかりは……」 「お前、何を言っているんだ。僕達は――」 「私はあんたがちょっとカッコイイ勇者だと思って協力しただけよ! だいたい魔王に負ける勇者なんて信じられない!!」 「そんな……」  勇者パーティである僕達一行。  追い詰められた仲間達は、次々と生の感情をぶつけてきてくれた。  そんな自分勝手な人間達の光景を見たイブリトスは哀れみの言葉を言った。 「哀れだな。魔獣以下の精神しか持たぬ者どもに余を倒すことなど不可能」  そう述べると、イブリトスは両手から何かを練りだした。  巨大な黒い雷光が見える――邪悪で無慈悲な塊。  その雷光が僕達に向けて放たれたのだ。  あれは……闇属性と雷属性の合成魔法か!? 「最高のチームでありながら、各々に人を信じる心が欠けている」 「僕はこんなところで――」 ――パーティは全滅した……。 ☆★☆  闇だ……暗い淵へと沈んでいくのが分かる。  これが〝死〟というものなのだろう。  イブリトスは死の間際に言った。 ――最高のチームでありながら、各々に人を信じる心が欠けている。  そうか……僕は最高のものを集めれば魔王イブリトスを簡単に倒せられると思っていた。  強力な武器や防具、技や呪文、スキルを習得すれば必ず勝てると――。  子供っぽい発想だった。  強い仲間さえいれば、どんな魔物も倒せ、あらゆるダンジョンをクリア出来ると錯覚していた。  彼らのことを、冒険をいろどる脇役としてしか見ていなかったのだ。 「……敗北ゲームオーバーになって当然だな」  そうだ、僕自身も主人公勇者として驕り高ぶっていた。  ソロでもイブリトスを倒せる技量があると思っていた。  だからイブリトスとの戦闘開始から、僕は強力な魔法剣や聖属性の魔法を何も考えず乱発していた。  そう冒険当初から仲間に下す作戦は一つだ。 ――『ガンガンいくぜ』  一度も変えずにこの作戦だ。  これまで皆、好き勝手に自分が得意な方法で攻撃していただけだ。  そして、全く連携が取れない状態でもクリアしてきたことがラスボス戦でわざわいした。  そもそも、何故一度も作戦を変えてこなかったのか。  それは僕が仲間を信じていない証拠だ……。  僕には大事なものが欠けていた。人が人を信じる心だ。  僕は――勇者失格だ。 「こんなところで寝てないで起きなよ」 「えっ?!」  僕は飛び起きた。  ここはどこだろうか。確かに死んだはずだ。 「メガデインズの入団テストに遅れちゃうぞ」  目の前には、黒地に派手な花柄のシャツに白ズボンの男がいた。  ちょっと怪しげな黒いハットを被り、神秘的な水色の髪をのぞかせている。  年齢は僕より少し上くらいだろうか……。 「ここは?」 「浪速なにわブレイブスタジアムさ」  僕は何が起こったか理解していないでいた。  どうやら、ここは僕がいた世界とは違うところのようだ。  何故なら目の前に、見たこともない大きなコロシアムがあったからだ。

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