勇球必打!
ep37:鐘刃サタンスカルズ

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 浪速ブレイブスタジアムに突如現れた謎の集団。  そして、鐘刃コミッショナーの唐突なリーグ再編とルール変更の宣言。  それに野球勝負? 以前、元山がそう言って一打席勝負をしたが……。 「や、野球勝負だと?」 「左様、それがしらと勝負してもらう」  僕の質問に仮面の男が答えた。  赤いバットを携えており、口調と中央に陣取る姿からリーダー格であろうことは分かる。  元山が仮面の男に指差しながら言った。 「何が〝それがし〟だよ。侍ジャパン目指してんのか? そもそも、今は京鉄と浪速の試合中だぜ」 「京鉄はこの場をもって消滅する!!」 「な、何ィ!?」  仮面の男がオーロラビジョンを指差すと、中年男性がアップされた。  蝶ネクタイをしている痩せ細った人だ。他の人と同様に目が虚ろで口からは涎を流している。 「京鉄の坂井オーナー!?」 『京鉄バイソンズは消滅致します。京都鉄道親会社の経営がめちゃヤバいんですよね、ハイ。つまり経費削減でなくなりまーす!』 「ちょ、ちょっと待て! いきなり過ぎるだろ!!」  元山が慌てふためく中、仮面の男は言った。 「選手の総入れ替えだ。京鉄の方々にはご退場願おうか」  仮面の男の言葉と共に、花梨監督、コーチ陣も含め京鉄の選手達が続々とベンチ裏に消えていく。  全員、何者かに操られていたのだろう。終始、生気がなかった。  そんな京鉄のメンバーを見た元山は、ベンチへと引き上げようとするレフトの粟橋を呼び止めた。 「あ、粟橋さん! どこへ行くんですか!?」 「しゃむそん……」 「しゃ、しゃむ? 試合はまだ途中――」 「俺は副業のスナック経営で忙しいんだ!」 ――バキッ! 「ぐふっ!?」  元山はベンチで粟橋に殴り倒されて気絶。球場にいる京鉄ファン達は唐突な球団消滅を聞いて、絶望の淵に沈んでいた。 「シーズンが終わってもいないうちに球団が消滅するなんて!」 「ひどい……」 「あァァァんまりだァァアァ」  京鉄の監督も選手がいなくなり、残った僕達は呆然と立ち尽くすしかない。  だが、グラウンドには数名の京鉄戦士達が残っている。即ちオニキア、弁天、判官、金剛の4人。  更に付け加えるとDHのギルノルドはどっかりとまだベンチに座っていた。 「さて、仕切り直しだ。まずは、そこにいるMP無駄遣い女に消えてもらおう」  仮面の男は硬球を取り出すと自らトスし……。 ――ゆらァ……  地面に垂らした赤いバットを下から上へと孤を描きながら持ち上げた。  まるで円を描くようなテイクバックだ。 ――スキル【狙撃】発動。 「無様な失敗をした者はどうなるか覚えておるな」 「そ、その声は!?」 ――特技【雷神斬】!  スキル【狙撃】と特技【雷神斬】を発動させただと!?  あのリーダー格の男は何者なのだ。  それもそうだが、放たれた打球が……。 ――バチッ!  電撃を帯びた硬球打。  狙いはどうやらオニキアのようだ。  もし当たれば……。 「危ない!」  当たってもいい、何とかオニキアを守らねば。受けるならば背中だ、正面の倍は耐久力があるからだ。 「ぐう!」 「ア、アラン!?」  電撃の一撃が当たる、流石に無事とまではいかない。  体中の筋肉という筋肉が痙攣する……。痛みと痺れが全身を覆うが、何とか彼女を守ることが出来た。 「た、大変や!」  マリアムが慌ててマウンドへ駆け寄ろうとするが、国定……いや国定さんが叫んだ。 「来てはいかん!」  仮面の男はボールを仲間から受け取り、空中に投げていた。それも同時に3つ……。 「アラン、そこのメス犬と共に滅殺してくれる!」 ――スキル【狙撃】発動。 「一つ、人の世の生き血をすすり!」 ――特技【風魔斬】! 「二つ、不埒な野球三昧!」 ――特技【火天斬】! 「三つ、醜い浮世の野球人を葬らん!」 ――特技【雷神斬】! 「秘打! 魔撃数え歌!!」  風、火、雷……3属性が込められたボールを3つトスしての魔打。  その打球が僕とオニキアに襲って来る。  三つ同時……ダメだ、この魔打球は避けられそうもない。 ――マジックバリア!  当たる寸前、国定さんが防御呪文『マジックバリア』を発動させて事なきを得た。 「余計なことをしよって」 「野球勝負をするのではなかったのか?」 「フフフ……」  男は不気味に笑うと仮面を取った。 「何者か知らんが、この魔野球人『シュラン』のバットの錆にしてくれる」  シュラン?  どこかで聞いたような名前だが思い出せないが、今はオニキアのことが先決だ。 「大丈夫かい、オニキア」  僕の問いにオニキアは俯き小さく答えた。 「何で助けたの?」 「仲間だからさ」  それを聞いたオニキアは項垂れたままだ。  一方、回復した弁天は大きな体格に似つかわしくないほど怯えている。どうもシュランという男と面識があるようだ。 「お、お主、陰陽ガンリュウにいるハズでは……」 「退団届を提出して辞めたわ。元々体を馴染ませるのと、育成に定評があるガンリュウで野球の技法を習得するためにいただけよ」 「な、馴染む?」 「役立たずどもが知る必要はなし!」  その言葉を聞き、シュランに飛びかかる者がいた。 「どこまでも侮辱しよって!!」 「ま、待て!」  判官だ、河合さんの制止も聞かず怒りで我を忘れている。 ――ガシッ  マジックバリアで弾き返されたボールの一つを握り……。 ――特技【跳躍】!  ハイジャンプすると……。 「特技【竜牙一擲グングニル】で頭蓋骨をカチ割ってくれる!」  あの魔送球を繰り出そうというのか!? 「ノミのようにピョンピョン飛びすぎだぜ!」 「なっ?!」  跳躍した判官の背後に何者かがいた。  見ると京鉄のユニフォームを着ている……これは一体。 「こ、金剛?!」 「ザコキャラは消えな!」  金剛は飛び上がった判官を抱え、空中で体勢を崩す。  あの体勢は見覚えがある、武闘家の特技である……。 ――特技【脳天杭打ち】! 「うがァ!?」 「頭蓋骨をカチ割られたのは貴様の方だったな」  体が地面に激突した判官、嗚咽をあげながら体を捩じらせている。 「ぐぎぎィ……」 「ほ、判官!」  オニキアが判官の元へと急いで行く。  驚くべきは金剛という男だ、先程の技は武闘家の【特技】の一つ。  何故その技が使えるのだ。 「オニキア、俺様がベヒーモスと戦った時のことを覚えているか?」  判官を介抱するオニキアを見て、金剛はそう言った。  ベヒーモス……冒険の終盤で戦った強い魔物だ。 「お前はこう言った。『無駄な動きをしてダメージを受けないで、MPをバカのために使いたくないから薬草を使って』とな」 「あ、あんた……」 「そいつも『無駄な動きをしてダメージを受けた』ってのによ。全然態度が違うじゃないか」  そういえばそういう場面があった。  前衛キャラが肉弾戦に持ち込み、ゴリ押しでベヒーモスとの戦闘に勝った時があった。  その時に回復役のオニキアが、彼に対してそう言ったのだ。 「まさか!?」 「気付くのが遅すぎるぜ!」 ――ビリィ!  京鉄のユニフォームを破き捨てると鍛え上げられた鋼の肉体、そして帽子を捨て去ると武闘家特有の弁髪が現れた。間違いない、彼は死んだはずの武闘家デホだった。

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