勇球必打!
ep77:一振懸命

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 白い光と黒い光がドーム内で混ざる。  鐘刃が投げた黒い回転カオスボルグとスペンシーさんの白い一閃スイングが交錯していた。 「ぬうううゥゥゥッ!!」  肘を外側に抜き、体を開きながらの見事なインコース打ちだ。  しかし、バットとボールが互いに押し合っている。 「消えるがイイイィィィッ!!」  鐘刃の投球モーションは既に終わり、その様子を凝視している。  その表情は絶大な自信から来る傲慢な笑みだった。  そして、勝利を確信したのか……。 「その衰えた体で、我が暗黒の回転を振り抜けるはずがなかろう!」  悔しいが確かにその通りだ。  ブラッドサンダーを応用した魔球ではあるカオスボルグ。  暗黒の力を使った真っスラではあるが、あれは呪文だけに頼った変化球ではない。  元々の鐘刃の身体能力が高いのだろう。目視ではあるがおそらく160キロは越えている。  長年の経験と技でバットに当ててはいるが―― (なんという威力……ッ!)  球威に押されている。  このままでは――  ミシィ……。  バットにヒビが入る。  ミシミシ……。  亀裂音がここまで聞こえる。 「スペンシーさん!」  僕の声にスペンシーさんが答える。 「案ずるな! こんな変化球など――ッ!!」  ミ"シ"ィ"ミ"シ"ィ"……。 「バットにヒビが入りまくっているぞォ! そのままこの世から消し飛べ大僧正アークビショップウウウゥゥゥッ!!」  勝利を確信した鐘刃の咆哮だ。  対するスペンシーさんは白と黒の光に包まれながら―― 「我が神聖なる一撃の前に不可能は無しいいいィィィッ!」 ――グ"ワ"ン"!  体を旋回させて振り抜いたッ!! ――メ"シ"ャ"ッ"!!  バットが粉々になろうともッ!! ――グ"オ"オ"オ"ン"ッ"!!  というおかしな音をたてながらもッ!! 「魔王転生者! 二度とこの世に現れるではない!」  スペンシーさんは自分を信じて振り抜いたのだッ!! ――カ"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ッ"!!  閃光が僕達を包み込む。  メガデインズも……BGBGsも……観客も……。  ドーム内にいる全ての人間と魔物達は大きな光で見えなくなった。 「うぎゃああああああああああァァァ――ッ?!」  誰かの断末魔が聞こえた―― ☆★☆  フッ……。  ボールが空中で浮いていた。  勝ったのは鐘刃か? スペンシーさんなのか?  パシッ。  勝負の前に革製の球体――つまりはNPBの公式球をグラブで掴む音がした。 「アウト!」  球審の万字さんの声だ。  どうやら無事だったらしい。  ということはこの打席の勝負は鐘刃の勝利ということだろう。  その前にボールを掴んだのは誰なんだ? やはり鐘刃か……。 「クワカッカッカァー!」  いや違う。鳥の亜人だ。  あいつは――鳥人間フレースヴェルグのフレスコムというヤツだ。  鳥人という空中を飛べる特殊な体躯を活かしてボールをキャッチしていた。 「むぅ……」 「スペンシーさん!?」  打席にはスペンシーさんはいた、生きてはいたが―― 「最大出力の聖闘気セイクリッドドライヴでもダメだったか」  闘気と魔力を使い果たしたのだろう。  鍛え上げらえた太い体は縮まり、急激に老化していた。  腕も、脚も、胴回りも細くなっている、顔のシワは一層刻まれている。 「ハァハァハァ……」  鐘刃はマウンド上で、四つ這いとなり崩れ落ちていた。  ユニフォームは少し破れ、息を乱し、大量の汗をかいている。  その姿を見たアルストファーとゼルマは素早く駆け寄る。 「か、鐘刃様!」 「ご無事ですか!?」  二人の声に鐘刃は伏せたまま答えた。 「危なかった――正直危なかったぞ。命を懸けた一撃は『よきかな』と褒めてつかわす」  そして、鐘刃は立ち上がると高笑いした。 「ハハハッ! この勝負は私の勝ちだ! これで二度と聖闘気セイクリッドドライヴを使えまい!!」  よろめきながらも何とか立ち上がったスペンシーさん。  鐘刃を指差し震えながら言った。 「確かにバットで振り抜いた――私はヘッドを向け、ピッチャー返しになるようコントロールさせたハズだ」 「不思議に思うかね?」 「感触は完璧だった。確実に私はカオスボルグを攻略したはずだ」 「ああ……打った。確かに貴様は私のカオスボルグを打ったよ」  その言葉と共に三塁側の内野応援席にいるマリアムの声が響いた。 「ああーっ! う、後ろにおった魔物達がおらへんで!?」 「な、何だって!」  僕はベンチから出てマリアム達がいる応援席を見ると、鐘刃に招待されていたBGBGsを応援する魔物達の一部がいなくなっていた。  どういうことだ……僕が不思議に思っていると鐘刃は言った。 「魔物どもをマウンドに召喚して肉壁にさせてもらった。相当な光の一撃だな、盾にした魔物達の骸を残さず全て消し飛んでいる」  何ということだ。  部下であり、BGBGsを応援する魔物達を盾にしたというのか。  それには二塁と三塁上にいる、安孫子さんやネノさんは怒りの声を上げた。 「な、なんてヤローだ! 自分のチームを応援するファンを何だと思っている!!」 「どこまで汚いヤツなんだ」 「何とでもいえ。勝つことが最大のファンサービスだ」  一塁の国定さんは冷静な口調であるが、 「何がファンサービスだ。生き物の命を何だと思っている」  と手を強く握りしめている。 「ザコモンスターは私の道具アイテムに過ぎん。道具アイテムをどう使おうと私の自由……ヤツらも私のために死ねて本望だったろう」  魔王転生者の残酷な言葉だ。  魔物を……部下を……命をヤツは道具アイテムと言い切った。  BGBGsに選出された魔物達は、鐘刃の言葉を聞いて何とも思わないのだろうか。  グラウンドにいる彼ら――人間であるデホやブルクレスも表情を崩さず一塁ベンチへと戻る。  彼らは魔王転生者に従うのは何故なのか……僕には理解出来なかった。 「結果はスリーアウトチェンジ……次は我々の攻撃だ」  マウンドに残った鐘刃は悠々と自軍ベンチへと歩みを進めている。  その顔は悪びれず勝ちを確信した表情だ。  でもここまで僕達が3-0とリードしている状況は変わらない。  このまま0点に抑え、命を何とも思わない外道には必ず勝たねばならない。 「うぐっ……!」  僕が必ず勝利をもぎとると決意したときだった。  スペンシーさんが打席で倒れてしまったのだ。  マックスで繰り出した聖闘気セイクリッドドライヴの代償は大きかったのだ。

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