勇球必打!
ep6:野球戦士

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 ドラフトという会議を終わった翌日、僕は不思議な乗り物に乗っていた。  四角い鉄の箱で、車というものらしい。  マリアムの話では、この世界の馬車のようだ。  この世界にも馬車はあるのだが、既に古いアイテムとして扱われているとのことだ。 「よっしゃ、ここで降りるか」  この車という乗り物を運転しているのはマリアムだ。  僕はマリアムと同じように、ベージュのハンチング帽とダークブラウンのエプロンを装備している。 「ボチボチ始めるか」  マリアムはそう述べると、車から降りた。  僕はどうしていいか分からず眺めている。 「眺めとらんと、あんたも店の商売を手伝うんや」  僕はマリアムに注意される、そうは言っても車の扉の開かない。  盗賊のカギか魔法のカギが必要に違いない。 「えーっと、どこかにカギは……」 「あーっ! もう!!」  マリアムはプリプリとしながら車の扉まで行き開けてくれた。  どうやら取っ手状のものを動かせば開く仕組みらしい。 「いつになったら、この世界の常識になれんねん」  文句を言われても困るのが正直なところだ。  僕はこの世界に来て間もないのだ。 「ホレ、さっさと車の後ろから商品出しなはれ」 「はい」  僕はテンプレ的な返事をすると商品を取り出しにいく。  クエスト通商の商品を売る行商だ。  旅の商人には世話になることが多かったが、まさか自分がなるとは。  僕は黙々とミソという茶色い壺や、スムージーなるポーションのようなアイテムを道に並べる。 「今日は売りまくるで!」  背伸びしながらマリアムは気合を入れていた。  その姿はまるで道具屋のようだ。そんな彼女を見てふと疑問に感じた。 「そういえば、マリアムが何で神に仕えているんだ」  アルセイスは森のダンジョンで出てくるザコキャラだ。  そんな魔物が何故、神に仕えているのか気になったのだ。  マリアムはフゥと息を吐き、人差し指を立てて説明し始めた。 「ある日、経験値稼ぎでザコ狩りしとった女冒険者と出くわしてな。そいつに運悪く出会って半殺しや。アカン、と思った時に命を救ってくれたのがオディリス様やねん。それ以降、あの方に仕えるようになった」  ちょっと素朴な疑問を感じる。  わざわざ神様がザコキャラのアルセイスを助けるのだろうか。 「あの人は気まぐれな神様やで」  マリアムはそう答え、僕達は淡々と商品を並べ終える。  ひと段落済んだので、僕はもう一つ質問することにした。 「もう一つ質問をいいかい」 「ええで」 「何でこの世界にオディリスはいるのか、マリアムは知ってる?」  僕にはもう一つ疑問がある、この世界に何故オディリス達がいるのだろうか。  神として僕がいた世界の監視もせず、どうして異世界にいるんだろうか。 「一言でいうと趣味やな」 「しゅ、趣味?」 「オディリス様は異世界巡りがマイブームでな。色々な異世界を巡ってるうちにここに来た。この世界で行われる野球というゲームを大層気に入ってもうたという話や」  なるほど異世界巡りが趣味か。  それにしても何でまた野球なのか。 「さぁ商売開始や。あんたもしっかり働いてもらうからな!」 「は、はい!」 ☆★☆ 「こ、このコカトリスエッグのクッキー下さい」 「ありがとうございます。350ゴールドになります」 (ゴ、ゴールド?)  売り上げは好調だ。  何故か若い女性ばかりに売れるのが謎であるが。  傍で会計をするマリアムがじっとこちらを見ている。 「イケメン効果バツグンやな」 「えっ?」 「あの人、素敵じゃない」 「外国の人かしら……」 「超カッコイイ♡」  いつの間にか女性の集団が列をなして並んでいる。  何にせよ、お客さんがこんなに来ているのはいいことだ。 「ずっと、こっちの世界におってもええかもな」  マリアムはニヤニヤ笑っている。  どことなく目がゴールドマークに見えなくもない。 「おう……あんたが碧アランか」  突然だった。  お客さんの列に、フードを被った男が割り込んだ。  ビスタ色の服に白いズボン。靴は黒い革靴だ。 「見た目は優男だな」  男の眼光は鋭い、肩幅も広く筋肉質だ。  背中には何か黒い剣袋を背負っている。  どこかの戦士だろうか。 「誰よアンタ!」 「急に割り込まないでよ!」  何人かの女性客は男にブーイングだ。  そりゃそうだろう、列の割り込みはご法度。  だが、男は悪びれず女性客に逆ギレだ。 「やかましい! 俺はコイツに話しとるんじゃい!」 「ひっ……」  男の剣幕に押され女性客が怯んだ。  僕は勇者として、男の蛮行を見過ごすことは出来なかった。 「やめろ、この人達に危害を加えるな!」 「フン……ちょいと顔が良いからって、活躍しないうちにチヤホヤされやがって」 「僕に何の用だ」 「ふふっ!」  すると男は剣袋から棍棒を取り出した。  野球で使用するバットだ。  ということはこいつの職業クラスは……。 「野球戦士!?」 「いや……ソレ違うやろ」  マリアムの突っ込みが入りつつも男は続けた。 「キサマに男と男の決闘を申し込む!」  回りがざわめき始めた。  イベントの発生だ。 「決闘?」 「そう決闘。方法は1打席のみの野球勝負」  すると男はバットで何かを指した。  公園らしき広場がある。  よく見るとそこには小さなコロシアム、つまり野球場があった。  そこで戦闘バトルをするのだろうか。  どちらにせよ、周りの人達に迷惑をかけないか心配だ。 「おもろそうやん。 その話のったで!」 「お、おい勝手に……」  マリアムが勝手に話を承諾してしまった。  男はそれを聞くと上機嫌だ。 「ハハッ! そこのマネージャーは話が早くて助かる」  イベントはそのまま進んでしまった。  イベントバトルのスタートだ。男の目的は何なんだろうか。  僕は流されるまま、男の後について公園へと向かった。 「見せてもらうぞ、碧アラン。君が投手ピッチャーとしての可能性があるか」 「誰やおっさん?」 「ん……私はスカウトの……」  後ろでマリアムが誰かと話す声がしたがどうでもよかった。  僕は男の背中から発せられる気迫を肌で感じていた。  針で刺すような闘気、こいつは只者ではない。

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