勇球必打!
ep3:実技試験

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 パーティは、黒い土と緑の芝生が入り混じるフィールドに集まっている。  ここまで残ったキャラは僕を含めると数名だけだ。 「これから守備の実技テストを行う」  フィールドの中央には、ニシキさんと数名。  ニシキさん以外は何やらメモを取っているようだ。  ちなみにクロノ達は別の場所へと移動。  そこでは違うイベントが発生しているのだろう。 「内容は最初にコロンビアノック、続いてアメリカンノックだ」  ニシキさんは棍棒を握っている。  まさか、実技テストというのは戦闘のことだろうか。 「それでは各々グラブをつけて集まれ!」  皆、それぞれ散っていき、大きな袋から革製のナベつかみを取り出している。  何だか防御力が低そうな防具だ。 「待て、お前グラブを持っているのか」  ニシキさんが僕に話しかけてきた。  何もしないで皆の様子を見ていたからだろう。 「グラブ?」 「まさか、道具を全部忘れたのか」  僕はギロリとニシキさんに睨まれた。 「道具を忘れるなんて小学生かよ」  すると、後ろにいた赤を基調とした服の人にからかわれた。  被っているキャップから目を覗かしている。僕と一緒に残ったメンバーだ。  ちょっと垂れ目で僕より背が高い。体は細いが、見た感じ鋼鉄線を束ねたような肉体だ。 「だいたい服装からしてシュール過ぎるだろ。何のギャグ漫画だよ」  垂れ目の男はヘラヘラと笑みを浮かべている。  感じの悪い男とパーティを組まされたものだ。  不穏な空気が一瞬流れたが、垂れ目の男が少し呆れながら言った。 「俺の道具を貸してやるよ」 「いいんですか」 「予備があるからな」  垂れ目の男がニシキさんを見て言った。 「いいだろ?」 「ああ」  僕は道具を貸してもらうことになった。 「ありがとうございます」 「いいってことよ」  最初は感じの悪い男と思っていたが、どうやら僕の思い込みだった。  人をちょっとしたことで判断してはならない……改めてそう思った。 ☆★☆ ――カン! 「は、速……ッ」 「なんつゥ打球だよ」  既にコロンビアノック、という実技が始まっていた。  説明ではイチルイ』からサンルイという白い台座まで走り抜け、真ん中から左右ランダムに放つ玉を取る試験だ。  ニシキさんは強烈な打球を放つ。打ち放れた玉を殆どの人は取れないでいる。 「次! 釈迦ヶ岳しゃかがたけ大学、河合かわい!!」 「やっと、この河合子之吉ねのきち様の出番か」  僕に道具を貸してくれた男はカワイという名前らしい。 「お兄さん、俺の動きをよく見ときな」  カワイは何故か僕にそう言った。  何だろう? どこか僕を意識しているような。 「いい風だ。守備日和だね」  カワイは悠々と立った。  無駄な力みもなく、素早く動かすには説得力のある姿勢だ。  その雰囲気から、他の人達とは違うことが一目で分かった。 「いくぞ!」  ニシキさんは籠から白い玉を取り出し棍棒で強く打つ。  カワイは静かに素早く走り抜け、舞うように玉を華麗に捌いていった。 「すっげぇな」 「あいつ知ってるか?」 「知らねえ」  僕達はその見事な動きに見とれていた。  きっと職業クラスは武闘家か盗賊シーフ……裏をかいて踊り子ダンサーか。 「あらよっと!」  カワイは次々と玉を捌いていく。  実技は無事終了、チラリと僕を見て言った。 「次はお前さんだぜ」  そう、いよいよ僕の出番だ。 「次! クエスト硬式野球倶楽部、碧!」  アオイ……。  そうか、あの黒いハットの男が勝手につけた名前だ。  登録名みたいなのものだろう。  冒険の途中でも、名前を変更出来るほこらに立ち寄ったことがある。  それに似たものだろうか、全く人の名前を勝手に変えるなんて。 「早くしろ」 「す、すみません」  冒険の日々を思い出していたら注意された。そう、今はイベントの真っ最中。  僕は黒い土のフィールドに立った。  柔らかいが良い土だ。感触も心地いい、これならいい動きが出来そうだ。 (ちょっと真似してみるか)  僕はあのカワイのように力みを抜いた。  彼の動きを思い出し、軽く膝を曲げ腰を落とす。  なるほど、これなら無駄な力を入れずに動けるというわけか。  鎧の重みを感じ、もっと動きやすい服を着るべきだと思った。 「いくぞ!」 ――カン!  強烈な一撃を込めた玉が放たれた。もちろん僕は玉を追いかける。 ――ザッ! (……間に合う大丈夫だ)  冒険途中で戦った『デッドラビット』よりはマシだ。  デッドラビット、兎型の魔物だ。見た目は可愛いが人間を噛み殺す凶暴な魔獣。  あの素早い不規則な動きに比べると捉えやすい。 ――ガシ!  僕は素手で玉を取った。このグラブを使うより手っ取り早いと思ったからだ。  その光景を見たニシキさんは呆れて言った。 「お前……ケガをするぞ」 「え?」 「まあいい。次いくぞ!」 ――カン!  次々と強烈な玉が放たれるが、僕は難なく素手でキャッチしていく。 「セオリー無視じゃん」  カワイの唖然とした声が聞こえたが気のせいだろう。 ☆★☆  テストはまだまだ続く、今度は芝生のフィールドだ。  今度はアメリカンノック、という実技を行うようだ。  右から左まで走り、真ん中のフィールドで玉を取るという試験だ。 「ハッ!」  僕は走り抜けるも、途中で大きくジャンプして玉を空中で掴んだ。  竜騎士とまではいかないが、これくらいの射程圏なら十分に捕れる範囲だからだ。  地面に一回転して着地すると、他の人達が待っているフィールドまで走っていった。 「あんた人間か?」  受験生の一人が僕を指差して言った。  察するに人知を超えたものを見てる表情、他のパーティメンバー全員もそうだ。  この程度の能力は、魔物と戦っているうちに身につくものではないのか? ☆★☆  次はダゲキというイベントが始まった。  白い四角の線が左右に敷かれており、真ん中には白い台座が置かれている。  皆が行う様子を見ると、左右どちら側にも立ってもいいようだ。  遠くから投擲する玉を棍棒で打つ実技のようだ。 「球は全部で10球……始めるぞ」  ニシキさんの話では、玉は10回こちらに飛んでくるらしい。  僕は静かに左側の四角に立った。  手に持つ棍棒は両手で持ち霞の構えを取る。棍棒の先を相手に向けるスタイルだ。 「漫画みたいな構えだな」 「あんなんで打てるわけねーよ」  カワイ達、他のパーティメンバーの小声が聞こえた。  僕と言えば相手に集中するだけだ。 「へっ……」  玉を投げる人と目が合った。  ニシキさんと同じデザインの服と帽子だ。 「どんなもんだか」  玉を投げる人は中年のおじさん。  くたびれた感じの人だが、経験豊富な冒険者の風袋ふうたいだ。  両手を挙げ、次に左足を大きく上げて右足に体重をかけている。 ――ブン!  右手から玉が投げられた。  速さはそこそこ、悪徳魔導師ソーサラーが繰り出す火球と同じ程度だ。  僕はタイミングを合わせ、棍棒を振り上げると……。 「やっ!」  上から下へと叩きつけた。  玉はバックスピンがかかり、低い弾道を描いて左側へと飛んでいった。 「だ、大根斬り?」 「フォロースルーも無茶苦茶じゃん」  カワイ達は僕を見ながら呆れと驚きの表情だ。 ――カン!  僕は残り全ての玉を打ち返した。 「ちゃんと野球教えてもらったのかよ」  カワイは呆れた表情を浮かべている。  何かいけないんだろうか?

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