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 パーティは、黒い土と緑の芝生が入り混じるフィールドに集まっている。  ここまで残ったキャラは僕を含めると数名だけだ。 「これから守備の実技テストを行う」  フィールドの中央には、ニシキさんと数名。ニシキさん以外は何やらメモを取っているようだ。  ちなみにクロノ達トウシュは、別の場所へと移動。そこでは違うイベントが発生しているのだろう。 「内容は最初にコロンビアノック、続いてアメリカンノックだ」  ニシキさんは棍棒を握っている。まさか、実技テストというのは戦闘のことだろうか。 「それでは各々グラブをつけて集まれ!」 ――ハイ!  残った人達は大きな声を出した。その声はまるで山賊のようで荒々しい。  皆、それぞれ散っていき大きな袋から革製のナベつかみを取り出している。  何だか防御力が低そうな防具だ。 「待て、お前グラブを持っているのか」  ニシキさんが僕に話しかけてきた。何もしないで皆の様子を見ていたからだろう。 「他のテスト生はグラブをつけとるのに、お前は何もつけとらんぞ」 「グラブ?」 「そういえばバットも持ってなさそうだな。その様子、まさか道具を全部忘れたのか」  僕はギロリとニシキさんに睨まれた。 「道具を忘れるなんて小学生かよ」  すると、後ろにいた赤を基調とした服の人にからかわれた。  被っているキャップから目を覗かしている。僕と一緒に残ったメンバーだ。  ちょっと垂れ目で僕より背が高い。体は細いが、見た感じ鋼鉄線を束ねたような肉体だ。 「だいたい服装からしてシュール過ぎるだろ。何のギャグ漫画だよ」  垂れ目の男はヘラヘラと笑みを浮かべている。感じの悪い男とパーティを組まされたものだ。 「……」  ニシキさんといえばジッと僕を見ている。  不穏な空気が一瞬流れたが、垂れ目の男が少し呆れながら言った。 「しょうがないから俺の道具を貸してやる」 「いいんですか」 「予備があるからな」  垂れ目の男がニシキさんを見て言った。 「試験官さんもいいだろ?」 「いいだろう」  僕は道具を貸してもらうことになった。 「ありがとうございます」 「いいってことよ」  最初は感じの悪い男と思っていたが、どうやら僕の思い込みだった。  人をちょっとしたことで判断してはならない……改めてそう思った。 ☆★☆ ――カン! 「は、速……ッ」 「なんつゥ打球だよ」  既に『コロンビアノック』という実技が始まっていた。  説明では『イチルイ』から『サンルイ』という白い台座まで走り抜け、真ん中から左右ランダムに放つ玉を取る試験だ。  ニシキさんは強烈な打球を放つ。打ち放れた玉を殆どの人は取れないでいる。 「次! 釈迦ヶ岳しゃかがたけ大学、河合かわい!!」 「フフフ……やっとこの河合子之吉ねのきち様の出番か」  僕に道具を貸してくれたのはカワイという名前らしい。 「近畿圏の大学野球じゃあ五本の指に入る守備力……見せてやるぜ」  カワイは悠々と立つ。無駄な力みもなく、素早く動かすには説得力のある姿勢だ。  その雰囲気から、他の人達とは違うことが一目で分かった。 「いくぞ!」  ニシキさんは籠から白い玉を取り出し棍棒で強く打つ。  カワイは静かに素早く走り抜け、舞うように玉を華麗に捌いていった。 「すっげぇな」 「あいつ知ってるか?」 「知らねえ」  僕達はその見事な動きに見とれていた。  きっと職業クラスは武闘家か盗賊シーフ……裏をかいて踊り子ダンサーか。 「あらよっと!」  カワイは次々と玉を捌いていく。  実技は無事終了、チラリと僕を見て言った。 「最後はお前さんだぜ」  そう、いよいよ僕の出番だ。 「次! クエスト硬式野球倶楽部、碧!!」  アオイ……。  そうか、あの黒いハットの男が勝手につけた名前だ。  登録名みたいなのものだろう。  冒険の途中でも、名前を変更出来るほこらに立ち寄ったことがある。  それに似たものだろうか、全く人の名前を勝手に変えるなんて――。 「早くしろ」 「すみません、直ぐに行きます」  冒険の日々を思い出していたら注意された。そう、今はイベントの真っ最中。  僕は黒い土のフィールドに立った。  柔らかいが良い土だ。感触も心地いい、これならいい動きが出来そうだ。 (ちょっと真似してみるか)  僕はあのカワイのように力みを抜いた。彼の動きを思い出し、軽く膝を曲げ腰を落とす。  なるほど、これなら無駄な力を入れずに動けるというわけか。  鎧の重みを感じ、もっと動きやすい服を着るべきだと思った。 「いくぞ!」 ――カン!  強烈な一撃を込めた玉が放たれた。もちろん僕は玉を追いかける。 ――ザッ……! (……間に合う大丈夫だ)  冒険途中で戦った『デッドラビット』よりはマシだ。  デッドラビット、兎型の魔物だ。見た目は可愛いが人間を噛み殺す凶暴な魔獣。  あの素早い不規則な動きに比べると捉えやすい。 ――ガシ!  僕は素手で玉を取った。このグラブを使うより手っ取り早いと思ったからだ。  その光景を見たニシキさんは呆れて言った。 「お前……ケガをするぞ」 「え?」 「まあいい。次いくぞ!」 ――カン!  次々と強烈な玉が放たれるが、僕は難なく素手でキャッチしていく。 「セオリー無視じゃん」  カワイの唖然とした声が聞こえたが気のせいだろう。 ☆★☆  テストはまだまだ続く、今度は芝生のフィールドだ。今度は『アメリカンノック』という実技を行うようだ。  右から左まで走り、真ん中のフィールドで玉を取るという試験だが……。 ――バシィ!  僕は走り抜けるも、途中で大きくジャンプして玉を空中で掴んだ。  竜騎士とまではいかないが、これくらいの射程圏なら十分に捕れる範囲だからだ。  地面に一回転して着地すると、他の人達が待っているフィールドまで走っていった。 「あんた人間か?」  受験生の一人が僕を指差して言った。  察するに人知を超えたものを見てる表情、他のパーティメンバー全員もそうだ。  この程度の能力は、魔物と戦っているうちに身につくものではないのか? ☆★☆  次はダゲキというイベントが始まった。  白い四角の線が左右に敷かれており、真ん中には白い台座が置かれている。  皆が行う様子を見ると、左右どちら側にも立ってもいいようだ。遠くから投擲する玉を棍棒で打つ実技のようだ。 「投げる球は全部で10球……始めるぞ」  ニシキさんの話では玉は10回こちらに飛んでくるらしい。  僕は静かに左側の四角に立った。  手に持つ棍棒は両手で持ち霞の構えを取る。棍棒の先を相手に向けるスタイルだ。 「漫画みたいな構えだな」 「あんなんで打てるわけねェじゃん」  カワイ達、他のパーティメンバーの小声が聞こえた。  僕と言えば相手に集中するだけだ。 ――ギロ……  玉を投げる人と目が合った。  ニシキさんと同じデザインの帽子だ。また服はアイボリーホワイトに黒い縦縞が入っている。  胸には何やら記号が書いているが読めなかった。 ――スッ……  玉を投げる人は中年のおじさん。  くたびれた感じの人だが、経験豊富な冒険者の風袋ふうたいだ。  両手を挙げ、次に左足を大きく上げて右足に体重をかけている。 ――ブン!  右手から玉が投げられた。  速さはそこそこ、悪徳魔導師ソーサラーが繰り出す火球と同じ程度だ。  僕はタイミングを合わせ、棍棒を振り上げると……。 ――カン!  上から下へと叩きつけた。  玉はバックスピンがかかり、低い弾道を描いて左側へと飛んでいった。 「だ、大根斬り?」 ――カン! 「フォロースルーも無茶苦茶じゃん」  カワイ達は僕を見ながら呆れと驚きの表情だ。 ――カン!  僕は残り全ての玉を打ち返した。 「ちゃんと野球教えてもらったのかよ」  カワイは言った。  ヤキュウ――ニシキさんも同じ言葉を言っていた。  これは『ヤキュウ』というイベントだったのだろうか。

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